49. くるくるおっぱい
最初のオークを倒した俺たちパーティは、竹林の中を次の目的地へ急ぐ。
「うわあああ!」
「きゃー!」
戦場に近づくにつれ、生徒と思われる悲鳴が聞こえてきた。
まさか……!
竹林をかき分けて進むと、怯えた様子の茶髪の女子が目に入った。
「アキ! どうしたんだ! みんな無事か!?」
「あ、あたいは無事っす! それより、あ、あれ……!」
アキの指差す方向には——
「ぐえっへっへっ! このオスは俺様のメスだぜ!」
頬を赤らめたオークに抱きつかれ、ニヤついている男子生徒——ノーキンが立っていた。
「な、何があったんだ?」
「わからせ……あいつが、オークを『わからせ』たっす……」
要領を得ない。
周囲を見回す。
ここには2匹のオークがいるはずだが、もう1匹のオークはいない。
とりあえず生徒たちは全員無事のようだ。
ただ、全員ノーキンに対して怯えているのか?
ノーキンパーティの男子生徒までが怯えている。
「ひいい、『わからせ』は嫌でやんす!」
「とりあえず、ここの2匹のオークは無力化できたってことでいいんだな?」
怯えながらもコクコクと頷く一同。
「おまえのステータス・オープン!」
アキに手をかざして、彼女のステータスを確認する。
《状態異常:恐怖》
「何か恐ろしいものを見てパニックになっているようだな」
「でも、時間経過で落ち着けば治る状態異常だわ」
怯えている生徒はざっと見て10人近くいる。
その全員の回復を待っている時間はない。
「ここはこの俺様にまかせろ!
全員が回復したら絶対に追いつくから、てめえらは先に行け!」
「頼んだぞ、ノーキン!
俺たちは他のオークと戦っているところへ合流しよう!」
「ハイドンシークで調べておいたわ。残りはボスオークのみ……!」
◆ ◆ ◆
俺たちのパーティは竹林の最奥、ボスオーク地点を目指す。
それにしても——
「どうしたのオパール? 考えごと?」
エレインが俺の顔を覗き込んできた。
「ああ、タテロルのパーティって女の子だけだろ?
普通にオークと戦っていたら危なかったのかなって」
「そっか、オークは女の子を襲う習性があるしね」
「女の子だけのパーティだったら、誰かが危険な目に遭っていてもおかしくはなかった。
だから、ハナマールはあらかじめノーキンのパーティと合同で戦えるように布陣を敷いたのかなって」
「あっ、そうかも!?」
ハナマール、認めたくはないが流石だな。
◆ ◆ ◆
「ボクはッ! 生徒会長にして御曹司にして学園理事長の孫で、イケメン・イケボで学年首位のッ! ハナマールだッ!!」
「オ〜ックックック! それはさっきも聞いたでしゅよ!」
竹林の奥から、激しく何かがぶつかり合うの音と、ハナマールの名乗りの声が聞こえてくる。
「何度でも聞かせてやるのだよ!
ボクの肩書きとプライドにかけて、彼女たちには近づかせない!」
——ドンッ!
一際、何かがぶつかったような大きな音。
この竹林の向こうで戦闘が行われている!
足早に音の方角へ向かう。
「こ、これは!?」
少し開けた場所に、ハナマールの取り巻きの女の子たちが傷ついて倒れていた。
「み、みんな大丈夫?」
「今すぐ回復スキルを!」
「敵は!?」
戦闘の形跡はあるが、近くにオークとハナマールはいない。
「ハナマール様は、わたしたちにオークを近づけさせまいと、オークを道連れにして崖から落下を……」
ぐったりとした女の子が、崖の方を指差す。
「オパールくん! 回復の手が足りない!!」
女の子たちに回復スキルを使っていたスミレが、悲鳴をあげる。
今、治癒系のスキルが使えるのはスミレだけだが、スミレの魔力では回復に時間がかかる。
「エレイン、レモン! 二人は崖の下を確認してくれ!」
「わかった!」
「ルーコ、他のパーティはここに向かってきているか確認してくれ」
「気配はないわ」
「ならばスミレ! 片方だけでいいので、おっぱいを出してくれ」
全員に的確に指示を出す。
「えっ!?」
スミレだけ、俺の指示に対してすぐに行動できていない。
「オパール! 崖の下は湖だよ!
