表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴォーカロイドパニック  作者: たかさん
8/44

イベント会場

少しだけ書きためたので、再び一週間チャレンジ!

あとブックマーク、評価、誤字報告、有難うございます!

 人波に流されるように歩いて行き、連絡通路に設置されている動く歩道に乗り、妙に周りの視線をうけつつ、スムーズに動く歩道から降りる。

 ふふん、となんとなくすまし顔の俺。

 そこからまたしばらく歩き、貿易センタービル前にたどり着く。

 ここを左に向かえば飲食店が立ち並んでいるスペース、正面へ抜ければ会議場と呼ばれる建物群が、右に向かえば立体駐車場がある。

 時間帯がランチ時より少し過ぎているせいか、左に向かう人は少ない。

 右もちらほら。

 こちらへ向かって歩いてくるほとんど人は、貿易センタービルへと吸い込まれていた。

 てことは、いくつかのイベントが開かれているか、春一のいるであろうイベント? がかなりの集客があるものなのか?

 と、考えながらも他の人の迷惑になるので、立ち止まって思案することもできずそのまま建物の中へと進んでいく。

 そのまま流されること数分、貿易センタービルを抜けると、おそらく終着地であろう場所が見えてきた。

 貿易センタービルの反対側は大きな広場になっており、その広場を囲むように円状の通路が通っている。さらにその外側に第3会議場から第6会議場までが建てられている。

 なのでここまで来ると、少なくともその4会場の入り口の様子が見て取れた。

 うん、すぐにわかる。

 視線の先、広場の反対側にある第3会議場に多くに人が並んでいる。

 あそこに間違いない。

 きっと。

 まぁ、絶対とは言えないけど、近くに行ったらまた連絡すればいいか。

 行き当たりばったり感満載だけれど。

 俺はそのまま同じ目的地に向かっているだろう人らと共に、円状の通路を歩いていく。

 そしてすぐに第3会議場の近くへたどり着いた。

 第3会議場は学校の体育館4つ分くらいの大きさがある大きな箱だ。よく同人即売会などが開かれており、サブカルイベントの定番会場と言える。

 その会議場の入り口から連なる行列。

 俺はその行列には並ばず、並んでいる人を確認しながら追い抜いていく。

 違う。

 違う。

 違う……居たっ!

 春一!

 心の中のスカウターが、あいつの姿をロックオンする。照準を合わせ、見失わないように。列に並びながら、のんきにケータイをいじっていやがる。

 その姿を見たら、一気に頭に来た。

 俺はスタスタと早足であいつの元まで近づくと、まだこちらの姿に気が付いていない春一の傍まで近づく。

 そして、


「春一!」


 と文句を言ってやろうとした矢先、俺の肩を誰かが掴んだ。

 誰だ?と思い、後ろを振り返る。


「最後尾はあちらです」


 冷静にそう言ってきたのは警備員と思われる30くらいの男の人。行列の整理をしていると思われる。

 普段だったら穏便に済ませたと思う。

 でも今は春一に文句を言いたくて、不機嫌マックス。

 俺は警備員を見上げて、キッと睨む。


「中に入る気はありません。コイツに話すことがあるんです」


 そう言って春一を指差す。


「他のお客様の迷惑になるので」


「話すこと話したら離れます」


「そうは言っても……」


「すぐ済みます!」


「困ったな」


 さらに強く言うと、警備員は困ったように頭を掻いた。


「少しの時間で終わりますから!」


 そう言って警備員の目をじっと見る。

 警備員と言ってはいるけど、まだ若く大学生くらい。もしかしたらアルバイトかなにかかもしれない。 春一と同じくらいの長身のため、俺ぐらいの背だと下から見上げる感じとなった。


「えっと……こ、困ったな」


 彼は俺から顔をそむけるように周りを見渡した。

 あからさまに「面倒くさい客だ」と思われているらしい。

 話しているのに顔をそむけるとか……顔を赤くしているのは、怒鳴りたくともお客だから怒鳴れないというジレンマのためかもしれない。

 だが、今の俺にそんなことを察する、心のゆとりなんかない。

 逆にその態度にイラっとくる。


「あの、話しているときは、こっち向いてもらえますか?」


「はぁ……」


 と店員は返事をしたものの、チラッとこちらを見ただけで顔は向けようとしない。

 この時、俺は少し冷静ではなかったと思う。

 春一への怒りの余波を、警備員へも向けてしまっていた。

 俺は店員が顔を背けている方向に移動すると、つま先立ちになってぐっと顔を店員に近づけた。


「聞いてもらえていますか?」


「はい……すいません」


 そう言いながら、警備員は一歩後ろに下がる。

 逆に俺は一歩前に出ようとする……が、誰かに襟首を掴まれて、前に出ることはかなわなかった。


「怒っているのは分かったから、これ以上警備員さんを困らせるな」


 そう背後から声を掛けられる。

 言うまでもなく、それを言ったのは春一だ。

 俺は春一を振り向いて睨む。

 襟首をつかまれているせいで少し苦しい。

 誰のせいでっ―――


「悪かった。素直に謝ろう。とにかく今は他の人の迷惑になるから、後で――」


 周りの人―――といわれ、思い出したように列を作っている、春一以外の人を見る。そのときに至って、ようやく俺はかなりの注目を集めていることに気がついた。

 ジーンズにTシャツといった学生風の人、ジャケットを羽織った社会人っぽい人、友達同士で並んでいる女の子たち……それら列に並んでいる多くの人たちが、ある人は何事かと、ある人は興味本位で、ある人は迷惑そうな顔をして、俺たちの方に視線を向けていた。「俺たちを」っていうか「俺を」っていうほうが正しいか。

 その多くの視線がこちらに向けられていることに気がつくことによって、ようやく俺の頭が冷静になり始める。

 確かに俺だって、人に迷惑を掛けるのは本意ではない。春一はべつだけども……それに注目を浴びるのも好きじゃない。元凶である春一に諭されるのは腹が立つが、今は拳をおさめたほうが懸命だということぐらい分かる。

 そう考えて俺は、横に立っている警備員に再び顔を向けた。


「すいません。お騒がせしました」


「あ、ああ、わかっていただければ」


 急に大人しくなった俺にとまどっているのか、店員はどもりながら頷く。


「もし会場へ入るのだとしたら最後尾へ、そうでなければ通行の妨げにならない場所でお待ちください」


 警備員の言葉に一度頷くと、キッっと春一を睨む。

 俺の視線を受けた春一は、「どうどう」なのか「わかったから」なのか分からないが、手で俺を抑える仕草した。


「話はここに入ってからだ」


 ふんっ、後で覚えてろよ。

 心の中でそう言いながら、俺は行列の最後尾へ並び直した。


「なんだよ、痴話げんかかよ」


 行列のどこかから声が聞こえてきたが、肩を怒らせて歩む俺の耳には、音としてだけ耳に入り、言葉として頭に入ってこなかった。


読んでいただいてありがとうございます。

ブックマーク、評価は元気の素です!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