休暇はショコラーダと共に。
ずっと空気だったお父さんの事も書いてみたいなー?なんて。
「あぁ、やっと終わった……」
力尽きて倒れそうになる身体をなんとか支え、足につけた鈴を鳴らしリズムを刻んだ。
浮かぶ帰還の魔法陣。迷う事なく飛び込む。
久し振りに聞こえた帰還の音に、本を読んでいた男が顔をあげる。
「けっこう時間がかかったね?」
少しして現れた使い魔を見てそう問いかけた。
「面倒くさいヤツをぶっこんできたのはご主人だろーが……」
げんなりとした顔で使い魔の猫は足を差し出す。
帰還の魔法陣を刻んでいた鈴からは何の音もしない。主人であろう男は鈴を外して、壊れた箇所はないか確認を始めた。
「そういえばさ?」
「なんだ? ご主人」
「君のとこの娘さんって『イヴちゃん』だっけ?」
点検をし新たな帰還の陣を刻んだ鈴を片付けると、主人である男は使い魔に話しかけた。
「うちの娘はイヴだが、それがどうした」
「なら、イヴちゃんが2年ほど前から行方不明なの知ってる?」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
どうやら使い魔の猫は娘が行方不明になってるのを知らなかったらしい。
おかしいな?たまに休暇をあげて家に帰してあげてたはずなのに――――
「……なっ……? 嫁は何も……」
「奥さん、何て言ってたのさ」
「イヴは今は家にいないって」
そらそうだ。確かに今は家にいない。何せ、行方不明なのだから。
「友達の所にでも行ってるのかと思ってた……」
「毎回そんなことある?」
「ご主人が!! ほんっとーーーーーっっに!! たまにしか休みをくれない上にいきなり『お休みあげるね♪』って家に放り込むからだろうが!!」
おっと、知らされない原因は僕だったか――!!
なんて顔をしながら主人である男は新たな魔法陣を宙に刻む。
「それでね? 君には少し休暇をあげるよ」
「まった急に!!」
「いやいや、ご褒美だよー。今回の仕事は大変だったからね~」
使い魔の猫を掴んで魔法陣へ放り込む。ついでにいくつかの荷物も。
「不安を煽るような事だけ言って休暇とかふざけんなーーーー!!」
「しっかり休んでおいでよ♪」
魔法陣がどこに通じてるかあえて言わずに、男は浮かんでいた陣を消した。
「今回の休暇は長めにしたよ。楽しんでおいで」
そう呟いて、主人である男は再び本を読み始めた。
「ねぇ?何かの音がする」
ふと聞こえた耳慣れない音に、可愛い黒猫は首をかしげる。
「あぁ、うん。知り合いの使い魔かな? こないだ『ちょっとそっちに送るからよろしく☆』って手紙が来てたよ」
せっかくの2人の時間を邪魔するなんて迷惑だよね。と黒猫を優しく抱き上げ、少し離れた場所にとある使い魔を迎える陣を刻んだ。
陣が開き、使い魔が現れる。
場所を聞かされてなかったのか、使い魔の猫はきょろきょろ見渡しながら声を出す。
「すまない、主人に『休暇をあげる』と言われたのだが……」
「お父さん!?」
「イヴ?」
抱き上げられていたにも関わらず、黒猫は使い魔の元へと飛び下り駆け寄った。
「お父さん、久し振りだね~~。お母さんは?」
「え、いやお母さんは……イヴ、行方不明って聞いてたんだが……」
状態が飲み込めてない父親であろう使い魔は、なんとか言葉を続ける。
「行方不明? お母さんとは連絡とり合ってるよ?」
こないだもちょっとだけ家に寄ったんだ~~♪ なんて何もなかったように話す娘に、使い魔は視線をある方向へと向けた。
イヴを抱き上げていたヤツは誰だ? と。
「イヴ、お父さんに会えて良かったね」
「うん!! お父さんは優秀な使い魔だから滅多に帰ってこないんだよ」
「そっか。なら、今回の休暇は一緒に過ごせるんだね」
「お母さんがいないのが寂しいけど、お父さんに会えて嬉しい!!」
嬉しそうに「あれがね、それがね」と話す娘は可愛い。
――が、この男は確か――、分かりやすく人差し指を口に当て口止めを促した男を見て、自分の主人を思い出し、使い魔は何も考えない事に決めた。これは気付いてはいけないヤツだ。
何せ、娘曰く『お父さんは優秀な使い魔』なので。ただの使い魔でしかない猫は、今までの、今からの主人となる人達について守秘義務もあるので。自分の身を守る為にも黙ったおいた方が得だ――……。
「お父さん、休暇はいつまでなの?」
「……そういえば言われてないな」
「今回は長めの休暇と聞いてるよ。もうすぐバレンタインだし、終わるまでゆっくりしたらどうかな。猫って確かチョコレートが苦手でしょ?」
あ、その横の荷物、ちょっと確かめさせてね。と言いながら話を進める男に使い魔は不信感を抱く。が……可愛い娘は大事にされてるようだし、その娘は自分とその男の間を行ったり来たりと忙しそうにしていてとても可愛いので、せっかくの休暇だし楽しむ事に決めた。
どうして娘が行方不明なんて言われてるのか、そいつとの関係はどうなんだ? とか聞きたいけども!! 娘が幸せならお父さんは何の言う事もないよ、気になる事だらけだけど。
我侭を言わせてもらえるなら、主人の元へ帰る前に嫁にも逢いたい。
チョコレート色に染まる空を見上げ、使い魔はそっと溜息をこぼした。
お父さんの主人はきっと、面白いから黙ってるタイプ。
久々に書くと楽しいですねぇ~♪