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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪役令嬢は悪魔と踊る

作者: どんC

 

 バセット帝国のルリアーナ・メディック公爵令嬢は悪魔と毎夜踊っている。


 そんな噂が囁かれるようになった。

 何処からそんな噂が囁かれるようになったのかは分からないが上流階級や果ては、平民まで噂が広まった。


 それは噂が囁かれるようになった数ヶ月後の舞踏会の出来事だった。



 *********



「私の最愛を苛めたばかりか、暗殺を試みたルリアーナ・メディック公爵令嬢との婚約を破棄する」


 ここは王宮の大広間。

 本来ならば皇太子とルリアーナ公爵令嬢との結婚の日取りが告げられるはずであった。

 だが皇太子の傍らにはピンク色の髪の少女と側近達。

 相対する様に一人ルリアーナが佇んでいた。


「その様な事をした覚えはありませんが、婚約破棄はお受けいたします」


 扇で口元を隠しルリアーナは皇太子にそう告げた。

 皇太子に守られる様に側にいる少女は告げた。


「私に謝罪してくだされば、私はあなたの罪を許します」


「精霊王の名にかけて、私は貴女を苛めてはおりませんわ。ましてや暗殺など、企てた事はございません。嘘をつく事は悪い事でしてよ」


「酷い!聖女の私が嘘をついているって言うの!!」


 儚げな少女は泣き出した。

 それを皇太子が慰める。

 表に感情をだしてはいけないと散々王妃教育をされてきたルリアーナは白けた気分でピンク頭を見る。

 もっとも感情を抑える事は貴族令嬢の基本中の基本なのだが、この娘はそれすらも出来ないのか?


