23. トリックオアおっぱい
「明日はハロウィンだね!」
昼食後の教室。
俺の席に集まったいつものメンバーで雑談に興じている。
「エレっちは、コスプレとかする予定?」
「うん、今年は挑戦しようかなって」
「じゃ、あーしも一緒にやるっきゃないっしょ!」
「わたしもやりたいわ」
「我も悪魔のコスプレをしようぞ!」
「ぐおおおお!」
「オパール!? 急に唸り出して怖いよ」
俺は必死にアホメットへのツッコミを我慢して唸り声を上げていた。
おまえは元々悪魔だろ!!
あともう、普通にクラスに混じっているな!
一応アホメットの姿は消しているので、仲間達以外には見えていないが。
「スミレもコスプレやろう?」
「ルーコ部長が言うなら……でも、ハロウィンって?」
「あれ? スミレちゃんハロウィン知らないの?」
「ほら、スミレっちは別の大陸から来たから、そっちにはなかったんでしょ」
「なるほどね。あのね、スミレちゃん。
ハロウィンってのは、モンスターのコスプレをするんだよ。
それでみんなのところへ行き、『お菓子をくれないといたずらするよ』って言うイベントなの」
それを聞いてアホメットが目を輝かす。
「お菓子をねだるのか!
実に我に向いているイベントだな」
「ぐおおおお!」
「またオパっちが唸っている……」
アホメット!
おまえ向きのイベントというか、普段のおまえそのものだろ!
「お菓子をくれなかったら、いたずらをするの?
どんな?」
「え? そう言えば、どうするんだろう?
その日はみんなお菓子を用意しているからね」
「我は、いけにえを捧げるいたずらがいいと思うぞ」
「ぐおおおお!」
それはいたずらってレベルじゃないだろ!
「今日のオパール、なんか怖い……」
「それはともかく、なんのコスプレする?
定番の魔女とか?」
「え? 魔女はモンスターなの?」
「そうじゃないけど、まあ……例外かな」
みんな見た目は可愛いからな。
正直コスプレは楽しみかもしれない。
ただ、おっぱいを強調するコスプレだけはやめてくれ!
「レモンは、スタイルいいから、大胆にミイラとかやってみれば?
ボディライン出ても平気だよね」
「え〜」
はいそれNGーッ!
「そういうエレっちは……猫耳とかどう?」
「猫もモンスターじゃない……」
「黒猫も、使い魔だから例外ってことで」
「我も使い魔はちょっとな」
「ぐおおおお!」
アホメット!
おまえは契約してルーコの使い魔になっているだろうが!
「わたしは定番のでいいや。
カボチャとか、あとヴァンパイアやゾンビとか」
「カボチャもモンスターじゃない……動物でもない……例外多すぎる」
「ヴァンパイアやゾンビと言えば——」
あの感染事件を思い出し、全員で思わずタテロルを見てしまう。
タテロルは教室内の少し離れた場所にいる。
俺たちの視線には気がついていないようだ。
「わたしやっぱりヴァンパイアとゾンビは遠慮しておくわ」
——キーンコーンカーンコーンコーン
午後の授業が始まり、全員自分の席に戻る。
そして翌日、ハロウィン当日の放課後——。
◆ ◆ ◆
教室には『ハロウィンパーティ』と書かれた横断幕が取り付けられている。
さらに、カボチャのランタンがいくつも飾られていた。
クラスのみんなは、思い思いのコスプレをして飾り付けを楽しんでいる。
やばい……俺だけコスプレをしないで浮いている。
いやだってまさか、みんなするとは思わないじゃん?
「ぐへへ……俺様は『腐乱兼死体』だ!」
ノーキンが青肌筋肉コスプレで登場する。
ふらんけん……? なんか違くないか?
「おい、おかしをよこせ!」
いたずらはどうした!
「飴玉でいいか? はいよ」
「ぐへへ、ありがとうな」
俺が飴を渡すと、ノーキンはニコニコしながら去っていった。
なんか可愛いやつめ。
「ボクは高貴なるヴァンパイアなのだよ!」
「くすくすくす!
