面倒な用意から逃げられない
「ぼっちゃま、起きてください。」
「やだよ。まだ、寝る。」
「今日は、祝福の儀ですよ。早く用意をしないといけません。」
「服を着るのにそんな時間はいらないのに、こんなに早く起こす必要はないじゃないか。」
「侯爵家として恥ずかしい格好はできません。ぼっちゃまを磨かなくては。」
「はぁ~、めんどくさっ。」
僕、ジャイルズ・ノートンは、侯爵家の次男である。宰相である父、細かいことにうるさい母、ポエマーな兄、ジャイアンな姉の5人家族の末っ子として生まれた。
今日は一年に一度の精霊祭で、今年10才を迎える子ども達にギフトを授ける祝福の儀が各神殿で行われる。
ギフトとは、練習すれば得られるスキルとは違い、何も頑張らなくても得られる技術の事だ。祝福は適当に配られるのではなく、優しいことに精霊がその人に一番必要なギフトを選んで与えてくれる。
例えば父は、整頓のギフトを持っており、国で色々と上がってくる問題を綺麗に分類する事に役立てている。
因みに口下手だった兄は、詩のギフトを授かり、人が変わったように思いをポエムとして歌っている。
僕も10才を迎えたので、今日はギフトを授けて貰いに行かなくてはならない。
次男のため、特に必要とされている事は今のところ思い付かない。僕個人として、欲しいギフトとしては「逃走」だ。勉強や、面倒なやつから逃げれるようになりたい。
風呂に入れられ、髪を固め、爪を整え、皺の一つも無いよそ行きの服に手を通した。鏡の前には気だるげな顔をした黒髪の美少年が立っている。
用意をするのに疲れた。めんどくさい。
そそくさと朝食を食べ、屋敷を出る。
タウンハウスの玄関にはずらっと並んだ使用人と母しかいない。兄、姉はまだ夢の中である。
父は今日の祭の準備の為、城に泊まっている。
「くれぐれも、侯爵家の者として恥じないようにしなさい。良いギフトが貰えると良いわね。」
「はい、母上。行って参ります。」
「「「いってらっしゃいませ。」」」
馬車に御者の手をとり乗り込んだ。
執事のセバスと二人だけだ。
母上はどうしたって?夜に王宮で行われるパーティーの準備で精一杯だ。
子供の僕はパーティーには参加出来ないから、僕のギフトを貰ったお祝いは必然と無くなってしまう。まあ、面倒だからケーキさえ食べれたらどうでも良いけど。