「なんとふてぶてしい!!」


 赤い髪の騎士団長の息子が吠える。


「証拠も証人も居るのだぞ!!」


 緑の髪の大臣の三男が喚く。


「悪魔に魂を売ったは悪女め!!」


 魔導師長の息子トビイドも尻馬に乗る。


 皇太子の側近が醜くわめき散らす。

 本来ならば彼等はこの国の未来を背負う者達なのだが。

 つまり、未来の王妃になるルリアーナを守る者達だ。

 だが、彼らは恋に溺れそんなことも忘れてしまった様だ。


「ふふふふ……」


 なんて茶番かしらとルリアーナは思った。

 ああこの日のために一年も前からあつらえたドレス(特別)なのに。

 ルリアーナのドレスは白くまるでウエディングドレスの様だった。


「お前が夜中に誰かと話しているのはお前の侍女から聞いている。観念しろ」


 皇太子はルリアーナを睨み付ける。


「私の部屋には結界が張られていて邪悪な者は入り込む事はできませんわ」


 ルリアーナは静かに答えた。


「語るに落ちたな。お前が招き入れなければな!!」


 魔導師長の息子がどや顔で言い放つ。


「確かに私はあるお方を招き入れました」


「夜中に男を部屋に入れるなど。淫売め!! やはり貴様は皇太子妃に相応しくない!!」


 勝ち誇った様に皇太子エリックカールがルリアーナを罵る。

 ルリアーナは諦めて笑う。

 もう何を言っても無駄な様だ。

 彼らの中でルリアーナは悪女。

 ピンク頭の聖女キアラはルリアーナに虐められている可哀想で守らなければならない女の子となっている。

 ルリアーナは皇太子と側近達と聖女と呼ばれた者達を見て、それからぐるりと囲む様にルリアーナを見ている貴族達を見る。

 誰もルリアーナを助けるつもりは無いようだ。

 その中に実の両親も入っている。


「そのお方と私は賭けをしました」


「賭けなどと令嬢にあるまじき下品な事だ!!」


 皇太子の側近達は口々に罵る。

 ああ、うるさいな。

 ルリアーナはそう思ったが話を続けようとした。


「賭けの内容はなんだ?」


 横柄な口調で皇太子が口を挟む。


「今宵、皇太子殿下に皆の前で婚約破棄されたら、私はあの方の花嫁になると言う賭けです」


 悲鳴に近いざわめきが起こる。

 あの方と呼んだ人物は今日の事を予言していたのだ。


 つまり……


「やはりそいつは人間ではないな」


 皇太子は勝ち誇った顔でルリアーナを見た。

 その顔に哀れみが浮かんでいたが、皇太子は諦念ととった。


「確かに人間ではございません。あのお方は……」


 その時ルリアーナの横に光り輝く魔法陣が現れ一人の人物が現れた。

 その場所に居た人々は、驚きのあまり言葉もなくその人物を凝視した。


「精霊王……」


 誰かがポツリと言葉を溢す。

 妖精はたまに人の前に現れる事はあるが。

 今の今まで精霊王を見たものは居ない。

 ルリアーナは跪き頭を下げる。

 続いて彼の後ろに五人の精霊と妖精達が現れた。

 彼等は神々しく光り輝いている。

 この国は精霊教で精霊王は最も崇められている存在だ。

 精霊王は豊かな恵みを人々に与える。

 妖精をたまに見ることが出来る者が神官の中にいるが、高位の精霊を見たものはいない。


「嘘……」


「何故? 精霊王が? 精霊王は人嫌いなはずでは?」


 精霊は高位の者ほど、人前に出ないのだ。

 だから人々は精霊王は人嫌いだと誤解している。

 結構精霊王は平凡な容姿の者に化けて街中をウロウロしているのだが、その事をルリアーナ以外の人間は知らない。

 祭りの日。

 精霊王は勉強漬けのルリアーナを城からコッソリ連れ出して。

 祭りに連れて行った事があったのだ。

 それはルリアーナにとって忘れられない、大切な思い出となった。

 父も母もエリックカール皇太子もルリアーナを祭りに連れ出してくれた事はない。それどころか誕生日も祝ってもらった事も無かった。



「夜に寝室に現れたのって精霊王様なの? じゃルリアーナは精霊王様の妃になるの?」


 ザワザワザワザワ


 宮殿の舞踏会場にいた人々は小声で囀ずる。


「初めまして。精霊王様。私キアラと申します。あの精霊王様はルリアーナと賭けをしたそうですが。本当の事ですか?」


 美しい精霊王の側にキアラはすり寄る。

 あまつさえ精霊王に触ろうとした。


 バシリ!!


 精霊王の側に控えていた精霊がキアラの手を杖で叩く。


「痛い!!」


 キアラは手を押さえた。


『精霊王が聖女を娶るのは不思議な事ではあるまい』


 キアラを杖で叩いた壮麗な精霊が答える。


「嘘です!! ルリアーナは聖女じゃありません!!、聖女は私です」


『愚かな小娘。お前は自分が聖女だと言うのか?』


 赤い髪の精霊が蔑みの目を向ける。


『低級な【魅了】しか使えぬ小物が、聖女を語るな!! 精霊には貴様の【魅了】など効かぬ!!』


「ひっ……」


 精霊の殺気にキアラはペタリと尻餅をついた。

 精霊王の側に控えている精霊達もキアラに殺気を向ける。

 人間にはかなりきつい殺気だ。

 気弱な貴婦人なら気絶するだろう。


「えっ?」


「どういう事だ?」


「キアラ様って聖女じゃなかったの?」


 精霊達に殺気を向けられて縮こまっている様子から違うようだ。


「それに【魅了】って言ってたわ!!」


「【魅了】って禁忌じゃなかった?」


「【祝福の儀】を行った神官を【魅了】して【聖女】を名乗ったのか?」


 偽物? 嘘つき? 国家転覆を狙った? 他国のスパイ?


 ざわめく人々の口から不穏な言葉が漏れる。


「違う……私が……せい……」


 聖女と言いかけたキアラの口を妖精が魔法を使って無くす。

 文字通りキアラの顔から口が消えた!

