夢のハンカチーフ
ある町に、本田涼という12歳の女の子がいました。
涼さんの家族は、39歳のお父さんと、37歳のお母さん。それから2歳上のお姉さんと3歳下の弟です。
涼さんは少しおてんばな女子です。
お姉さんはいつも静かで、女の子らしい人でした。
涼さんはいつも思っていました(だから、お父さんが可愛いがるのだ)と。
弟はお茶目で可愛いい人でした。(だから、お母さんは可愛いがるのだ)涼さんは思っていました。
今日の朝もそうでした。朝食を食べ終わり、席を立とうとしたら
お母さんに呼び止められました。
(涼、悪いわね。お母さん、これから仕事に行かなくてはいけないのよ、食器のかたずけ手伝ってくれない)
(お姉ちゃんは) (お姉ちゃんは朝練で早いのだそうよ)
いつもそうだ、お姉ちゃんは部活動で早出。遅帰り。
弟は男子だから。お母さんはいつも用事があると、私を呼ぶ。
日曜日だというのに朝からお手伝いか。
私はお手伝いが嫌なのではない。
みんなが平等でないから腹が立つのだ。涼さんは思っていました。
不服そうな顔でキッチンのスポンジに目をやりました。
食器洗いを終えてから、クラスメートの内田 桜さんと公園で遊ぶ約束をしました。
公園の前に着くと、紺色のスーツを着た若そうなお姉さんが、チラシ配りをしていました。
(はい。読んで見てね、気になったらお電話下さいね、あっ、そう、そう、お母様に聞いてからね)その人はそう言って、涼さんの手にチラシを渡しました。
見てみると[夢のハンカチーフ、あなたの悲しみ、苦しみ、怒り。このハンカチをおでこにあてると一瞬にして消えてしまいます]と書かれていました。
えー本当かしら。そんなの今まで聞いた事がない。
いぶかしく思いましたが、夕方お母さんに手渡しました。
やはりお母さんも(こんなのインチキよ、どんなに科学や医学が進んだって、こんな都合の良い話しがある訳がないわ)
そう言って涼さんに返しました。
確かに。涼さんもお母さんに同感です。けれども
どうしても気になって頭から離れないのです。
一晩考えて、涼さんはお母さんにお願いします。
(1ヶ月のお試し期間は、千円だから、私が払えるし、1ヶ月だけ、試してみたいの❗️ね。お願い)
お母さんは、あまりの熱心さに、何か悩みがあるのか、心配になり、1ヶ月だけの約束で承諾してくれました。
そんな事で、その夢のハンカチは、数日後に涼さんのところに届きました。
涼さんはワクワクしました。いったいどんな気持ちになるのだろうか?
その夜の事です。
涼さんの部屋はお姉さんと同室です。
涼さんが夕食を食べて部屋に行くと、もうお姉さんは机の前にいました。
手にはシャープペンシルが金色に輝いていました。
(わーお姉ちゃん、それいいなぁ、ちょっと貸して)
(ごめーん。これ中学の入学祝いだから、駄目だわ)
(いいじゃない、少し位、ケチ‼️)
(嫌よ、涼だって買って貰えばいいじゃない)
(お姉ちゃん、ずるいよ、私ばかりにお手伝いを押し付けて)
(あら、それとこれとは別でしょう。それに、嫌ならハッキリと嫌だと言わないと、相手は分からないのよ)
涼さんは泣きたい位腹が立ちました。
なぜかといえば、お姉さんが言った事が本当だからです。
なのに自分は、断る事が出来ません。
(もういいよ‼️)
涼さんは、ベッドに潜り込みました。
それからヘッドの上に先ほど置いておいた箱から、夢のハンカチを取り出しました。
悔しい、悔しいよ。体中の熱が頭に上がってしまったように、カッカと暑く、眠れそうにもありませんでした。
ハンカチをおでこと目のあたりに被せました。
涼さんの心に不思議な事が起きたのは、そのすぐ後でした。
潜り込んだ時は、頭から湯気でも昇りそうなほど興奮していた
のに、、、
