無口のアイツ、気になったボク
……あれは、田舎の高校へ転入したあの日から始まった。
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「さて、今日から新しい生徒が入るぞ」
担任の天田先生に案内され、ボクは教室へ入る。
「春川駿と言います。よろしくお願いします」
市の進学高校から、父の転勤で地方高校へ転校になった。
……まぁ、あの高校は入ってみた割には合わなかったし、別に問題はないと思って転校した。ちょっと語弊はあるかも知れないけどね。
自分自身、特にコレ……みたいな特技とか無いけれど、直ぐにみんなと打ち解けた。
……そう、アイツは違った。
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その日の昼間。
「……あのさあ、角に座ってるあの子。誰とも話さないのかな」
男子群に、気になっていた女の子の事を聞いてみた。
「あー、松葉さんの事か。アイツも、1ヶ月前に転校してきたんだ」
一人が言った。
「でもな、あんまり話をしないんだ」
「へぇ……」
彼女の名前は『松葉枝織』と言うらしい。
同じ転校組だったんだ。
その後は話せなかったが、放課後……彼女を探ってみた。
……何でか知らないけど、彼女の事が気になるのだ。
歩いて15分程度にある、小さなゲームセンターに入っていく。
そのまま、『パネルダンサー』と言う、足元にあるパネルをリズムよく踏むゲームを始めた。
……上手い、上手すぎる。
あれ、難しいのをやると結構ヘトヘトになるんだよな。
「あ……」
ゲームを終えた彼女と目が合った。
顔を赤らめて、その場を離れようとする。
「ちょっと待って。ボクは松葉さんと話がしたい」
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彼女……松葉さんと一緒に、近くの喫茶店に入った。
「ごめんね、尾行して。お詫びと思ってくれるかな」
ジュースとケーキを奢る。
「………あ、あの。確か、転校生、だよね」
松葉さんは、小声でそう聞いた。
「うん、そうだよ」
「………あのね、私………人と話すの、苦手、なの……」
彼女は、自分の事を話してくれた。
前の学校の同級生の嫌がらせが原因で、転校を決めたこと。
人と話すのが、それから出来なくなってしまったこと。
唯一の楽しみが、ゲームセンターのゲームをすること。
「……そっか、よく話してくれたね」
また、顔を赤らめた。
「あのさ、一つ……提案なんだけどね」
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翌日。
「……う、緊張、する」
教室前、松葉さんは縮こまってしまう。
「大丈夫、大丈夫」
前日提案したのは、『一言、挨拶を自分からすること』。
他の同級生達も、松葉さんと話がしたいと感じて、そう提案をしてみた。
嫌がらせはしないだろうし、彼女が勇気を出して言ってみれば、良い方向へ向くんじゃないのかな。
「みんな、おはよう」
ボクが先に入って、挨拶をする。
「あのさ、みんな……」
みんなを引き付けてから、松葉さんを手で呼んだ。
「……お、おは、よう……」
ちょっと小声だが……挨拶をした。
みんなは笑顔をみせる。
「「おはよう!」」
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それからは、徐々にみんなと打ち解けた。
彼女の笑顔、見れて嬉しい……
あれ、もしかしてボク……彼女の事、好きなのかな。
そう思って間もなく、彼女から告白された。
答えは、勿論……
YES、そうだろ。
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「……あのね、私……駿君のおかげで、今があるの。本当にありがとうね」