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ヴォーカロイドパニック  作者: たかさん
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見知らぬオーディション(後編)

いらっしゃいませ

自分でうーん? と思うところがあるので、後程改変するかも。


 声を上げたのはテーブルの向かって左側に座る女の子。

 どこかで見たような気もするんだけど……。赤っぽい茶髪の髪をツインテールという形に左右でくくっている。顔がちっさくて、目がおっきくて、どこかのアイドルと言われても納得できるような可愛い女の子だ。

 刺々しく高くなった声、しかめている眉が彼女のいらだちを表している。


「先ほどから気になっていたんだけど」


「はい?」


「やる気あんの?」

 

 全くないです!

 と正直に言いたいけど言えない……


「聞いてるの?! あなたの前にオーディション受けた人達は、もっとちゃんとしていたわよ!!!」


 ばんっとテーブルを叩いて、彼女は椅子から立ち上がる。その動きで座っていたパイプ椅子が、大きな音をたてて倒れた。

 女の子の急なリアクションに、スーツ姿の男の人がびっくりしたように立ち上がった彼女を仰ぎ見る。

 いや、その男の人だけではない。俺も含めその場にいた全員が、立ち上がった彼女に注目した。

 彼女はそんな視線など気にしない様子で、テーブルに両手を突いたまま、俺の顔をじっと睨む。心なしか顔が上気しているのが、その怒り具合をあらわしていた。

 彼女が怒るのも分かるといえば分かる。歌を歌わないといけないところで、ハミングみたいなものしかできなかったし、ため息をついたのも気に入らないだろう。全体的にやる気がないと見られてもあたり前だし、それは俺も認めるところだ。

 もし俺が彼女の立場であれば、きっと「なんだ、こいつ」と思うに違いない。

 だから怒るのはわかるんだ。

 うーん、これは正直に「友人が勝手に」ということを話したほうがいいかもしれない。

 なんとかやり過ごしてー、と考えていたけど、そうもいかないかもしれない。

 ちゃんと「友達が勝手に応募していて、この面接が何の面接なのか分からないんです」と理由をいえば、分かってくれる可能性はある。もちろん追い討ちをかけて怒られる危険もあるけれど、こんな態度になってしまうというのは理解してくれるんじゃないだろうか?

 言えば多少すっきりもするしな、うん。

 俺はそう考えると説明を――


「あの―――」


「ふざけないでよ!」


 ふぐっ!

