前編 ありきたりな朝に
朝がきた。スマホを見る。時間は7:30だ。
あーあ起床時間だ。通学にかかる時間は40分。急いで仕度をしないとギリギリだ。
でも遅れちゃいない。オレはギリギリの男。こういう予定なんだ。これで合っている。
ニュースアプリくんが情報を流してくる。事件や世界情勢、地元のニュースなんかだ。ふーん、見ないよ、お疲れちゃん。んで、占いでは今日のオレの星座は一位? 大事なものを無くしそう? 一位なのに無くしそうなの? はぁ、そうですか。
台所へ。朝食は······ない。これもおかしくはない。オレがいつもギリギリなので、食べる食べないが安定しないからだ。
朝食があったとしてそれを食べるか食べないかは1分の余裕のあるなし、そして食べやすいものかどうかで変わる。
時間があり、食べやすいものであれば口につっこむ。どちらかがアウトなら食べない。
そんなランダムイベントに毎日付き合っていられないので、いつの頃からか親は気が向いた時にだけ朝食を用意するようになった。
朝からの賭け事が一つ増えた具合だ。いいね、朝からハラハラするよ。
本日はオレの負け。余裕はあったが食事はない。冷蔵庫を少しだけあさるが30秒ほど時間を持て余した。
洗面所へ。
優雅だね、少し身なりを整える時間がある。
ベースがベースなので見た目は適当だ。汚れてなければいい。歯ぐらいは磨くか。
この見た目がもう少しよければもうちょっとアリサに話しかけたりするんだけどな······
幼なじみのアリサとはいつの間にか疎遠になった。オレが距離をとるようになった。
わかるだろ? 照れとコンプレックスだ。
アリサはどんどん美人に育って、頭もよくスポーツもできるみんなの人気者になった。
なのにオレときたらなんの取り柄もないまま醜く成長してしまった。オレの女子からの影でのあだ名は『改造兵士』だぞ。そこまで言うかね?
そこまでボーッと考えて30秒浪費などしたる後、毛羽立って開きまくった歯ブラシに歯磨き粉を出した。そして、その歯ブラシを口に持っていくあたりで気づいた。
壁掛け時計が今6:35を指している。
はあ? おい壁掛け時計くん、貴様一時間も遅いぞ。たるどるな。まだそんなに時間かあると思っているのか? 呆れたよ、まったく危機感のないやつ······
テレビをつける。6:35だ。
おやおやこれは。
思わぬ拾い物だ。まだどうやら一時間余裕があるらしい。
あーあ、もう一時間寝れたのに残念だなー。でも起きちゃったしなー。
じゃあちょっとゆっくりするか。一時間ほど。
適当だがとりあえずさらに冷蔵庫内のものを食らい、歯をみがき髪も整えた。どうだ少しは生気が出てきたろう。
とりあえずバカスマホの時計をアジャスティングしてやらないとな。世話のかかる奴だぜ。
スマホを手に取る。当然の面構えで7:50を示している。
バカめが。指導してやろう。
設定をいじる。
変わらん。
さらにいじる。
変わらん。わからん。
は? だいたいなんで時間ズレてんだよこいつ。バカかよ。オレが買ったのはバカートフォンなのか?
今はまだ7時にもなってないだろ? ほら、PCくんもそう言ってるぞ。
なんだってんだよ。ほら、時間を検索してやる。それ6:55······7:55!?
は? バカホのネット上も7:55?
PCは······いや6:55!
なんだこれ。なんだこれ。
今、スマホの時間は8:00だが、本当の時間は7:00だ。他の時計らしい時計も全部そうだし、わざわざ電話の時刻通知まで確認してやった。間違いない。
そうだ。スマホだけ、スマホの中の世界だけ一時間先を示している。
全部だ。ネットもアプリも全部そう。
なんだこれ。
もし、もしだけど、本当にこのスマホが一時間先の世界を反映していたら?
一時間先のネット情報を確認できるとしたら?
なんでもアリだ。
具体的には、えーと、そうだな······株で無敵だ! な! 株だよ株!
あとは、えーと······あの······お天気とか、さ······
ふと思いついてニュースアプリを見てみる。
地元のニュースが目に飛び込んできた。
オレがいつも使う駅の7:15の電車で事故があり遅延があったという。
日付、時間は間違いなく今日の十五分先の出来事だ。つまりこれは未来を予言している!
これは面白い! 今から急げば間に合う! 直に確認してやろう!