通ってはいけないと噂の道
私が住む多媛町には昔から、噂のある道があった。
その名も『夜三津道』と呼ばれている。読み方は『よみづみち』だが。私より、年長の人達は口を揃えて「夜三津道だけは昼間でも通るな」と子供に忠告していた。私はそれこそ、物心がつく年頃には両親や近所に住む人から、噂で夜三津道の事を教わっている。
『……夜三津道は絶対に、通ったらあかんで!』
とにかく、口を酸っぱくして言われた。だからか、私が高校生になった頃には校内でもある噂が流れた。
ある男子が夜三津道をうっかり、通ってしまった。彼は意識を失った状態で発見される。そのまま、病院に運ばれたが。亡くなったとか、そうでないとか。
私のクラスの女子生徒達はこの噂を信じていたが。本当かどうかは定かでない。
私は夜道を会社の同僚三人とで歩いていた。皆、女性だ。年齢も同い年だった。二人ずつ、前後に並んでいる。
前列が私、波原さん、後列は湯野さんに横野さんだ。
「ねえ、丹羽さん。後少しで夜三津道やんなあ」
「え、ほんまに?波原さん」
「うん、あたしな。霊感が下手にあるからな、よう分かるんや」
「え、怖い事言わんといてよ」
一番最初が波原さん、次が丹羽もとい、私だが。三番目は最初と一緒で、最後が湯野さんだった。私と波原さんはまずまず、霊感がある。湯野さんは幽霊などが苦手で怖がりだ。横野さんは私や波原さん以上に霊感がめちゃくちゃ強い。それでいて、冷静沈着で無口な人だった。
「……皆、気いつけや。来るで」
「ヨコちゃん?」
私がヨコちゃんもとい、横野さんに問いかける。が、その前に真っ黒な影が眼前に現れた。
「なっ?!」
「とうとう、出てもたな。丹羽ちゃん、波原さん、ユノちゃん。あたしの後ろにいてよ!」
「ヨコちゃん、守ってくれるん?」
「当たり前や、あたしかてな。伊達に霊感を鍛えてへんわ!」
横野さんはそう言って、両手を複雑な形に組んだ。たぶん、印を組むとか言うんだったか。
「……オン、マリシエイ。ソワカ!我らを隠し、守り給え!!」
そう彼女が唱えると、黒い影はキョロキョロと辺りを見回す。私は声を出そうとしたが。横野さんはキッと睨んできた。とっさに話しかけたり、動くのはダメだと直感で感じ取る。しばらくは何もせずにいたら、影が近づいてきた。
『……おのれ、あの女子め。忌々しい』
目を凝らしたら、それはガイコツで大鎌を持っていた。真っ黒なマントを着込んでいる。あれ、死神じゃないか?
その死神はその後も私達をしつこく、探し続けた。じっと立ち去ってくれるのを待つしかなかった。
三十分もしない内に、死神はどこかへ行ってしまう。横野さんが足早に夜三津道を出ようとした。私達も、後を必死で付いて行く。
そうして、やっと夜三津道を出た時には。皆、汗だくになっていた。ゼイゼイと肩を上下させて荒く息をつく。
「……もう、ええよ。疲れた」
「うん、ヨコちゃん。ありがとうな」
私はやっとの思いで言った。横野さんは苦笑いする。
「そやな、皆。お疲れさん」
「ほんまや、けど。夜三津道に何かあると言う噂は事実やったなあ」
「せやな」
横野さんに波原さん、湯野さんが言った。私も大いに頷く。帰り道を急いだのだった。
――終わり――