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残業、ダメ。絶対。俺は定時で帰りたいだけなんだ~残業が嫌でこっそりソロ攻略していただけなのに、無能と言われクビにされたダンジョン整備員。崩壊一直線の国に未練などないので、隣国へと移り住む~

作者: 湖畔の鯰

「セーフティエリア、異常無し。今日も定時で上がれそうだな」


 俺はショウマ・サダモト。20歳のしがないギルド職員だ。

 冒険者ギルドのダンジョン課で整備員をしている。


 シフトも終わりに近づき、そろそろ撤収しようかな、と後片づけを始めた時だ。



  ピシ、パキキッ——……!



「ウグググゥ……」


 空間が裂け、大鎌を持ったオークが這い出てきた。

 地獄の門番として知られる、アークメイジオークだ。正直めんどくさいだけの雑魚だけど。


「グルルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 いかにもなローブを着込んだアークメイジオークは咆哮を上げ、そこかしこに魔法をぶっ放し始めた。


「m……サマ……n……タメニ……」


「やれやれ、またか」


 火炎球(ファイアボール)雷撃(サンダーボルト)氷槍(アイスランス)石弾(ストーンブレット)

 炸裂する魔法を躱しながら、壁に立て掛けてある箒を手に取る。そのまま柄の先端部分を円錐状に変形させ、先端分を高密度化する。

 クリスタル化した箒をジャベリンに見立て、大きく振りかぶって……


「残業案件を……」


 豚の眉間目掛けてぶん投げた。


「持って、くるなっ!!」


 一閃。



  ドパァンッ!ビチャビチャビチャッ!



 豚の頭が爆ぜ、肉片が飛び散った。


 はぁ、まったく、嫌になる。整備完了直後の器物破損と崩壊。清掃完了直後にぶち撒かれる汚物や吐瀉物。


「整備と清掃を終えたばかりだってのに、ちくしょうが。浄化(クリーン)収納(ストア)


 パアアッと床や壁に飛び散った血肉や脳が光に包まれ、消えていく。

 横たわるオークの首無し死体も消えてなくなる。


「これも直しておかないとな。次元縫合ディメンションスティッチ


 光り輝く糸を操り、裂けた空間を縫いつなげる。


「これで今日も異常なし、と。ギルドに戻るか。……ん?」


 荷造りを再開すると、女冒険者が一人物陰に潜んでいる事に気づいた。だが、声を掛けたら時間を食ってしまう。定時で上がれなくなってしまう可能性大だ。ここは一人でお帰り願おう。


——これが最後のシフトになるとは思いもよらず、俺は帰路についたのだった。





「お疲れ様です。今日の日報です」


「んん!?また“異常無し”だとぉ?毎日同じ報告をしやがって、仕事をしているのかっ。もういい、無能が!お前はクビだっ!」


 ギルドの二階、オープンオフィスのど真ん中で喚き散らしているのはギルド長のベルナールだ。俺よりも一回り小さいのに、二倍ほどの体重があるという暑苦しい存在だ。ハーフオークだと言われたら納得できてしまう。


 こんな奴、正直言って無視したい。しかしながら、こんなブタでもここバーリンゲームという町の領主である公爵家の嫡男だというのだから面倒くさい。


「ろくに仕事をしない奴など、オクドラン王国冒険者ギルドバーリンゲーム支部には要らん!」


「お言葉ですが、ギルド長。与えられた仕事は全て滞りなく終えました。その結果、異常無しなんです」


「だから、そんなはずがないと言っているのが分からんのか、阿呆が!クビだっクビクビ!」


 頭ごなしに罵声を浴びせられるのは慣れたもの。

 だがクビとな。


「どうせ仕事もせずにサボった挙句、報告書になんて書けばいいか分からずに、“とりあえず異常無しって書いておけば良いかぁ〜”ってふざけた考えなんだろうが!」


 ブタに声マネをされても気持ち悪いだけだ。やめてほしい。


「詳細を確認せずに、“異常有り”か“無し”か、で急かすのはギルド長なのですが」


「口答えする気かっ。これだから黒髪の孤児は!躾がなっとらん!いいか、俺様は忙しいんだ!貴様の長ったらしい報告なんぞを聞いている暇などないんだ!クビだぁっ!」


 黒髪は関係ないだろう。

 てか孤児も関係なくないか。


 はぁ、やれやれ。どうしてこうなった。

 俺は定時で帰りたくてダンジョンを異常無しにしている(・・・・・・・・・)だけなのに。

 別に全てを報告しなくても、結果的に異常無しなんだから良いじゃんか。


「クビ、ですか。ダンジョンがどうなっても知りませんよ」


「はんっ!全く持って問題ない!ダンジョンの整備など、ゴミ拾いと掃除ぐらいだろうが!貴様のように学のないクズでもできるような仕事だ!代わりなどいくらでもいる!私物をまとめてとっとと消えろ!」


「……そうですか。それではお世話になりました。失礼します」


「ふん!」


 荒い鼻息でブースカ言いながらベルナールはドスンドスンと去っていった。


「取り付く島もない、か。……ダンジョン整備を怠るのならば、この国はお終いだな」


 ダンジョン整備はゴミ拾いや掃除だけではない。

 ダンジョンには魔物が住み着いている。逆に言えば、ダンジョンが魔物をそこに留めているといっても良い。


 そんなダンジョンが放置されたらどうなるか。魔物が溢れたりする事もあれば、古いダンジョンの場合崩壊し、魔物が外界に出ることもある。


 それを防ぐためにダンジョン整備員が定期的にダンジョンの補修を行ったり、生態系を管理するために一定数の魔物を討伐したりするのだ。


 そんなダンジョン管理を怠るとどうなるか。瞬く間に魔物で溢れかえり、この国は崩壊するだろう。



 周りの視線を無視しながら私物を箱に詰め終えると、俺は早々にギルドを去った。

 裏路地に回り、人気がないことを確認してから、魔法を唱える。


収納(ストア)



  ヴォン——……



 亜空間へと繋がる穴を空け、そこにポイと段ボール箱を投げ入れた。


 さて、どうしよう。

 無職になってしまったわけだし、とりあえず次の仕事先でも探すか。


 でも良くも悪くも影響力のあるベルナールにあそこまで嫌われている以上、この国では働き口は見込めないんじゃないかな。あったとしても、ろくな仕事ではないことは確実だし。


 ……んじゃ出るか。

 この国に未練もないし、どこへ行っても良いしね。


「隣国のパロアルトにでも行くか」


 こうして俺は母国を出ることにしたのだ。



++++++++



「嬉しそうですね、ギルド長。何か良い事でもありましたか」


 ブタ小屋(ベルナールのオフィス)に入るなり、長身の美人秘書が尋ねた。細身だが女性らしい丸みも帯びた体をギルドの制服に包んでいる。


 オフィスは成金趣味のギラギラしたインテリアだ。ベルナールは無駄に豪華な椅子に座り、足を机にどかっと乗せようとしていたようだ。だが足が届かず、椅子の位置を調整し始めた。