 人々は一歩下がって悲鳴と共に跪く。

 立っているのは皇太子と取り巻きの五人だけだ。


「この国では精霊に愛された者が聖女と呼ばれます。恐れながら、ルリアーナ様は聖女なのでしょうか?」


 おずおずと子爵令嬢が尋ねた。

 彼女はルリアーナがピンク頭を虐めたと嘘をついた者の一人だ。


『ルリアーナ様は聖女である』


 精霊達の中で髭を生やした古老の精霊が答える。


「嘘だ!! ルリアーナは聖女じゃない!! お前は精霊王を騙った悪魔だ!!」


 もう皇太子はそう言うしかなかった。

 最後まで逝くしか……


『なるほど。そうか。あくまで我を悪魔と罵るか。ならばお前の望む様に振る舞おう。真実を語らぬ口など要らないな』


 精霊王が手を振るとエリック皇太子から口が消えた。


「%㏄㎝$₩€£」


 口を奪われた皇太子は声を発しようとしたがマトモに声が出ない。


『真実を見ない目など要らないな』


 エリックの顔から目が消えた。


『自分にとってつごうの良いことしか聞こえない耳など要らないな』


 エリックから耳が消えた。


『人間である必要などないな』


 口も目も耳も鼻も腕も足も奪われた皇太子はヘドロの様に異臭を放つ蠢く肉塊となる。


 大広間のそこかしこから悲鳴が上がった。

 人々は我先に逃げ出したが……

 次々と蠢く肉塊となった。

 城の中にいるすべての人間が肉塊になった。


『肉塊どもが城から出られぬ様に結界をはっておこう』


 精霊王が呟くと瞬く間にいばらが生えて城を包んだ。


『お前の両親も肉塊になったな。どうする? 人間に戻すか?』


「信仰の無い者が肉塊になったのです。私の両親は口では精霊教の信者でしたが真に精霊様に感謝などしたことが無かったのです」


 ルリアーナは悲しそうに両親を見る。


 蠢く醜い肉塊……


 そして皇太子や側近達やピンク頭の偽聖女や王や王妃や貴族達の肉塊の群れを悲しげに見つめる。

 城は醜悪な異界と化していた。


『行こうか?』


 精霊王はルリアーナに手を差し出した。


「精霊王様……私も裁かないのですか? 聖女でありながら彼等を救えなかった」


『ルリアーナは彼等に救いの手を伸ばした。その手を取らなかったのは彼等だ。彼等が肉塊に成ったのは、彼等の判断によるものだ』


「……」


『さあ行こう』


 精霊王はルリアーナに手を差し出した。

 ルリアーナはその手を取った。

 こうなる事は分かっていた。

 おそらく精霊王がルリアーナの部屋に訪れた時、彼等の末路は決まっていたのだろう。

 精霊王は嘘をことのほか嫌う。

 真実を隠し嘘をつく。

 その言葉はノイズとなり、精霊にとって不快な響きとなる。

 だから、ルリアーナは両親や王や王妃や側近達やピンク頭や貴族達に口が酸っぱくなるほど、精霊達への信仰を説いた。


 しかし……


 彼等は鼻で嗤うか、煙たがるしかしなかった。

 ルリアーナが必死に改心するように言えば言うほど彼等の心は信仰から離れていった。

 いや、元々信仰心など無かった。

 そして、皆でルリアーナを排除する事に決めたのだ。

 王も貴族も民に重税をしくようになった。

 このままなら民に餓死者が出て反乱が起きるだろう。

 多くの罪無き者が死にノイズを発する者が生き延びる。

 だから精霊王はルリアーナと賭けをした。

 多くの血が流れる前に王と貴族が改心すれば良かったのだ。

 精霊王とルリアーナは罪無き民は救いたかったのだ。


 そう……


 それは彼等が決めて実行したこと。

 ルリアーナの手を払い、嘘に染まった。

 悔やむ理性が残っているかは不明だが。

 この城は咎人達の地獄となった。

 彼等を改心させる事が出来なかったのはルリアーナの罪であった。

 だからルリアーナは白色を身に纏った。

 審判を受ける者は白い服を身に纏う。

 ルリアーナは裁きを受け入れるつもりでいた。


 ルリアーナは精霊王の手を取り、精霊達と共に歩みだす。

 二度と振り返る事は無かった。






 その昔帝都の城のあった所には、今は棘の山がある。

 棘の中には醜い肉塊が蠢いているらしい。

 かつて人であった者達が、罪を犯して醜い肉塊にされたのだと言われている。

 信仰深い町の者は全てを理解する。

 聖女ルリアーナ様は城にいる者達だけを裁き、信仰深い他の住人には精霊の恵みを与える事を願ったのだと。

 人々は聖女ルリアーナと精霊王に感謝の祈りを捧げた。







              ~ fin ~








 ************************

  2023/10/31 『小説家になろう』 どんC

 ************************


    ~ 登場人物紹介 ~


 ★ルリアーナ・メディック(17才)

 公爵令嬢。皇太子の婚約者。

 精霊王に祈らない回りの者達に心から祈る様に諭すが、うざがられ冤罪をかけられる。

 精霊王の花嫁になる。


 ★エリック・バセット(22才)

 バセット国の皇太子。わがままで怠惰。


 ★キアラ・ルールー(16才)

 魅了を使い自分が聖女だと騙す。

 妖精にも精霊にも彼女の【魅了】は効かない。

 ただし嘘つきには良く効く。


 ★ゼフィト・アグア(20才)

 騎士団長の息子。脳筋。


 ★カール・フリタス(19才)

 大臣の三男。親の七光りをかさにきる。


 ★トビイド・リコル(21才)

 魔道師団長の長男。妖精と話が出来ると思っている。


 ★ラルガ・メディック(47才)カミサ・メディック(38才)

 ルリアーナの両親

 娘には厳しく。自分たちには甘い。












最後までお読みいただきありがとうございます。

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[一言] 肉塊に寿命は……なさそうですね。 人間ではなくなったけど思考は残っているし、食事しなくても寝なくても永遠に生きられそうなので、ある意味幸せなのかもと思ってしまいました(笑) ルリアーナと精…
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