ボスオークもいる! あたし、下に向かうね!」
「あーしも一緒に行くっしょ!」
エレインたちは崖から飛び降りた。
おそらく、そこまで高くはないのだろう。
それより——
「ルーコ、スミレの隣に並んでくれ! スミレはおっぱいを早く!」
「ちょ、どういう?」
「回復力を高めるためだ!
ここは竹林だが、なるべく『ちく』とか『りん』とか見ないようにするから!
早く!」
「スミレ、たぶんいつもの——おっぱい揉んで解決するやつだわ」
俺は腕をクロスさせ、並んだルーコの左おっぱいを右手で、スミレの右なまおっぱいを左手で掴んだ。
——もにゅぷに。
「ルーコの魔力レベルアップをスミレに適用させ、回復速度を高める!
同時に、ルーコにスミレの鎧を出現させ、ルーコも回復スキルが使えるようにする!」
——もにゅぷにもにゅぷに
説明しながらやさしく揉み始める。
「そんなことが……?」
「できる! すまないが、少し早めに揉むぞ! 他の生徒に見られる前に」
——もにゅぷにもにゅぷにもにゅぷに
人助けとはいえ、仲間の女の子たちをあまり辱めるわけにはいかない。
——もにゅぷにもにゅぷにもにゅぷにもにゅぷに
《ぴー!
10回ずつ、もみもみとなまもみもみを、クロスモードで確認しました。
対象の魔力を10レベルアップし、なまなまモードで対象に回復力を10レベルアップします》
ルーコの体が一瞬だけ光る。
そのまま彼女はアメジスト色のビキニアーマー姿に変身した。
「これで、わたしにもヒールが……!?」
「俺はエレインたちを追う! おまえらは、倒れている子たちを回復してくれ!」
「聖なる光よ、回復せよ! ヒール!
すごい! 魔力がみなぎる! 回復速度が上がっている!」
怪我人を二人にまかせ、崖の下を覗き込む。
え? たっか!
結構高いんですけど!?
下が湖とはいえ、エレインたち、これを飛び降りたのか。
「これはちょっと勇気がいるが……」
だが、二人が心配だ。ついでにハナマールも。
行くしかない!
「ええい、ままよ!」
——ヒュー……ザッパーン!
「ごぽっがはっ」
な、なんとか体は無事だ。
すぐに一番近い陸地に上がる。
「あっオパール!」
「エレイン! レモン! 無事だったか!」
「うん、あとハナマールくんも!」
飛び降りた場所から一番近い陸地には、エレインたち3人がいた。
「やあ、オパールくん。ボクとしたことが……!
崖からオークを突き落とした際に足をやってしまったのだよ」
ハナマールの足首が赤く腫れている。
「ボクの代わりにオークを追ってくれ。
オークは、男のボクには目もくれず、向こうへ去っていったさ」
ハナマールの指差す方向を見ると、立ち去るボスオークの背中が見えた。
俺たちには気がついていない様子だ。
「これ以上離れると見失っちゃうよ」
「ハナマール、後で迎えを寄越すからな!」
「急ごう」
エレイン、レモンと共にオークを追いかける。
◆ ◆ ◆
水を吸った服が重たかったが、なんとかボスオークに近づく。
でかい。
身長3mはあるかもしれない。
「追いついたけど、どうするの?
あたしたちの炎の矢や雷の矢は効かなそうだよ?」
エレインがオークに気づかれないように、小声で話しかけてきた。
通常のオークにすら効かなかったエレインとレモンのスキル。
それが、ボスオークに効くとは思えない。
「俺に考えがある。
二人とも、この石の上に立って、前屈みになってくれ」
ちょうど足元にあった、膝くらいの高さの石を指差す。
「こう?」
「そうだ、そのままおっぱいを出して俺の頭を二人のおっぱいで挟んでくれ」
俺は二人の間に立った。
よし、ちょうどおっぱいが俺の頭の高さにあるな。
「オパっちさぁ……
たぶんこれマジメな解決策だろうから、あーしら断れないの知っているでしょ?」
「本当ならこんなことを頼むのは、俺も心苦しいんだ」
「あ、あたしは、オークを倒すために協力するよ!」
エレインが俺の顔をなまおっぱいで挟んだ。
湖に落ちて濡れたのか、しっとりしていて少し冷たい。
「あーしも、協力しないとは言っていないっしょ」
反対側から、レモンが俺の後頭部になまおっぱいを押しつける。
「もご……よし、二人はおっぱいが俺から離れないように手で押さえていてくれ」
そして俺はコマのように横回転で回り出す!