「ああ、レイナくん。たった今、無能の給料泥棒をクビにしたところだ。君も知っているだろう。ショウマとかいう、あのダンジョン課の整備員だ」


「……そうですか。ではこの書類にサインをお願いします」


 レイナは素早く筆を走らせると、机に書類を置いた。

 ベルナールはそれを流し見る。


「なんだ、これは」


「お忘れですか。ギルド職員を懲戒免職処分にした場合に必要な手続きです。本来ならば解雇された元職員のサインも必要なのですが」


「必要ない」


 その書類は足元のゴミ箱に投げ捨てられた。


「え?しかし……」


「ええい、うるさい。必要ないと言ったらないんだ。レイナくん、君はもう帰ったらどうだ」


「……畏まりました」


 しっしっと追い払うベルナールに、レイナはゴキブリを見るような顔を向け、退出した。



  にまぁり——。



 一人になったベルナールの顔が醜く歪む。


書類上(・・・)は、奴はまだ俺様直轄のギルド職員だからな。ぐふふふ……)



——コンコン。ガチャリ。



 ギルド職員が顔を覗かせる。ブタ小屋(ベルナールのオフィス)に入りたくないのだろうが、当のブタ(ベルナール)は気づかない。


「お疲れ様です、ギルド長。Sランク冒険者のセフィ様がお見えですが」


「ほう。あの竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の戦姫か。通せ」


「畏まりました」


 職員が通したその女冒険者が部屋に踏み入るなり、華が咲いた。

 美しい光沢を放つエメラルドグリーンの髪。軽鎧に押し込まれた豊満な胸と尻。そのくびれた腰には聖剣ラグナロクが帯刀されており、一度見たら忘れられないような麗しさと力強さをかけ合わせた美貌を持つ女性だ。


 女性職員ですら「はう……」と見惚れてしまう、雲の上の存在。ありていに言えば、絶世の美女なのだ。


「これはこれは、セフィ殿。どうぞ、おかけになってくださいませ。それで、今日はどのようなご用件で?」


 ベルナールは舐める様な視線でセフィを部屋中央のソファーに座らせ、手も揉みながら向かいに座った。


「人を探しているんです。森のダンジョンの最下層で調べ物をしていたら魔物と戦闘になってしまって。危ない所をここのギルド職員に助けられたんです」


「ほほう。セフィ様が遅れをとるほどの魔物を、我がギルドの職員が討伐したと?」


(オクドラン王国史上唯一のSランク冒険者に認められるような職員が、ここにいるのか。ぐふふふ……これは利用しない手はない)


 通常、冒険者はギルドに所属し、FからAまでランク付けされている。Aランク冒険者は歴史に名を残すような強者だが、それでもAランクの枠組みに入らない様な常軌を逸した者も一定数存在する。そんな一騎当千の冒険者は国王によって引き抜かれ、特別枠のSランクに昇格する。よってギルドではなく、国に使える身となる。


 だが400年前に魔王を倒した勇者アルフレッドを始め、Sランク冒険者は歴史上に一握りしか存在しない。

 セフィは数十年ぶりに現れた、オクドラン王国史上初のSランク冒険者である。


 ベルナールは内心喜んでいる。彼女と懇意になれれば、彼にとってこれとない手札になる。


(しかし心当たりがないな……)


「申し訳ありませんが、当ギルドには職員が大勢います。その者の特徴などはございますでしょうか」


「珍しい黒髪でした。着ていた服も制服というよりも、作業着といった感じでした」


(……ッ!?)


 ベルナールの顔が強張る。

 もちろん黒髪で作業着を着ているギルド職員など、一人しかいない。たった今追い出したばかりのショウマ・サダモトだ。


「く、黒髪、でございますか。その者は、ええっと……」


「ギルド長」


「な、なんでございましょう?……あれ、どこへ?」



——こ れ は な あ に ?



 それは後ろから聞こえた。

 低く冷たく、ドスの聞いた声。

 絶世の美人にはおよそ相応しくない、氷の声。


 ぐるんっとベルナールの首が回る。


 いつの間にかセフィがゴミ箱の横に立っていた。その手には、ベルナールが投げ捨てた書類。


「あ……あ……」


「ショウマ・サダモト。ダンジョン課の整備員。懲戒免職……」


 ご丁寧にもレイナによって顔写真が貼り付けられたその書類は、大半の記入欄が埋まっていた。セフィはすぐに状況を理解したのだ。


「……解雇したの?」


「いいいいいいいいいいやややや、いやいやいや、こここここ、これわわわ……」


 ギルド長の顔が真っ青になった。


「こここれには、理由が、ごごございましててて……」


 ベルナールの声が震える。


「解雇したのね?」


 セフィは表情を変えず、聞き直した。


「あああ、あのぅ……」

「何故?」


「し、仕事をしないような無能でしたので……はぇっ!?」


 ベルナールが咄嗟に口を塞ぐ。


(な、なんでこんなことを!?)


 この時、なぜベルナールが本当のことを言ったのか。

 それはセフィが元神官だからだ。


 神官のスキル真実の神域(トゥルースゾーン)を使い、範囲エリア内にいる対象全てに嘘をつけなくさせる。本来ならば懺悔室でしか使うことが許されないスキルだが、セフィは()神官。Sランク冒険者となった今では、その規制の対象外なのだ。


 そして真実を知ったセフィは激怒する。


「私の」


 ツカツカとベルナールに歩み寄り、


「命の恩人を」


 スラリと剣を抜き、


「無能だとおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

 ズバアアアアン!!と振り抜いた。


「ぶぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 ベルナールはぶくぶくと泡を吹きながらその場に崩れ落ちる。


「ふん。ブタが。恥を知れ」


「あばば……」


 ベルナールは白目を向いて気絶している。セフィが切ったのは彼ではなく、ゴテゴテと装飾をほどこしたテーブルだったのだ。

 セフィは失禁して床に転がるブタをそのままに、部屋を出た。


「ショウマ・サダモト……か。私よりも強い人なんて、初めて」


 廊下を歩くセフィが独り言をこぼす。


「凄かったなぁ。アークメイジオークを一撃なんて。カッコよかったなぁ……」


 セフィは数時間前の出来事を思い返す。




 極秘調査のためにダンジョンの最下層まで潜ったセフィがセーフティエリアに足を踏み入れたところだった。ダンジョンの入り口まで一っ飛びで行ける転移石を翳そうとしたところで、数メートル先に温泉が沸いているのに気づいたのだ。


 最下層は地下50階。最後に水浴びをしたのは何日前だったか。

 そして冒険者といえどセフィも女性。ダンジョンの最下層にもかかわらず思い切って温泉につかることにしたのだ。


「ちょっとぐらい、良いよね」


 そう言って丸裸で湯に浸かった瞬間、次元が裂けてアークメイジオークが出てきたのだ。


——しまった。


 そう思った瞬間、人影が見えた。

 そして目撃した戦闘。

 それは戦闘と呼ぶにはあまりにも一方的すぎた。

 

 縦横無尽に駆け巡り、あたり一面を埋め尽くす魔法をことごとく躱す黒目黒髪の男性。

 地獄の門番として恐れられるアークメイジオークを箒一本で撃破する手腕。


 彼が去った後も、呆然として暫く動けなかった。

 そのせいで軽くのぼせてしまったことは内緒だ。




 セフィは自分の胸の高鳴りに気づく。


「ショウマ様……貴方は今どこで何をしているの?」


 するとオープンオフィスの方から職員達の話し声が聞こえた。


「すいません、ショウマさん見ませんでした?」


「ああ、なんかパロアルトへ行くとか言ってましたけど……」



  ぎゅんっ!