真祖ヴァンパイアのわたくしとコスプレが被るなんて哀れですわ」
続いて登場したのはハナマールとタテロル。
二人ともヴァンパイアで被ったか。
「おまえらも飴でいいか?」
「フッ。ボクは庶民からの施しは受けない主義なのでね」
こいつイベントの趣旨を理解していないな。
「わたくしは頂戴するわ。
……熱でうろ覚えだけど、あなたがわたくしにしたこと、うっすらと覚えていますのよ?」
タテロルは飴を受け取る際に、小声で俺に囁く。
やばい、おっぱい揉んだことだろ、これ……。
「トリックオアトリートっす!」
ジャージを着た茶髪の女子がやってきた。
顔には狼の鼻とひげ、頭には犬っぽい耳をつけている。
「アキ……おまえ、コスプレ手抜きすぎだろ」
「あたいは狼男っすよ、これ!」
「おまえは女だから狼女だろ!」
「コスプレすらしていないやつに、いろいろ言われたくないっす!」
「まあまあ、喧嘩なさらずに〜」
なんかメガネをかけた白い毛玉が仲裁してきた。
アイスか?
「逆におまえはなんのコスプレだよ! ケサランパサランか!」
「違います〜わらわはイエティ、雪男ですのう」
「だからおまえも女だから、雪女だろ! あれ?」
なんか微妙に別物になったが、とりあえず一個ずつ飴を渡す。
「あ、あの……」
続けてやってきたのは、魔女姿のスミレ。
シンプルでかわいい。
と思いきや!? なんだそのおっぱいの谷間を強調したセクシー魔女は!
「トリックオアトリート? でしたよね」
「そ、そうだ。それであっているぞ。楽しんでね……」
スミレにも飴を渡す。
うぅ、おっぱいの不意打ちでちょっとだけ気分が落ちてしまった。
「ぐわははは! 我にも飴くれ!」
ヤギ頭が登場した。
相変わらずマイクロビキニだが、このアホはいつもマイクロビキニだからな。
おっぱい面積はスミレより露出しているが、こいつのおっぱいには、だいぶ慣れが出てきている。
「おいアホ! ちゃんと言わないとあげないぞ」
「トリックお……?」
「忘れたんだな? トリックオアトリートだ」
「そうだ、それ!」
「ちゃんと言え」
「トリックオアトリート! 飴くれ!」
飴くれ、じゃなくて『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ』だろうが。
まあ、楽しいパーティに水をさすようなことはしないで飴をやるか。
サービスだぞ。
「オパっち! トリックオアトリート!」
「トリックオアトリート!」
続けてレモンとルーコ……って!
「結局、ミイラに挑戦しちゃった。
どう? セクシーっしょ?」
NGって言っただろうが! 心の中で。
「わたしは黒猫だわ」
なあルーコ、猫ってそういう生物だっけ?
猫耳としっぽ、それに肉球手袋はわかる。
ルーコはマイクロビキニとほとんど変わらない面積の部分に、ふさふさの毛を貼り付けただけの衣装を着ている。
「あーしが一緒に選んだセクシーキャット!
オパっち驚いている! セクシー作戦成功〜!」
「いえーい!」
二人は手を合わせて喜んでいるが……。
あのさ、教室で見るクラスメイトのおっぱいは、海やプールで見るそれより強烈なのでやめてほしいのですが。
「あれ? エレっちまだ来ていなかった?」
「と、トリックオアトリート!」
「あ、やっと来た!」
最後に登場したエレインは……え、なにそれ? 痴女?
「じゃーん! エレっちはサキュバスでした!」
背中にはコウモリのような羽。
下半身はハイレグレオタードで非常に刺激的だ。
そして上半身は、おっぱいをハート型の布地で隠しただけの、謎の服——服と言えない何かになっていた。
やりすぎだろ、エレイン!
めまいがしてきた。
やばい、あまりのおっぱいの猛攻に、視界が暗く……い、意識が……。
「お、オパール!? どうしたの? オパール!」
遠くで名前を呼ぶこえが聞こえた気がする
◆ ◆ ◆
「オパール! オパール! あっちであそぼう?」
エレインが呼ぶ。
む? このエレイン小さいな。ぺったんこの頃のエレインだ。
「いいぜ! つぎは何をするんだ?」
あ、俺も小さい。
二人とも、どろんこになって遊んでいる。懐かしいな。
「あははは! オパール、どろだらけ!」
「あー、ズボン汚れちゃったよ」
「じゃあ、あたしが脱がしてあげる!」
エレインが俺……子供の俺のズボンを引き下ろす。
ちょ、パンツも一緒に下ろしてんじゃん!
「あはははは!」
いや、何がおかしいんだよおお!