あれ、私って何を怒っていたのだろう。なんか馬鹿みたいだ。
可笑しくなって、大声で笑いたくなりました。
お姉さんが(何が可笑しの、さっきはカッカと怒っていたくせに)
といましたが、涼さんはなんか可笑しくて仕方がありません。
次の日も朝から上機嫌です。
(おはよう❗️)
お母さんも涼さんの上機嫌にはビックリです。
お姉さんが、(この子、昨日から変なのよ。怒っていたと思ったら、急に笑い出したり。)
(気にしない、気にしない)涼さんは何事もなかったように上機嫌で学校へ行きました。
それから3日後の事でした。
涼さんが学校で、先生から受け取ったのは、30点の社会科のテストでした。
あーまずい‼️
涼さんの頭には、お母さんの怖い顔が浮かびます。
それからお姉さんに馬鹿にされる自分の姿も。
家の前まで来た時、スカートのポケットから、例のハンカチをおでこに乗せました。
(ただいまー。お母さん、これ。)
答案用紙を渡しました。
(まー30点)
やはり渋い顔のお母さんです。
夜にはもうお姉さんにもそれは伝わっていて、やはりからかわれました。
でも涼さんは、何て事はありません。(大丈夫、大丈夫)と、
他人事です
そんな調子で月日は半月も過ぎました。
桜さんとの下校時の事でした。
桜さんが打ち明けます。
(涼ちゃん、私、今日学校休みたかったの)
(なんでー)
(昨日、ルーが死んでしまったの)
桜さんはポロポロと涙を流しながら話しました。
ルーというのは、桜さんの家の雄犬です。
涼さんも随分と可愛いがっていた犬でした。
なのにどうした事でしょう、悲しいと思う感情が湧いてきません。いつもの涼さんなら一緒に泣いていたでしょうに。
涼さんには訳が分からなかった。
どうしてなのだろうか、どうして。戸惑っていると、急に桜さんが厳しい顔になって(さようなら)と言い、走って行ってしまいました。
桜さんの後ろ姿を目で追いながら、涼さんは考えています。
思い当たるとしたら、このハンカチしかありません。スカートのポケットから、そっと取り出し見つめていました。
家に帰り、取り扱い説明書をもう一度読んで見ました。
そこには注意事項が書かれていたのです。
悲しみ、苦しみ、怒り。取り除けます。但し、人の悲しみ、苦しみ、怒りを分かち合う事は出来ません。
もう一度読んで、涼さんは、理解しました。
自分が嫌な感情から逃げる事が出来るけれど、自分の事しか考えられない人になるのだと。
それからも、弟が転んだ時や、お母さんと、お父さんが口喧嘩をしているのを見てしまった時も。お姉さんが泣いていた時も。
涼さんにはなんの感情も湧いてきませんでした。
学校では、桜さんがよそよそしい感じがしました。
涼さんは自分が孤独になっていくのを感じていました。
そして、前の自分よりも、今の自分がもっと嫌いになっている事にも気づきました。
涼さんは決めます。このハンカチはもう使わない。
人はみんな大なり小なり、泣いたり、怒ったり、悩んだりしながら大人になるのかも知れない。
だから友達は必要。だから家族は必要なのだ。
強く思いました。
そこには清清しく微笑みながら、ハンカチを箱にしまう涼さんの姿がありました。
箱の上には可愛いい丸文字で[ありがとうございました]と書かれたメモが添えられました。
おしまいです。
沢山の童話の投稿がある中、私の投稿をお選び
いただき大変ありがとうございました。
人は人との関わりで成長して行ける。そんな事を根底に作成しましたが、未熟な者で上手にお伝え出来ましたか、心配です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
又こちらのサイト、スタッフの方々には本当に
お世話をおかけしました。感謝致します。
大変ありがとうございました。