 セフィが瞬歩のスキルで近寄ると、「パロアルトか、ありがとう!!」と思い切り握手をして感謝の言葉を投げかけた。


「私もパロアルトへ行こう!ショウマ様の後を追いに!」


 混乱している職員をよそに、目的地が決まったセフィはショウマの後を会う事を決意する。同時にぎゅっと胸を抱きしめ、くねくねと踊りだす。目がだらしなくハートになっているのだが、本人は他人の視線などまったく気にしていない様子だ。


 そうして彼女は鼻歌を歌いながら、ウキウキと旅支度を始めたのだった。



 ◇



「ギルド長!!うっわ……」


「な、なんだ、後にしてくれっ!」


 セフィが去ってから数十分後、職員がノックもせずにドアを開けると、ベルナールが濡れたズボンを乾かしているところだった。


「……ぞれが、草原のダンジョンが……っ!」


 職員は呼吸を止めて返事をする。部屋に充満する異臭に耐えられないのだ。


「魔物で、溢れがえっでいまず!」


「なぁぁっ!?」


 ベルナールは机の引き出しから遠距離通信用の水晶を取り出し、草原のダンジョンに接続した。ここは明日ショウマが点検に行く予定だったダンジョンだ。



 「ギャオオオオ!」

 「ゴブゴブッゴブゥ」

 「グルルルルル……」

 「ガアアアアアアアアッ!」



「な、なんだ、コレはぁああああ!?」


 水晶に映し出されたのは、画面が埋め尽くされるほどの大量の魔物。ゴブリン、プレーリーウルフ、クレージーバット、ストーンワーム……いくらズームアウトしても、それが途切れることはなかった。


「一刻も早ぐごのダンジョンを閉鎖じなければ、崩壊じでじまいまず!」


「せ、整備員はどうした!?」


「ぷはっ!ウ”ゥェ、ごほごほっ!……ご、ごんなの、整備できまぜん!不可能でず!」


 吐き気をかみ殺して報告を続ける職員。彼の仕事に対する姿勢は勲章物だ。


「誰でもいい!整備員を……ああああああっ!?」


 水晶が突如、がらがらがらっとダンジョンが崩壊を始めた様子を映し出した。


「ま、魔物が!ズダンビードでずっ!ギルド長!!」



 「「グォォォォオオオ!!!」」

 「「アオォォォーーンッ!!」」

 「「ゴブゴブウゥゥゥゥウウ!!」」



 瘴気に満ちた洞穴から這い出た魔物の群れは、歓喜と狂気の咆哮を上げる。


「ス、スタンピードだと!?!」


 ベルナールの裏返った声がギルド内に響き渡った。

 ロビーにたむろしている冒険者達の間にどよめきが走る。


「おい、聞いたか。スタンピードだってよ」

「ヤベエな」

「ちゃんとダンジョン整備してるのかよ、あのブタ」

「騎士団がなんとかしてくれんじゃね」


 セフィはギルドを出るところだった。

 だがスタンピードと聞いて無視するわけにはいかなくなった。

 

 魔物は自然の摂理だ。これまでも数えきれないほどの人たちが魔物に襲われてきた。風邪をひくのが普通なように、魔物に襲われるのも普通な世の中だ。


 そんな中、スタンピードは台風のような、いわば天災だ。それは疎らに起こる被害よりも予想や対処がしやすく、適切な処理をとれば大勢の命を救うことができるということになる。


 そのスタンピードが起こった。普通ならばギルド総出で対処する出来事だ。


 だがセフィはオクドラン国王直轄のSランク冒険者。つまりギルド、ましてやバーリンゲーム支部には所属していない。組織図的に繋がってはいるが、所属していないギルドに手を貸す義理はあるのだろうか。


 ショウマを追ってここまで来たが、ショウマが解雇されたと分かった以上、ショウマのいないギルドに用はない。

 そうともなれば、さっさと去るだけだ。


 だが、セフィは思いとどまる。



——本当にそれで良いのか?


  そもそも私は何故バーリンゲームに立ち寄ったのだ。

  クエストの為?

  違う。

  ……そうだ、ショウマ様に会いに来たのだ。

  お会いして、お礼を申し上げたかったのだ。


  でも、ショウマ様はもういらっしゃらない。

  でもでも、確かにショウマ様はこの土地にいらっしゃった。

  ここはショウマ様の軌跡が残る大切な土地……。


  そうだ、ここは聖域(メッカ)なのだ。

  聖域(メッカ)を魔物に侵略されるわけにはいかない——。



 セフィは心の中で葛藤をする。


 自分の欲望に従い、全てを捨て置き、愛しのショウマ様を追いかけるべきか。

 それともオクドラン王国唯一のSランク冒険者としての責務を果たし、この国とそこに住む人々を守るべきか。


 バーリンゲームはショウマ様にとっては思い出の土地に違いない。例え理不尽に解雇されたのだとしても。

 そのような土地を、私の“ショウマ様の後を追いたい”というだけの我儘で放っておいて良いのか。


 否。


 ここはショウマ様のいらした町。

 ここは聖域(メッカ)

 ここは私が守らなければ。


 ハチャメチャな思考回路でセフィは踏みとどまった。


「皆さん、聞きましたか」


 セフィがロビーにいる冒険者たちに語り掛ける。


「スタンピードが発生しました。でも大丈夫、私に任せてください。ショウマ様のいらしたこの聖なる土地に、汚らわしい魔物どもの侵入を許すなど言語道断。王国騎士団として、この聖域の土を一瞬でも踏ませるものですかっ」



「おおー、Sランク冒険者のセフィ様だ!」

「マジか、あの戦姫?竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の!?」

「王国騎士団も一緒に戦うのか!すげえな!」 

「俺知ってんだぜ!王国騎士団は何千人もいる大軍隊なんだ!」

「ショウマって誰だ」

「サイン欲すぃ」



「皆はここに残って、防衛線を張ってください。皆でこの町を守りましょう!!」


「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」


 そしてセフィは魔物の群れを迎え撃つため、颯爽と走り出した。一直線にスタンピードの発生した草原のダンジョンへと向かう。


聖域(メッカ)への侵入は許さない!」


 セフィが瞬歩を駆使して走り続けると、すぐに遠くに巻き上がる土煙が見えてきた。バーリンゲームへと向かう魔物の群れだ。


「覚悟しなさい——!」


 魔物の軍勢を視認したセフィは、走りながら聖剣を抜く。まさに猪突猛進。


「ハアアアアアアアアアア!!!!」


 渾身の横薙ぎを一振り。


 一文字に放たれた鎌鼬(かまいたち)が魔物達を襲う。前線のロックウルフやゴブリン達は為すすべもなく両断された。


 このまま全てを屠れると思いきや——



  バキィィィン!!