——ぐるっ
半回転すると、俺の顔はレモンのおっぱいに挟まれ、エレインのおっぱいは後頭部側になる。
——ぐるっ
さらに半回転し、再びエレインのおっぱいが顔の方に。
よし、この調子で!
——ぐるっぐるっぐるぐるぐるぐる!
勢いを増し、おっぱいの間で回り続ける!
途中で頬や唇におっぱいの先っちょらしきものが掠めていくが、お構いなしだ!
——ぐるぐるぐるぐる!
目が回って気持ちが悪くなってきた!
《ぴー! なまおっぱいローリングかおぱふを、ぬれぬれモードで確認しました!
攻撃力と体力をマーブルレベルアップします!》
俺の体が光り、炎と雷の融合したデザインのビキニアーマーがその身に出現する。
「オークに狙いを定めて……くっ!? 目が回って定まらない!?」
《ぴー! 目が回っている状態が治ると、ローリングモードも解除されます》
「ならばこのままやるしかない!
炎と雷の矢と、なんか水よ! 敵を貫け!
ローリングウォーターエレクトリカルファイヤーダンス!!」
炎と電気と水を纏った俺。
そのまま俺は全身を回転させて湖の水面を跳ねながら移動する!
このままボスオークの方角へ!
「ええっ!? オパっち、それどうなっているの!?」
「回転することにより、水に沈まずに進めるのだ!」
回転しながらレモンたちに解説する。
この技は水の上を走る『スーパー足』に続いて俺が昔考えた水に沈まない方法パート2だ!
「それだけじゃない!
炎と電気と水、そして回転力を加えることによってスキルの威力も大幅にアップだ!」
回転しながらオークに接近する!
「な、なんでしゅか!?」
「くらえっ!
ウォーターファイヤーエレクトリカルローリングダンス!」
——ドリドリドリ!
「ぎゃあああ!?」
俺の回転力がボスオークの肉を削る!
具体的には、俺の手に持った棍棒がボスオークに連続ヒット!
そして炎と電気と水がオークに追い討ちの属性ダメージを与える!
「ば、ばかな! この悪いおっきなオーク様が人間ごときに!?」
「最後に聞いておいてやるぜ!
おまえを湖に落としたのは、あっちのピンク髪のおっぱいの大きい女の子か?
それとも金髪のおっぱいの大きい女の子か?」
——ドリドリドリ!
俺は棍棒で回転殴打しながらオークに質問をした。
ボスオークは、エレインとレモンをチラリと見てから答える。
「自分を湖に落としたのは、褐色の男だったでしゅ!」
「なるほどな。正直者のおまえには、これでとどめだ!
ファイヤーウォーターエレクトリカルダンス! ローリング!」
最後のダメ押し棍棒攻撃!
——ぼぐわーん!
おっきなオークは脳みそ以外爆発して死んだ。
「す、すごい! ボスオークを倒しちゃうなんて!」
「びっくりっしょ!」
エレインたちが近づいてきた。
「使ってみてわかった。この技には二つの欠点があるな」
「この威力だし、なんらかの代償があるの!?」
「目が回って気持ちが悪いことと——
技の名前が長すぎて覚えられないということだ!」
あと、本人たちが恥ずかしがるだろうから言わないが、二人の女の子におっぱいを差し出させることも欠点だな。
この子たちが嫌がるなら、なるべく使いたくない技だ。
◆ ◆ ◆
こうして、無事にオークを倒して俺たちはハナマールに肩を貸すと崖の上へと戻る。
その頃にはノーキンやタテロルのパーティと、ハナマールの取り巻きの女の子たちも回復完了していた。
「ぐへへ……聞いたぜ!
てめえ、ハナマールを助けるために崖から飛び降りたんだってな」
「ま、オークを追うついでだけどな」
「ハハッ、オパールくん、それは照れ隠しなのかい?」
ハナマールよ、耳元でしゃべんな!
肩を貸すのをやめてやろうか?
「やっぱり『オパハナ』……!?」
「まだ『ハナオパ』の可能性もあるわ!」
ハナマールの取り巻き女子たちがざわつき始める。
だからなんなんだ、その謎の派閥は!
こうして、解けない派閥の謎を残しながら学年末試練は幕を閉じたのだった。
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次回、卒業生を見送るオパールたち在校生。そして最後の戦いに向けて……?
お楽しもみに!
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