 ――する間もなく、撃沈。 

 きっぱりすっぱりと、悪・即・断みたいな感じで言葉をさえぎられた。

 怒っているのはわかるんだけど……理由くらい聞いてくれてもいいのに。

 俺だって怒鳴りたい気分だよ……春一を……


「奈美ちゃん」


 黙って下を向いてしまった俺を見て、女の子の隣に座っていた女性が小さく声をあげる。

 顔を上げてそちらをみると、立ち上がった女の子の袖を掴んで小さく首を横に振っていた。

 奈美って言うのは、この女の子の名前だろう。


「美佐さんは黙ってて!」


 だが怒りが収まらない奈美って子は、女の人を見下ろして一喝した。

 しかしスーツの女性――美佐さんは大人の余裕をみせるように、静かに言い返す。


「今日のあなたはゲスト審査員よ。もう少し冷静におなりなさい」


「だって―――」


「ほかの方にも失礼よ」


 そう言って美佐さんは新藤という男のほうを見る。

 新藤は面白そうに片肘をついた体勢で、立ち上がった奈美を見上げていた。

 美佐さんの視線を追って新藤を見た奈美は、「くっ」と口惜しそうに眉をひそめたあと、倒れたパイプ椅子元に戻し腰を下ろす。

 ほんとに「くっ」とかいう言う人いるんだ。


「ごめんなさいね」


「あ、いえ!」


 美佐さんが静かに頭を下げるのを、俺は慌てて否定した。

 俺の事情はともかくとして、このコが怒るのも無理もない。こうして逆に謝罪されると、一層自分のほうが悪いという気持ちが強くなる。

 うん、やっぱり素直に事のあらましを話そう。


「確かに悪いのは自分のほうですから……」


 俺がそう言うと、前にいる4人の視線が、俺の顔に集中するのが分かった。

 うっ……言い難い……

 だけどやっぱ言わないと。


「あの、実うを言うと、これがどういう面接かというのを知らないんです」


「それはどういうこと?」


 美佐さんが聞き返してくる。


「友達が勝手に募集したみたいで、今日はその友達が買いたいものがあるからということで付き合わされてここに」


「では、何も知らないままオーディションを受けていたということかしら?」


「はい……すいませんでした」


 俺は頭を下げる。


「そういうこと……どうしましょう? 新藤さん」


 俺は頭を下げたままの姿勢で、成り行きを待つ。


「ああ、そうじゃないかと途中から思っていたから……頭を上げてくれる?」


 促されて頭を上げる。


「こういうことは時々あるんだけど、それは一次審査通過時に本人にバレるか伝えられるものなんだけどねぇ。よほどその友達? がうまくやったか、君がにぶかったのか……まぁ、この際だ、最後まで付き合ってよ、ね?」


 新藤さんは笑ってウィンクした。

 よかった……怒ってないみたいだ。

 少し気が楽になる。

 そしてここで「いえ、もう帰ります」と言えるほど、俺は神経が図太くない。だから「はい」と答えるしかなかった。奈美っていうこの視線が、相変わらず痛いけど、彼女も新藤さんには意見とかできないみたいだ。


「何も知らないみたいだから、簡単に説明しておこうか」


「はい、お願いします」


「これはね、次期ヴォーカロイドソフト「天音ソラ」で採用される、サンプリング音声の声優オーディションなんだよ」


 ヴォーカロイド?


「あの、ヴォーカロイドって……」


「ああ、ヴォーカロイドから説明したほうがいいかな?」


「あ、いえ。それは知っています」


 春一ほど詳しくはないけど、それなりには知っている。だけどサンプリング音声っていうのは……


「その、サンプリング音声っていうのは」


「うん。そのヴォーカロイドの元になる声、これは生身の人間である声優さんに入れてもらっているんだけど、その元になる音声をサンプリング音声って言うんだ」


 そこまで新藤さんが説明したところで、入り口の引き戸が開かれた。現れたのは先ほど出て行った店長さん。手にはCDラジカセとCDケースを持っている。


「お待たせしました―――なにかありましたか?」


 室内に入った店長は、その場の空気が出て行ったときと変わっているのに気づいたようで、スーツの男の人に問いかけた。

 問いかけられた男の人は右手の中指で眼鏡をずり上げると、


「いえ、すこし応募者と雑談をしているだけです」


 と冷静に答えた。


「はぁ……あ、新藤さん。こちらお持ちしましたが」


 店長は手にもったCDラジカセとCDケースを、軽くもちあげて新藤さんに指し示した。


「すいませんね。ではCDケースを彼女に渡してもらって、プレイヤーはこっちに」


 新藤さんがそう指示すると、店長は俺に持っていたCDケースを差し出した。と、何かを思い立ったように、差し出した手をすぐに引っ込める。


「中に歌詞カードが入っているから」


 そう言ってケースの中から、歌詞カードだけを取りだす。そしてその歌詞カードを俺の方に差し出した。


「ありがとうございます」


 とりあえずお礼を言って、その歌詞カードを受け取る。カードは冊子になっており、パラパラっと見るだけで、十曲以上収録されているのが分かった。


「そこに記載されている曲、収録されている曲の全てが、元々プロの作曲家が作ったものではない曲だよ。今はメジャーデビューしてる人もいるから、制作当時は、という言葉が付くけれど名曲ばかりだ。すごいと思わないかい?」


「はい」


 うん、すごいと思う。


「年々音楽界にしても映像界にしても、出版もゲームも、全ての方面で才能不足が叫ばれている。でも実際はそんなことはないんだ。才能はある、ただ世に出ていないだけなんだよね。自身に才能を持っていたとしても、気づかない人が実は多い。ヴォーカロイドってソフトは、そういう人達を世にだすきっかけになったソフトなんだよ」