 それを防いだのは、山のような巨躯のゴブリン。この魔物の軍勢のボスであろうゴブリンキングだ。

 身の丈ほどあるこん棒を両手に持ち、それらを盾にセフィの鎌鼬(かまいたち)を防いだのだ。


「ギルドよりも背ぇ高そうね……!」


「ゴブルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 ゴブリンキングがこん棒を交互に振り下ろす。

 小山を爆砕し、森を吹き飛ばしながら地形を変える連撃が続く。


「ふっ!ほっ!」


 だがセフィはひょいひょいと躱し続ける。

 

「ゴアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 一撃も当たらない事に苛立ちを覚えたゴブリンキングが咆哮を上げ、当たらぬのならば地盤ごと砕かんとばかりに両手を掲げた。


「あれは当たったら痛いかな。……うわぉっ」


 回避しようと踏み込んだセフィだが、頭上がフッと暗くなった。ゴブリンキングが広範囲に唾を吐いたのだ。それもただの唾ではなく、腐食効果のある毒唾だ。


 そして逃げ場を奪ったセフィ目掛け、二本のこん棒が全力で振り下ろされた。

 


  ドドゴォォォオオオオン!!



 濛々と立ち込める土煙の中、ゴブリンキングは勝利を確信する。


「グブブブブ……」  


「甘い」


「ブフゥ!?」


 だがその首から鮮血が迸った。


「!?!?!?」


 ゴブリンキングが混乱しながら首を抑える。


「訳が分からないって顔してるわね。理解されたらそれはそれで問題なんですけどね」


 巨大なこん棒が振り下ろされ、ゴブリンキングの視線上にこん棒とセフィが重なり見えなくなった瞬間。セフィは瞬歩を用い死角から喉元に聖剣ラグナロクを突き立てたのだ。



  ズズゥゥ……ン。



 地響きを鳴らしながら崩れ落ちたゴブリンキングの向こうには、動きを止めた魔物の群れ。

 その数が半分以下にまで減っているように見えるが、さてはゴブリンキングの下敷きになったか。


 それからはセフィの独壇場だった——。



 ◇



「魔物の群れは私が掃討しました。もう大丈夫です」


 数十分後、ギルドに帰ってくるなり言い放たれたセフィの台詞に、拍手喝采が巻き起こった。


「え、もう!?」

「一人でか!?」

「さすがセフィ様だ!!」

「俺、死ぬかと思ったぜ」

「セフィ様、結婚してくださいっ」


 喧噪の中、一人の男が疑問を口にした。


「でもよお、セフィ様一人でやったのか?騎士団はどうしたんだい」


 この一言にギルド内は静まり返り、次の瞬間、怒声が沸き上がった。


「そうだ、こういう国の凶事には騎士団が出動するものじゃないのか。セフィ様お一人に押し付けるとは、何事だ!」


「「そうだ、そうだ!」」 


「ここにいますけど」


 その疑問に、セフィは当たり前のように答えた。


「「「え?」」」


 ギルド職員達と冒険者達はそろって辺りを見回した。だが自分達とセフィ以外には誰もいない。ましてや騎士団など一目で分かりそうな人たちなど、皆無だ。


「だから、私です」


「「「は?」」」


「さっきも言ったはずですが。“王国騎士団として”と。ですから騎士団は私一人だけです」


 セフィが淀みなく、はっきりと言い切った。そしてその場にいた全員の頭上に“?”が出た。



  ざわざわ。

   ざわざわ。



「えーっと……凱旋パレードが前に会ったと記憶しているんですけど、そのときの団員たちはどうされたんですか?何百人もいらっしゃったと記憶しているんですけど……」


 とギルド職員が質問をする。


「日雇いの役者達です」



  ざわざわざわ。

   ざわざわざわ。



「騎士団充ての税金はどうなってんだ、全部セフィ様にいってんのか」


 と冒険者の質問。


「税金?あなたたち騎士団に税金を支払っているのですか?」


「おう、毎年な。オクドラン王国防衛費税とかなんとか」


「初耳ですね。それに私は国から給金などもらっていません」



  ざわわわっ。



「じゃあ俺たちの支払っている税金はどこへ行っているんだ」


「……その税金は誰が徴収して、どこに支払われているんです?」


「俺はギルド経由でギルド銀行に」

「俺もだ」

「私もよ」


「ふーん……」


 セフィが考えを整理しているとベルナールが歩み寄ってきた。


「素晴らしいご活躍でございます、セフィ様。いやはや、一時はどうなることかと思いましたが、セフィ様がいらっしゃればバーリンゲーム、そして我が国も安全というもの。これからもどうかよろしくお願いいたします」


「……利害の一致というやつです。あなたのためにやったわけではありません。それにしてもギルド長、このスタンピードは元はと言えば、ダンジョン整備を怠った貴方のギルドの責任だと思うのですが。こういう異常事態が発生しないように、常日頃からダンジョン整備をするのもギルドの仕事ではなかったのですか」


「セフィ様。先ほども申し上げた通り、それはショウマというダンジョン整備員がちゃんと仕事をしていなかったからで……」


 ベルナールが言い訳をしようとしたその時。


「そんなことないっ!」


 ギルドの入り口がバァンと開き、レイナが入ってきた。ショウマを見つけられず、ギルドに戻ってきたのだ。


「そんなこと、ない!ショウマさんはいつも、アベレージの3倍の仕事をこなしていました!それも勤務時間内に全て終わらせるために、信じられないような効率とスピードで!!」


「レイナ君、何を言っているのかね。報告ではいつも異常無しだと「だまりなさい」


 セフィが割り込み、ベルナールは息をのんだ。


「レイナさん、で良いのかな。続けてください」


「そ、それはギルド長がそれ以外の報告を受け付けないからです!しかも5人いた整備員のうち4人をいきなり理由も無しにクビにして、ショウマさん一人に仕事を全てを押し付けて!それなのにショウマさんの作業報告も聞かず、ただ怒鳴り散らすだけのパワハラ!だからショウマさんは毎日、ダンジョンを異常無し(・・・・)にした(・・・)んですよ!いつも何も言わない謙虚な方でしたが、無数の異常事態を全て一人で解消されていたんです!!」


 レイナの供述を聞いた冒険者たちの間にどよめきが走る。


「仕事を全部押し付けていたってわけか」

「それ以前の問題だろう。理由も無しにいきなりクビとか」

「え~、それってひどくない?」


「今回のスタンピードも、ショウマさんがいたら起こらなかったはずです!ギルド長、このスタンピードは貴方一人の責任です!!」


 真っ赤な顔のレイナの隣で、セフィが冷たい目をベルナールに向ける。


「ギルド長。これは由々しき事態ですよ」


「セ、セフィ様、これには訳が」


真実の神域(トゥルースゾーン)。なぜショウマ・サダモトを懲戒免職にしたのですか」


 暖かい光がベルナールを包む。それが何か瞬時に理解したベルナールは、両手で口を覆った。

 だがそれが真実の神域(トゥルースゾーン)の効果を打ち消すわけもなく。


「むがもご、く、黒髪の孤児なんぞ切って捨てても問題ないだろうがっ。それよりも俺様のために国から給金をもらい続けることの方が重要だ」


 語りだしたベルナールの顔から血の気が引いていく。


「給金?それがショウマ・サダモトとどう関係しているのですか」


 セフィの疑問にベルナールの口が勝手に答える。


「そんなこともわからんのか。これだから脳筋の冒険者は。いいか、ギルド職員は公務員だ。つまり給料は国が出している。毎月末に、ギルドが国へ職員の名簿などの諸々の書類と共に合計給金額を申請して、数日後にそれがギルド銀行に振り込まれる仕組みだ。そこから職員に給料が現金で支払われている訳だが、本来ならその口座は厳重に管理され、ギルド長と出納係が共同で管理することになっている。この出納係が頑固で面倒な奴だったんだ」


