面倒な儀式から逃げられない
馬車で半刻ほど揺られると、白亜の神殿が見えてきた。ここぞとばかりに彫刻で装飾がされているのが遠目でも分かる。普段は静かなここ一体が、人で賑わっている。
入り口で受付をし、保護者と子供は別れる事になる。
うっわー。皆家族連れじゃん。平民は両親と、貴族の殆どは父親と来ている。
使用人と来ているのって僕だけじゃないか。
可哀想な目で見られるのが辛くて、そそくさと受付をすまして中に入った。
貴族も平民も関係なく同じ空間に押し込まれている為、ヘイトの声があちこちで聞こえてくる。
うっさいなぁ。数時間の我慢も出来ないのかよ。
隅で一人立っていると、背中に強い衝撃を受けた。
「よっ!ジャイルズ。」
「いってぇ。カルか。その挨拶どうにかならないの?」
「湿気た顔してんじゃないよ。相変わらずだな。」
僕の背中を叩いてきたこの少年、カルことカルバート・ウォーレンは、僕と同じ侯爵家の四男だ。癖のある赤毛と、やんちゃな表情が特徴だ。互いに跡継ぎではなく、立場が近いため仲良くなった。
「さっき凄く目立ってたぜ。今日も、やっぱりおじさん来てないんだな。」
「父上は仕事だからしょうがないよ。そういう、カルの所もだろう?」
「いや、うちは夜だけだから一緒に来てるよ。」
「へぇ。おじさん来てたんだ。そっちの方が目立っただろう?」
「ははっ。違いねえ。」
カルバートの父親であるウォーレン侯爵は、近衛騎士団の団長の為、縦横でかく筋肉隆々だ。ただ歩いているだけなのに、モニュメントの様に目立つのだ。
「何が貰えるかな。俺は、剣技が欲しいな。」
年相応にそわそわと騒いでいる。
「騎士の家系だもんな。僕は逃走のギフトが欲しいよ。煩わしい事から逃げてしまいたい。」
「ジャイルズらしいな。」
親友に飽きれられたところで、神官長が壇上に入ってきた。
あんなに騒がしかった場が一気に静まる。流石神殿のトップだ。オーラが凄い。祝福の儀が始まった。
「これより、祝福の儀を執り行う。今年もこの儀を沢山の子ども達が受けられることが嬉しく思う。~、~、~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~皆に精霊の祝福のあれ!!」
長ったるいお言葉の後、神官長が杖を掲げると、室内がキラキラと輝きだし、子ども達の体に光が吸収されていった。勿論僕とカルバートの体にも。これでギフトを貰ったようだ。各自ステータス画面を開き、貰った内容を確かめる。
はっ?何だこりゃ。