 新藤さんは一度そこで話を区切って、CDラジカセの再生ボタンを押す。

 聞こえてきたのは、さっき店内でかかっていたナギPの曲だ。女の子の気持ちを歌ったらしいアップテンポな曲。勝気で気位の高い女の子が、はじめて男の子を好きになる。でもこれまで与えられることが当たり前だった女の子だっただけに、自分の気持ちをどう相手に伝えたらいいのか分からない。いわゆるツンデレ娘の恋模様を歌った曲だ。ちょっとずれてる女の子の行動が、聴いていて微笑ましく感じる。深雪なんかこんなタイプかもしれないな。

 さっきは曲調だけが印象に残っていたけど、歌詞カードを読むと歌詞もいいなと思う。上から目線で申し訳ないけど、よく出来ている曲だ。

 そんなことを思いながら流れてくる曲に、場違いかもしれないけど聴き入っていた。

この曲が終わるまでおよそ4分。さっきも言ったとおり、あまり歌謡曲を聴かないので、それが長いかどうかは分からない。でも自分が受けた印象として、長いとは感じさせない曲だったな。

 曲が終ると新藤さんは一度CDを停止させる。


「歌詞カードを見ながらでいいから、この曲を歌ってみてもらえる? オーディションを受けに来た理由はどうであれ、ちゃんと審査したいんだよ。さっきも言ったようにどこに才能が埋もれているか分からないからね」


 うーん、平凡な自分にそんな才能があるとは思わないけど、ここは心を決めてちゃんとしよう。

 使いどころのない特技だと思ってたけど、どこで役に立つか分からないものだなぁ。

 

「すいません。もう一回だけ聴かせてもらってもいいですか?」


「もちろん。君が最後だから、時間は気にしないで。あ、奈美ちゃんは後があるんだっけ?」


「移動するだけなので、まだ大丈夫です」


 奈美のかわりに美佐さんが答える。


「そう。じゃあ、もう一回流すよ?」


 新藤さんが再生ボタンに手を掛けた。

 さぁ、スイッチをいれろ、俺。

 集中だ、集中。

 集中しろ。

 音楽以外の音を消せ。

 歌詞カードを凝視する。


 おとせ、落せ、オトセ。


 それから一曲終わるまで、静かに時が流れる。

 音楽が流れているのに「静か」とは変な表現だが、意識の中ではそうとしか言えなかった。

 そして曲が終わる。

 俺は無言で店長さんへ歌詞カードを返す。 


「何回か聴いてもらっていいよ?」


 新藤さんがCDラジカセに手をのせて言う。


「大丈夫です。もう歌えますから」


「歌詞カード見ながらでいいけど?」


「いえ、大丈夫です」

 

 俺がそう、新藤さんら大人組みは、すこしびっくりしたような表情になる。奈美ってコだけ、より一層険しい表情で俺を睨んでいるけど……

 なにかおかしなこと言ったかな?

 そんな風に頭の中で首を傾げていると、美佐さんが「ちょっといいかしら」と声を出す。別に断る理由もなく、俺は美佐さんに頷いて見せた。


「この曲、聴いたのは店内に入って聴いたのがはじめてだと言ったわよね?」


「ですね」


「そう……」

 

美佐さんはそう言うと、新藤さんと目を合わせる。


「今ちらっと見ただけで、もう歌詞カード見なくても歌えるっていうの?」

 

奈美(もう呼び捨てでいいや)が、疑惑1000%って感じで言った。呆れているというか、なんとなく見下したような言い様に。


「大丈夫です」


 俺は淡々と返す。

 それを聞いた彼女は、バンっと机を叩いて立ち上がり、


「じゃぁ、歌ってみなさいよ!」


 と立ち上がって移動し、新藤さんの前に置いてあるCDラジカセのスイッチを押した。

 エントランスで聞いたイントロが流れ始める、

 俺はゆっくりと息を吸い込んだ。


読んでいただいてありがとうございます。

始めた時の目標、1週間毎日更新まであとすこし!

でも月単位で毎日更新する人すごいですね。尊敬する。

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