 ベルナールは世話しなく手を動かしているが、その口はつらつらと語り続ける。真実の神域(トゥルースゾーン)の効果で体が言うことを聞かないのだ。いくら懸命に自分の口を閉ざそうとしても、それが黙ることはなかった。


「だからソイツをクビにして俺様が出納係を兼任することにしたんだ。年に数人のクズ共をクビにして、国にはいつも通りの書類を提出し、給金額を申請する。そして本来ならばそのクズ共に渡るはずの給金を俺様が受け取ることで、帳尻を合わせるって寸法だ。受け渡しは簡単だ。現金だからな。受取人がクズ共から俺に代わるってだけだ」


 自身の悪事を暴露しながら、ベルナールは抵抗を止めない。今も必死に口を塞ごうと、両手をバタバタさせている。


「なぜこの様な事を?」


「こいつらは仕事も満足にできん役立たずのクズ共だ。だがどんな役立たずにも利用価値はあるものだ。ただクビにするだけではもったいない。だから利用させてもらったまでだ」


 数瞬の沈黙。

 ギルド内の全員がベルナールを睨みつける。


「……ギルド長。ご同行願います」


 セフィが真実の神域(トゥルースゾーン)を解くと、ベルナールは勢いよく口を紡ぎ、ホッとした顔を見せた。

 だが「同行」という言葉を頭が理解すると、またも口を開いた。


「!!な、何をするつもりだ!?」


「連行します」


「お、俺は公爵家嫡男だぞ!」


「聞く限り、オクドラン王国から結構な額を詐取されたようですね。この際お家柄は関係ありません。裏を取る間、とりあえず牢屋にでも入っていただきます。そしてSランク冒険者として国王に進言しましょう。最低でも爵位剥奪と全財産没収をご覚悟ください」


「ひっ!爵位と財産っ!!ふざけるな!やめ、やめてくれ!」


 そしてどこからか取り出した縄を使って暴れるベルナールを締め上げると、軽々と肩に担いでセフィは去っていった。


「嫌だああああああああああああああぁぁぁ……」とベルナールの声が聞こえなくなるまで、ギルド内の全員が動かなかった。


「このギルド、どうなるの……」


 呆然気質としたギルド職員の一人が零したが、答えられる者はいなかった。



++++++++



「うーん、仕事以外での外出ってのは久しぶりだな。開放感がハンパない」


 バーリンゲームを出てすぐのあぜ道。町を背に、うんと伸びをする。家に帰ってから物を全部収納(ストア)に入れていたら地味に時間がかかってしまった。


 幸い夏場だからまだ日が高い。明るいうちにさっさとパロアルトへ向かうか。お隣さんとはいえ、パロアルトの国境までは結構距離があるからな。


 えーっと、今朝の森のダンジョンまで逆戻りして、草原のダンジョンを超えて、さらにその向こうの山脈のダンジョンも超えるのか。山脈のダンジョンはパロアルトの管轄だから初めてだ。


 歩いたら数日かかるから、さっさと走り抜けようかな。野宿は嫌だしね。


身体能力向上(フィジカルブースト)


 良し良し、これでバーッと走ればすぐだ。これなら山脈のダンジョンまで数十分くらいだろ。

 ダンジョンか。そういえば五年前に成人して仕事についてからは、毎日毎日ダンジョンに潜っていたな。


 まあ、そんな日々からはもうオサラバだ。

 パロアルトに何があるかは分からんが、とりま行ってみよう。

 


 ◇



「なんかメンドクサイことになってんなぁ」


 森のダンジョンを通り過ぎて直ぐ。草原のダンジョンから魔物の群れが湧き出ているのが見えた。


 スタンピードか。あそこは確か明日行く予定だったダンジョンだよな。先月張った結界が破られたか?

 勤務時間外だし対処する義理もないけど、どうすっぺかな。てかクビになったから良いか。回り込んでいこう。


 草原のダンジョンを視野に入れながら迂回する。呑気に遠目に見ていると、山のような緑の巨体が姿を現した。


 ……おおぉ。ゴブリンキングまで出てきたぞ。流石にデケエな。あれの討伐はバーリンゲームギルドでも骨が折れるぞ。対処しきれなくなるんとちゃうかな。

 

 どうしようかなあ。めんどくさいなあ。……ん?


聖域(メッカ)への侵入は許さない!」


 んん?誰か突っ込んでくぞ。誰だありゃ。てかメッカとはなんぞや。


 おお、強い強い。どんどん魔物を倒してる。……んでゴブリンキングとの戦闘に入った。


 あらら、残念賞。こん棒の連打を避けてる間に他の魔物が走り抜けていくぞ。流石に一人でゴブリンキングを相手にしながら無限沸きしてくる雑魚共は対処しきれないか。まあ仕方がない。じゃあちょっとだけ手を貸してやろうかな。


捕縛(バインド)。念力(フォース)


 丁度誰かさんがゴブリンキングの喉を掻っ切ったみたいだからな。こーやって動けないように捕縛してから、ゴブリンキングの落下予想地点にもっていけば……。



  ズズゥゥ……ン。



 ビンゴ。見事に潰れてくれた。これであと半分くらいかな。

 おうおう、あの人怖いねえ。残った魔物を一網打尽だよ。


 んー、勝手に横槍を入れといてなんだけど、ただ働きをした気分だ。残業手当申請したいな。でも事前申請してないし、ていうかもうギルド職員じゃないし、もう無理か。

 ま、いいか。


 先行こ、先。


 

 ◇



 お、着いた着いた。これが山脈のダンジョンだな。ここ整備したことないから初めてなんだよね。


 陰気臭い所だな。日が当たらないからなのか、ジメジメしてて虫系の魔物が多いらしい。しかも昔この辺りで戦争もあったらしくて、何気にアンデッドも多いらしい。

 

 何はともあれ。


「お邪魔しまーす」

「ウォロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ!!!」


 入っていきなりリッチが大声で出迎えてくれたよ、オイ。

 なんか魔法飛ばしてきてるし。とんだウェルカムだね。


「ども、お邪魔してまーす。収納(ストア)。えー……。あったあった、これこれ」



  スパコーン。


 

 うんうん、やっぱりアンデッドにはエクスカリバーだよね。

 リッチさんバイバイ。


 人の話を聞かなそうな奴らは早々にぶっ倒すに限る。

 さて、それではさっさと抜けてパロアルトに行こうかな。



 ◇



 山脈のダンジョンは思いの外あっけなかった。高難易度ダンジョンって聞いてたんだけどな。

 まあリッチが出てくるぐらいだから、あのダンジョンが高ランクであることは伺える。


 でも出現する魔物だけじゃなく、攻略の行程も複雑で難関だと聞いたんだが。迷路で迷ったり罠に引っ掛かったりしておっ死ぬ奴らが多いとか。


 面倒くさかったから、壁をぶち破りながらゴリ押しで真っすぐ突き進んだら出れたけど。なんか拍子抜けだ。


 いやー、それにしてもすっきりしたな。壁にベルナールの顔を思い浮かべて思いっきり殴るの楽しー。今までダンジョン整備で壁破壊とかできなかったもんな。でも今はもう整備士じゃないし、関係ないもんね。


 とにかく、外に出れた。このまま進もう。


 お、あれは町かな?