「あはははは! パンツも脱げたぞ!」
子供時代の俺も笑っているし。
いやまあ、子供だしそんなもんか。
「…………」
「で、次は何をするんだっけ?」
エレイン、今めっちゃ股間見ていなかったか?
「ふふふ。可愛い子たちね」
思い出の中に、誰かが割り込んできた。
誰だっけ?
何か思い出せそうな、思い出したくないような。
姿を現した女性は——背中にはコウモリのような羽。
下半身はハイレグレオタード。
上半身は、大きなおっぱいをハート型の布地で隠しただけの、謎の服。
え——サキュバス?
「それじゃ、このかわいい女の子はもらって行くわね」
「だめだよ! エレインをつれて行っちゃだめ!」
「オパール、このおねえさん、こわいよ」
「どっかいけよ!」
子供の俺は、足元に落ちていた木の棒を拾って振り回した。
「あら怖い。女の子のために戦う、勇敢な男の子なのね」
俺は、徐々にこれが夢であること、そして過去に実際にあったことだということを理解し始めていた。
「でも、こんなのはどうかしら?」
サキュバスは子供の頃の俺の腕を押さえつけると、そのままおっぱいを顔に押し付けてきた。
や、やめろ!
「や、やめろ!」
「おねえさん、やめて!」
「ふふふ」
「く、くるしい……」
やめろ! やめろ! それ以上、俺をいじめるな!
俺におっぱいを押し付けるな!
やめてくれ!
俺は夢中でもがいていた。
もがく手が、何かにあたる。
——ふにふに
やさしい、やわらかい揉み心地。
——ふにふにふに
これは、子供の頃じゃなくて最近知った感触。
——ふにふに
そうだ、エレインのおっぱいだ。
「エレイン……」
《ぴー! 14回、なまなまモードでモミモミを確認しました。
攻撃力を14レベルアップします》
唐突なアナウンスに驚き、目を覚ます。
と同時に、俺に体に赤いビキニアーマーが装着された。
なんだこれ?
おれはどこかのベッドに寝かされているのか?
目の前には、涙目になっているエレイン。
俺の両手はしっかりとエレインのおっぱいをつかんでいる。
「ここは……」
「保健室だよ。
オパール、教室で急に意識を失っちゃって運び込まれたんだよ。
他のみんなは今、教室にいったん戻っている」
「そっか……ごめんな、せっかくのハロウィンパーティで心配かけちゃって。
パーティ、楽しみにしていたんだろ?」
「ううん、オパールの方が大事だから。
目を覚ましてよかったよ」
「手……離すよ?」
俺がエレインのおっぱいから手を離すと、エレインは乱れたサキュバスの衣装を直した。
「なあエレイン、子供の頃、サキュバスに襲われたの覚えているか?」
「そんなことあったっけ?」
「ほら、おまえが女の人に連れ去られそうになったときのことだけど」
「あのお姉さん、サキュバスだったんだ……」
「服がそんな感じだった」
「服まで覚えていない……」
まあそうか。
俺なんてそのこと自体を覚えていなかったからな。
「でもね、オパールが追い払ってくれたのは覚えているよ。
お姉さんも『諦める』って言って去っていった」
「そうだったのか」
はにかむエレイン。
今の俺たちがあるのは、子供の俺が勇気を振り絞ってサキュバスを追い払ったからだったのか。
ありがとう、子供の頃の俺!
「あ、オパっち! 目覚ましたんだ!」
「よかった!」
ぞろぞろと、みんなが保健室に入ってきた。
カバンや制服の着替えを取りに戻っていたようだ。
いつの間にか、俺の体のビキニアーマーも消えている。
「みんな、すまなかったな。
軽い貧血だと思う。もう大丈夫だ」
「貧血?
お主、吸血鬼に血でも吸われおったか!」
「アホちゃん、あれはコスプレ……」
「お詫びと言ってはなんだが、俺の机の余っているお菓子、全部食べていいぞ」
◆ ◆ ◆
こうして、俺のハロウィンは幕を閉じた。
もしかして俺がおっぱいが苦手になったのは、子供のころのサキュバスに出会った体験が原因かもしれない。
一つの謎が解けかけ、新たな謎が浮かび上がる。
起きたときの手の感触。
俺、無意識下でもおっぱい揉んじゃうような人間だったんだな……。
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次回、運動会の準備で!?
お楽しもみに!
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今回の内容や、エレインについて、感想を書いてね!
高評価もよろしく!