8. 驚異ゼロおっぱい
休み時間の教室。
「ねえ、そう言えば『お礼』ってなんのこと?」
「おれい?」
唐突にエレインが俺の席に来て質問してきた。
「そっちこそなんのことだ?」
「ほら、前のダンジョン授業あったじゃん?
あのときに、ルーコちゃんとレモンちゃんが『お礼』にパーティを組んでくれるって言っていたよね」
「ああ……そのことか。
ルーコが悪魔召喚に失敗して困っているところを俺が助けたんだ。
おっぱいは揉んでいない」
おっぱいを揉んだことを隠しつつ、うまく誤魔化して伝える。
「レモンもだいたい同じだ。
ゴブリンに襲われているところを助けたんだ。
おっぱいは揉んでいない」
よしよし、これでうまく誤魔化せたな。
「わたしがスライムに襲われたときは?」
「エレインも同じだ。スライムに襲われているところを助けた。
おっぱいは揉んでいない」
「揉んだじゃん!」
「そうだった、揉んだ」
うっかり誘導尋問に引っかかるところだった、危ない危ない。
「わたしのときは、攻撃力がレベルアップしてスライムを倒せたよね。
レモンちゃんたちも同じ?」
「いや、レモンのときは体力がレベルアップして、ルーコのときは魔力だった」
「ふーん、なるほどねぇ……」
エレインが気が付かないうちに、早くこの話題を終わらせたい!
そうだ、話題を変えよう。
「お、俺のスキルには、おっぱいに癒しの効果を与えられるらしいぞ!」
「そう言えば、あのとき揉まれたところがじんと熱くなって、楽になった!」
「だろ? ハスリア先生のときも同じようなこと言っていた。
あ、先生のおっぱいは揉んでいない」
「じとー……」
やばい、誤魔化しきれない!?
「と、とにかく、俺のモミモミはおっぱいが癒されるんだ!」
思わず声を張り上げると、後ろから誰かが話しかけてきた。
「ぐぇへへ! 俺様のときは何もなかったな!」
「ええっ!
オパールったら、ノーキンくんのおっぱいまで揉んだの!?」
「ち、違う! あれは仕方なく! 本意ではない!」
「ノーキンくん以外は本意——わざとだったの!?」
「そ、それも違う!」
「オパール、ちょっとついて来て!」
エレインが俺を教室の外に引っ張り出す。
「ぐぇっへっへ、俺も行くぞ!」
「おまえは来なくていい!
そうだ、校門のところにこの前のローパーが来ていたぞ。
おまえに会いに来たんじゃないか?」
「なんだと? 俺様も隅に置けないな!
ちょっくら行ってくるか」
◆ ◆ ◆
体育用具の倉庫。
薄暗く誰もいないそこへ、エレインは俺を引っ張り込んだ。
「ごめん、本当は揉んだんだ……!
教室で話すと、誰かが聞いている可能性があると思って。
誰かに聞かれたら、彼女たちが恥ずかしい思いをするだろう?」
「それもそうだね。
そのことに気が付かないあたしも、うかつだったよ。
で、揉んだんだよね? なんで?」
「あのときは……レモンのときは偶然手が触れたんだ。
触れたらいつの間にか揉んでいたから、偶然の事故だ」
「ルーコちゃんのときも偶然?」
「あのときルーコは、悪魔によって意識がない状態だった。
だからルーコのおっぱいを揉んだんだ。
必然だったんだ!」
「どういうこと……?
もしわたしがここで意識を失ったら、勝手にわたしのおっぱいを揉むの?」
「い、いやそんなことは……」
「もし偶然、手が胸に当たったら揉み始めるの?」
「しない、しない!
……と思う」
考えるだけでも、おぞましい。
が、実際には、過去に俺は何度も揉んでしまっていた。
プールで助けた2人も含めて。
「ほんとかな……?
確かめるだけだから、い、1回だけね?」
そう言ってエレインは俺の右手を取り、自分の胸に重ねた。
柔らかい。
——ふにふにふにっ
たしかにこれは、エレインのおっぱいの感触だ。
学校の帰り道やダンジョンでの感触と同じだから俺にはわかる。
「や、やっぱり揉むんじゃん!
1回って言ったのに、3回も!」
はッ!? 俺は何を!?
無意識に揉んでいただと!?
《ぴー! 3回モミモミを確認しました。攻撃力を3レベルアップします》
女性アナウンスが聞こえる。
「この声……あの時にも聞こえた——」
「ああ、俺がおっぱいを揉むと聞こえるアナウンスだ」
「いったい誰なの?」
「わからん」
《ぴー!
ワタシは『おっぱい揉んだらレベルアップ』スキルのアナウンスです。
誰でもありません》
「うわ、返答した!?
おまえ会話できたのか!」
《できますが、なにか?》
「誰でもないって、どういうことなの?
姿はないの?
スキルの概念がしゃべっているの?」
《このピンク髪の子、さといですね〜。
エレインちゃんでしたっけ?
だいたいその認識で合っています》
「姿がない、ということはおまえは『おっきいおっぱい』ではないんだな?」
《よ、予想外の質問ですが、答えはYesですね》
「良かった……これで安心しておまえの声を聞けるよ」
《おっきくないどころか、ちいさくもありませんよ。
バストサイズは驚異の0cm!
なにしろ声だけで肉体が存在しませんからね》
「ねえアナウンスの人!
あなたはこのスキルのこと、やっぱり詳しいの?」
《もちろんです。
たとえば揉む相手のサイズや重量、相性によって効果が変化することや、生でおっぱいを揉むと相手のスキルを使えるようになること、などなど答えられますよ》
そうだったのか!
先生に質問するよりこのアナウンスの子に聞いた方が早かったな。
「しかし、アナウンスの子って言いにくいな……?
よし、今日からおまえは『アナウン子』だ!」
「あなうんこ?」
《アナウン子……》
「どうだ、気に入ったか?」
アナウンスの子だからアナウン子。
我ながらなかなかのネームングセンスだ。
《はい!! 気に入りました!
今までワタシに名前を付けてくれた人なんていなかったので……!
とっても嬉しいです!
ありがとうございますぅ〜! きゃっきゃっ》
「それから、さっき『話しかけられた時以外は喋らない』と言っていたが、これからはおまえが話したいときに話しかけてもいいからな?」
《わ、わかりましたオパー……いえ、マイマスター!》
「アナウン子ちゃん!
わたしがオパールを倉庫に連れ込んでおっぱいを触らせたこと、みんなには内緒にしてね?
恥ずかしい子だと思われたくない……」
《わかりました、エレインちゃん。
ワタシはアナウンス以外は基本的に訊かれたことしか話しませんが、それは訊かれても話さないようにしますね》
◆ ◆ ◆
——キーンコーンカーンコーンコーン!
しまった! 休み時間が終わる!
「オパール、早く戻ろっ!」
これからは、アナウン子という強力な味方を得てスキルが使えそうだな。
何か忘れている気もするが、俺は期待に胸を膨らませて教室へ駆け戻る。
「ぐおおお!
ローパー、どこにもいねえじゃねえかッ!!」
遠くの方で誰かの叫びが聞こえた。
次回、あの子のステータスが、まる見えに!?
お楽しもみに!
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