 看板を読む限り、ここはウィロウという村らしい。

 バーリンゲームと違って、長閑そうな所だ。

 周りには畑が沢山あるから、農村って感じだな。


 それにしても暗くなってきた。まあ、仕事が終わってから直で来たからな。いくら身体能力向上(フィジカルブースト)があるとはいえ、時間までは止められない。店とかも閉まってるだろうし、今夜は宿だけ探して仕事探しは明日にしようかな。ここにもギルドはあるだろう。明日探してみようっと。


 とりま、宿は……と。

 お、明かりのついてる建物があるぞ。あれが宿かな?



 

 ありゃま。“パロアルト冒険者ギルドウィロウ支部”……。これギルドじゃん。こんな時間でもやってんのか。忙しそうだな。中の騒ぎが外から聞こえるぞ。スタッフさん、お疲れ様アンドご愁傷様。


 ドアにスタッフ募集の張り紙が張ってあるけど、こんなクソ忙しそうな所に勤めたくないな。やっぱり仕事っつったら九時五時が良いよ。


 でもこんなに小さな村なのに、なぜにこんなに人がいるの?ギルド兼酒場兼宿屋、とかか?

 考えてても仕方がない。お邪魔しまーす。



  ざわざわ

   どたばた



 うお、人多いな。

 あれ、でもわいわいがやがや賑わってるのとはちょいと違う雰囲気。なんていうか、慌ただしい感じがする。


「ギルドマスター、山脈のダンジョンの件でお話が」

「ええい、わかってる!」

「一刻も早く対処をお願いします」

「今は人手不足だ!」


 ん?この人たち全員職員か?

 こんな夜遅くまで仕事してるとは、異常事態でも発生したのか。

 そんなことはどうでも良いか。宿がどこかだけ聞いてさっさと出るか。

 

「あのー、すいません、宿ってどこでしょうか」


 適当な男に話しかける。真っ白な長髪を後ろに束ねた、優男というが第一印象の初老の男だ。


「んあ?この町の宿はここだけだが、もう空きは無いぞ。ギルドに用があるのなら、明日営業時間中に来てくれ。悪いな」


 ええー。


「じゃあ野宿か……。仕方がない。急いでダンジョン抜けんでも良かったかな」


「お、おい。今ダンジョンつったか?アンタ、どっからどうやって来たんだ」


 え、食い気味。怖。


「オクドラン王国のバーリンゲームからですが。山脈のダンジョンを突っ切って来ましたけど」 


「山脈のダンジョンを抜けてきたのか!?」



  ざわっ……。


 

 周りが一瞬ざわついて、直ぐにシンと静かになった。視線が痛い。

 どうしたどうした。一体全体どうしたってんだ。


 内心キョドってると、目の前の男がパンッと両手を合わせてお辞儀した。

 

「アンタを腕の立つ冒険者と見た!頼む、偵察パーティーに加わってくれ!!」


「は?」


 ほわっつ。

 いきなり何。


 

 ◇



 で、やってきました山脈のダンジョン。


 さっきギルドで会った人は実はギルドマスターで、ソロモンさんというらしい。

 山脈のダンジョンで異常事態が発生し、偵察パーティーを送り込むから一緒に行って欲しい、とせがまれたのだ。


 というわけで四人パーティーの人達と一緒に来ています。


 レザーアーマーの茶髪チャラ男。同い年っぽい。

 ボンキュボンの魔術師風なお姉さん。清楚系で見惚れてしまう程の美人だ。

 重装備なマッチョマン。白髪がちらほら。

 道着を着ているツインテ美少女。童顔で幼さが残るけど両腕両足ムッキムキ。


 この人達、パロアルト王国から派遣された冒険者たちらしい。

 俺は皆の事知らないし、皆も俺の事知らないんだけど良いのかな。

 出会って秒でパーティーに編成されるとは思いも寄らず。でも引き受けたらソロモンさんがギルドマスター権限で部屋貸してくれるっちゅーからね。野宿は嫌だからね。


「良し、皆揃ったな。ショウマだっけ、一応挨拶をしておこう。ダンジョンの偵察を任されることになったライアンだ。一応Bランクパーティー“ヴァンガード”のリーダーでもある」


 茶髪なチャラ男がなにやら話し始めた。


「俺の仲間たちだ。魔術師のライラ、重戦士のガイ、武闘家のスゥ」


「ん。よろしく」

「ガハハ、盾なら儂に任せろ」

「ども」


 呼ばれた順に返事をしてくる。一見素っ気ないけど、全体的に良い人たちそうで良かった。


「知っての通り、ここはAランクダンジョンだ。通常のダンジョンボスはリッチ。魔法攻撃を得意とするアンデッドだ」


 ん?

 リッチならさっき倒したはずだけど……。


「だが、そのリッチが通常フロアを徘徊する異常事態が発生した」


 ああ、なるほどそういう事か。


 俺は瞬時に理解した。

 ダンジョン整備士なら直ぐに分かる内容だ。



 ダンジョンにはいくつか規則性がある。


 第一に、ダンジョンのランクはボスに依存する。例えばAランクのリッチがボスならば、このダンジョンはAランクと認定される。

 第二に、ボスはボス部屋を出ない。代わりにダンジョンをパトロールするように徘徊する魔物達は、ボスよりも弱い魔物だ。

 そして第三。ダンジョンの規則性で一番重要なのが、ボスは半永久生命体だという点だ。


 本来のダンジョンボスはAランクのリッチ。一口にAランクと言ってもピンキリだが、リッチは中堅。そこそこ強い魔物だ。つまりこのダンジョンではBランク、またはリッチよりも弱いAランクの魔物しか通常フロアを徘徊しないはず。

 だがオクドラン王国側から入った時、即リッチと出会った。それはつまり、リッチがボスの座を奪われたという事。そしてその新ボスは、リッチよりも強いという事。



「つまりリッチを退けるほどの強敵が新ボスという事、ね。どれだけ強いのかしら」


 魔術師のライラが呟く。


 そう。この新ボスはどれほど強いのか。それが一番の懸念だ。

 なぜなら、ダンジョンの規則性第三のルールが、ダンジョンを管理する上で最も重大なファクターとなるからだ。


 ボスは半永久生命体。

 モブとして出現する魔物は切って捨てたらそれまで。魔素と化して霧散する。

 だが、一度ダンジョンボスになった魔物は、討伐しても魔素がボス部屋の中に留まり、しばらくしたら復活するのだ。


 つまりダンジョンは死なないという事。そして新たな魔物が無尽蔵に湧いて出てくるという事。

 この無限沸きしてくる魔物を継続的に討伐し、数を一定数以下に抑えておかなければスタンピードが発生する。だからダンジョン管理にはランクをしっかりと把握して、適材適所で冒険者や整備員を投入する事が必要不可欠なのだ。


 とにかくリッチを追いやったという事は、新ボスはおそらく上位のAランクだろう。ていうかそうであって欲しい。Aランクの上はSランクしかいない。Sランクと言えば、魔王とその配下しかいない。


 スタンピードの被害を視野に入れると、ボスの情報は必要不可欠だ。Aランクのスタンピードで国が一つ滅ぶのに、もしも新ボスがSランクだったならば……。


「まいったな。思ったよりも深刻じゃないか。Sランクでなければ良いんだが」


 ぽつりと零すと、


「話が早いな。その通り。俺たちは一刻も早くダンジョンの最下層まで潜り、新ボスのデータを収集しなければならない。いいか、今回はボス討伐が目的じゃあない。あくまでも偵察、そしてデータ収集が目的だ。ヤバくなったら速攻で逃げるぞ」


 なるほどなるほど。

 事情は理解した。


 でもなんで俺が編成されてるわけ?

 てか重戦士とか、偵察に向いて無くない?


「ではフォーメーションを説明する」


 ライアンが地面に枝でなにやら書き始めた。

 横からライラが光魔法で照らしてくれる。あらやだ、気が利くわねアナタ。


「一列縦隊で行く。山脈のダンジョンは通路が細く、入り組んでいるからな」


 ガリガリと丸が五つ描かれた。


「先頭先導にショウマ」


「え”」


 いきなりかーい。


「このダンジョンを抜けてきたばかりらしいからな、マッピング情報もフレッシュだろう。それにソロで抜けてきたっていうんだから、強いだろう。前方からの攻撃にもリアクションできる。というわけで、案内役を頼む」


 というわけでって。

 案内役は先頭に立たんだろーが。


 ていうかマッピングもなにも皆無なんだけど。壁ぶち破って直進してきたんだけど。それ分かってる?ねえ?

 責任重大じゃんかよー。あー、なんか緊張してきた。


「二番目がリーダーの俺。シチュエーションに応じて皆に命令を下さなきゃいけないからな。そのためには状況をいち早く理解するために、なるべくアクションに近い先頭にいたほうが良い」


「私は?」


「急かすな。スゥ、お前は三番目だ。前方と後方、両方の援護を頼む。すぐに対応できるように常に気を配っておけ」


「分かった」

 

 スゥちゃん、せっかちなのね。可愛らしい。

 妹ってこんな感じなのかな。

 もうちょっと距離感あるから親戚の子って感じかな。


「四番目がガイ。一撃一撃が重たいお前にはキルを狙ってほしい」


「盾じゃないのか」


「さっきも言っただろう、今回の目的は攻略じゃない。偵察だ。ショウマの案内で真正面から敵とぶち当たるようなことは極力避けていくんだよ。で、バトっちまったら俺とショウマが相手してる間に後ろから追い打ちをかけてほしい。でも、万が一、最後尾のライラが襲われたら盾になってやってくれ」


「おう、そういう事か。儂にまかせとけ」


 なんか俺が隠密行動できる風な会話なんだけど。しかもバトったら俺も参加する事前提なんだけど。


「最後尾がライラ。後方支援をたのみゅ」


 あ、噛んだ。


「……わかったわ」


 ライラさん、ツッコまないのね。優しい。

 

「……では、準備は良いか?行くぞ!」 


 ライアン君、何事もなかったかのように振る舞ってるけど、皆そっぽを向いて笑いをこらえてるの気づいてる?気づいてるよね。アンタ顔真っ赤だよ。

 いやー、なんか緊張感が吹き飛んじゃったよ。こんなんでいいのかな。



 ◇



「え、もう?」


 巨大な扉を前に、ライアンがびっくりしている。

 いや、俺もびっくりだよ。


 結局一回も敵に合わずにボス部屋まで来てしまったからね。

 どうやってこのダンジョンを抜けたのかって聞かれたから、「壁をぶち破って真っすぐ来た」って言ったら冗談だと思われたらしく。壊れた壁も元からそうだった、みたいな感じで軽く流されて。


 で、ここまで来ちまったからには今更後には引けず、適当にあっちこっち歩いていたらいつの間にかボス部屋到着。しかもエンカウントゼロ。


「あっけなかったな」


 ガイがつまらなさそうに言う。

 俺も同感。


「さっさと中入っちゃおうよ」


「あ、おま、待て」


 ライアンを無視してスゥが扉を開く。

 お前、仮にもボス戦だぞぅ?準備を怠るなよー。



  ボッ。

   ボッ。

    ボボッ。

     ボボボボボボッ。



 真っ暗な部屋。

 壁際に並ぶ無数の大燭台が、次々と炎を灯し始めた。


 すっげー。どんな仕組みだよ。


「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!」


 どす黒い翼を生やした獣が、姿を現した。


「カースデーモン!!」


 ライラが叫ぶ。


「おい、逃げっぞ!!」


 おいおい、カースデーモンって、Sランクじゃんかよー。

 ライアンの言うとおり、逃げた方が良いな。


「すべては……魔王さまの……ために……」


 また魔王か。アークメイジオークも同じような事言ってなかったか。


 えー、なに、魔王復活するっぽい?

 そんなことよりも、とりま逃げましょう。スタコラサッサとな。


 あ、なんか来た。



  ブォンッ!



「危ねぇ!」とガイが皆の前に盾として立ちはだかる。だが捨て身の防御も空しく、


「うわぁっ!」

「ぐあっ!」

「きゃあ!」

「あうぅっ!」


 風切り音と共に周りの四人がぶっ飛んだ。


 あれれ、何気にヤバくない?



 ◇



 カースデーモンとの戦闘にはいってから、どれくらい時間がたっただろうか。


 この場で立っているのは、俺だけだ。

 俺だけになってから、どれくらい経つ?何秒?何分?それとも何時間か?

 時間の感覚がマヒってるぞ。


 次々に炎やら氷やら飛んでくるからな。距離を取ろうにも突進を織り交ぜてくるから、息をつく暇もない。

 データ収集が目的で戦闘は回避するんじゃなかったのかよ!


 ああ、もうスゥちゃんの所為だ。んでもってスゥちゃんをコントロールしきれなかったライアンの所為だ。てかもうこの際、誰の所為でもいいや。俺の所為でなけりゃあ。

 宿を探したかっただけなのに、なぜこうなったちくしょうめ。


「……っ!!」


 瞬きした瞬間に襲い掛かって来た炎を躱す。


 体勢を崩された!やべ、来る……っ!っとぉ!っぶな!!

 ……ヒュー。いやー、流石Sランク。危ない危ない。


 それにしてもヴァンガードの皆さん、一瞬だったな。

 拍子抜けだなぁ。ただの素振りの風圧(・・・・・・・・・)で皆吹っ飛ぶんだもん。でも皆無傷っぽい。壁に直撃する前に物理結界(シールド)張っておいて良かったよ。

 

 あれ、向こうさんの動きが止まったぞ。


『……貴様、名乗れ』

「ん?」


 あれ、こいつ話しかけてきたぞ。


『三度は言わん。名乗れ』


 え、なんで。

 悪魔に名前なんか教えたくないんだけど。なにこれ、なんの呪いの下準備なの。



  ボゥッ

  ボゥッ



 うわぉ、両手に黒い炎を出しやがった。返事しなかったら殺される流れだぞ、これ。しゃーない。


「……ショウマ」

『ショウマ。貴様、我が軍勢に下らぬか』


 は?


 なに、悪魔にスカウトされてんの、今?

 なにそれありえない。

 

「えーっと。お断りします」

『そうか。ならば逝ね』


 あらら、なぜとか聞かないのかい。

 黒い炎が来るぅーっ!


反射(リフレクション)!」



  バキィィィン!

   ボオオオオオッ!!



 アチチチ!リフレクしてもこれかよ。直撃したらヤバいことになってんぞ。


『……何をした』

「何って。反射させただけだけど」

『……今一度問おう。我が軍勢に下れ』


 問いてねーし!命令形だし!


「お断りします」

『そうか。残念だ』


 

  ヴォンッ!



 うっわ、瞬歩か!てか爪!物理!これは反射できん!

 影移動(シャドウムーブ)


『……っ!!』


 カースデーモンの爪が空を切った。 


「えい」



  スパーン。



 カースデーモンの後ろに移動して収納(ストア)でエクスカリバーを取り出し、首チョンパ。


『くっ……貴様……っ!』

「ばいばい」


 いやはや、焦った焦った。ずっと向こうのターンで、反撃するチャンスがなかったもんな。

 

『人間……なぜ……つよ……』


 カースデーモンが魔素となって霧散した。

 やったぜ、討伐成功。でもこいつダンジョンボスなんだよな。放っといたらまた復活するのか。面倒くさい。


 んー……。じゃあ封印しちまえ。


 収納(ストア)。えーっと……あったあった、“封魔の壺” x5。こいつらを部屋の真ん中に置いて、と。


吸引(バキューム)


 

  ズゴゴゴゴゴゴゴ……



 空気中に霧散しているカースデーモンの魔素を吸い込み、一か所に集める。いつもは掃除に使うんだけど、こーゆー時でも使えるから便利だよな。で、集めたカースデーモンの魔素を五等分にして壺に入れる。さて、次は。


魔法結界(バリア)x5」



  ヴォヴォヴォヴォヴォンン。



 良し良し、順調順調。こうすればカースデーモンの魔素が集まって復活するような事がない。万が一壺の中で小さくなって復活したとしても、ランダムで五等分にされてるから完全体で復活することはない。さらにさらに魔法結解(バリア)を張ってあるから、壺から出れたとしても魔素で構成されているカースデーモンの体は魔法結解(バリア)を抜けられない。


 これで良いかな。

 んー、でも腐ってもSランクだからなぁ。万が一の万が一もあり得るわけで。


 ……じゃ次元の狭間に縫い込んでしまおうか。

 

 五つの壺を部屋の四隅と中央にそれぞれ一つずつ配置。そんで次元縫合ディメンションスティッチを使って次元の層を伸ばし、それぞれを餃子のごとく包み込む。


 良し良し、これならもう大丈夫だろう。


 んじゃヴァンガードの皆さんを起こして、ウィロウに帰ろうか。

 おーい、起きろー。



 ◇



「ただいまーっと」


 無事に帰還した俺たちはその足でギルドへと向かう。

 もう夜明けも近いだろうという時間帯。こんな時間に誰もいないだろうけど、宿がギルドの二階だからな。


「戻ったか!良かった、無事で」


 出発した時と違い、ギルド内はがらんどうで静まり返っていた。出迎えてくれたのはギルドマスターのソロモンさんだ。


「ギルドマスター。只今戻りました」とライアンが返事をした。


「で、どうだったんだ?」


「カースデーモンでした」


 ライアンが単刀直入に言う。それを聞いたソロモンは目を見開いた。


「!!……良く生きて帰って来れたな」


「ええ、ショウマさんのお陰です」

「おう、俺ら気ぃ失ってたもんな!気づいたらショウマがカースデーモンを討伐した後だった!ガハハハ」

「あたしも戦いたかったのに。ショウマだけずるい」

 

 ライラ、ガイ、そしてスゥもコメントする。

 

「そうか。ショウマ君、ウィロウを代表してお礼を言わせてくれ。ありがとう」


「いえいえ、そんな大層な事はしてません。職業柄ああいうのは慣れっこですし」



 「「……」」



 あれ、皆固まったぞ。

 どうした。


「いやいやいや。カースデーモンを一人で討伐しておいて慣れっこって。冗談が過ぎるぜ」

 

 ライアンが呆れ顔で言う。

 まあ確かに大変だったけど、ボス討伐はバーリンゲーム付近のダンジョンでも結構やってきたからな。それに今回、俺は基本的に逃げ一辺倒だったし。斬れたのもエクスカリバーのおかげだし。


「とにかく、本当にありがとう。今夜はゆっくりと休んで行ってくれ。すまないが、俺は失礼させてもらうよ。カースデーモンが復活する前に今後のあのダンジョンの整備について、ギルドマスターとしてプランを建てなきゃいけないんでな」


「ああ、それなら大丈夫だと思います。封印したんで」


「……は?」


 あれ、ソロモンさん耳悪いのかな。


「……封印、したんで、大丈夫だと、思います」


 ゆっくりと復唱する。


「……へ?ふう……いん?」


「はい」


 しつこいな。


「え、どうやって?」


 どうやって、って……。

 かくかくしかじかと説明する。めんどくさいな、もう。


「……驚いた。そんなことができるのか」


「ええ、まあ練習すれば誰でもできますよ」


「いや無理だりょ」と突っ込むライアン。君はまず滑舌を良くする練習から始めようか。


「と、ところで。ショウマ君は何をしにこんな辺鄙な田舎へ?」


「ああ、前の職場をクビになってしまいまして。新しい仕事を探しているんです」


「ショウマがクビぃ!?儂ですら分かるぞ、ソイツは大馬鹿者だ」

「本当に、ね」

「ぶっ飛ばしましょうか。どこの誰です」


 ブタ貴族のボンボンですが。てかスゥちゃん怖い。 


「んで仕事を探してるんですが。良い所しりません?」


「それならこのギルドで働いてくれないか!?ショウマ君なら即採用だ!」


「え、面接とかは……?」


「そんなもん飛ばしてかまわん!俺が書類を埋めておくから!」


 ええー、適当だな。良いのかな。

 のんびり仕事を探してのんびりした仕事につきたかったんだけどな。

 

 第一印象は忙しそうな所って感じだったけど、あれも異常事態が発生したからだしな。

 普段はそんなに忙しくないんだろうな。田舎の農村だし。


 むむ。どうしようかな。バーリンゲームは都会で管轄のダンジョンも数が多かったし、ベルナールも人使いが荒いクソだったからな。


 その点ウィロウはそうでもない感じがする。もうちょっと調べてから決めても良いと思うんだけど、正直もうオファーが来てるのに他を探すのもなぁ。


「ダメか?」


「ん―……いいですよ」


「そ、そうか!うちに来てくれるか!やった!」


 文字通り諸手を挙げて喜ぶソロモンさん。


「ショウマ君、パロアルト王国冒険者ギルド、ウィロウ支部へようこそ!」


「はい、こちらこそよろしくー」




 こうして俺のセカンドライフが始まったのだった。

練習用に書き上げた短編です。

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