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ヴォーカロイドパニック  作者: たかさん
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見知らぬオーディション(中編)

いらっしゃいませ。

前後編で終わるはずでしたが、長くなったので中編も入れます。

また誤字報告有難うございます!助かります!

「あ、この曲……」

 天井を見上げつぶやく。

俺の呟きに店長さんは一瞬何ことやらわからないようだったが、俺の視線を追うように天井を見上げた後、呟きの意味が分かったのか納得した表情をする。


「ああ、『淑女純情ロックンロール』ですね。この曲がどうかしましたか?」


 !!!!

 店長ナイス!

 その曲、リストにある!

 躊躇している時間はない。

 かなり切羽詰まっていた俺は、藁にもすがる思いで、急遽その曲に合わせて口を開いた。

 さっきエントランスで聴いた時は、ぼんやり聴いていたため歌詞を覚えていない。歌詞カードがあれば別だけど、耳から覚えるにはさすがにあの一回では無理だ。

 だから俺は「ラ」だけを使って、なんとか曲を紡いでいく。

 メロディは覚えているからなんとかなる!

 ちらりと正面を見ると、面接官たちは厳しい表情をしていた。

 無理もない……

 何の面接なのかは分からないけど、歌ってみてという限りは、歌かそれに関係したものの面接なのだと思う。普通は。だから歌詞なしで、「ラ」だけで歌い始めた俺を、「なんだこいつ?」と厳しい表情で見ているのも頷ける。

 俺は恥ずかしさに顔を熱くしながらも、早くこの面接を終わらせたい一心で歌い続けた。

 耳に入る曲に集中するために、目も閉じる。

 面接官たちの視線が痛いっていうこともあったけど……

 早く終われ、と思ったときほど時間の流れは遅いものだ。

 このときもやっぱり時間が過ぎるのが、いつもの三倍くらいに―――いや十倍くらいに感じた。

 店長が「もういいですよ」とでもいって、途中で止めてくれるのを期待しているんだけど、なかなか救いの手は差し出されない。

 結局、そのまま店内に流れる曲が終わるまで、俺は歌い続けるハメとなった。

 時間にすると2~3分といったくらいか。たぶんこれまで過ごした中で、一番長い2~3分だったと思う。

 歌い終わって瞼を開けると、面接官5人が全員、ぽかんと口をあけて俺のことを見ていた。

 うわ……まずかったかな……

 もしかしたら怒らせてしまったのかも知れない。いや、別に、よくわからない面接に受かろうとも思ってないから、好印象なんて与えなくてもいいのだけれど、なんとなくビクビクした感じになる。


「あの……」


 俺が何も言わない店長のほうを向いて声を出すと、それぞれが今気を取り戻したかのように、急に動き始めた。女の子は怒ったように横を向き、その隣のお姉さんは「こほん」と咳をする。スーツの男の人は書類を読み出し、店長はようやく「ありがとうございます」と声を出した。

 あと一人、ジーンズの男の人はというと、この人だけ変にリアクションをとらずに、瞼を開けたときと同じ格好のまま、俺の顔をじっと凝視していた。

 ちょっと怖い……

 というか、もう、帰りたい……

 ええっと……

 俺はジーンズの人から目をそらし、店長のほうを向いた。

 店長に次の言葉を促すためだ。俺の視線を受けて、店長の口が動く。


「ええと、では質問を―――」


「君。えっと、橘さん?」


 店長の言葉をさえぎって、ジーンズの人が口を開く。


「は、はい」


 思わず返事がどもってしまう俺。

 このひと、なんだか分からないけど変なオーラというか、迫力があるんだよな。


「今の歌、前から知っていた?」


「あ、いえ。さっき店内で聴いて―――」


「初めて聴いた?」


「はい。すいません」


「いや、謝ることはないよ、うん」


 そこまで話して、ジーンズの男の人は腕を組んで考え込む。その間、他の人達は黙ってその人の発言を待っているようだ。固唾を呑んで、という言葉があてはまるかもしれない。どうもこの5人の中で、この人が一番力をもっている立場ってかんじがする。


「新藤さん。どうしましょうか?」


 なかなか発言しない男の人―――新藤というらしい―――に、店長が遠慮がちに声をかける。ちょっと腰が引けているのがわかる。


「店長、さきほどの曲のCDを持ってきてもらえますか?あとプレイヤーと、歌詞カードも」


「あ、はい」


 店長―――やっぱり店長で合っていた―――は、すぐさま部屋から出て行く。

 CDにプレイヤーに歌詞カード……ってことは、また歌わされるのか。

 これで終わりにはならなかったか……


「はぁ」


 最近出やすくなっている「ため息」が、悪いことにこの場ででてしまった。

 しかも少し大きめの声で。

 「ヤバっ」と慌てて何事もなかったかのように口を引き締めるが、それは後の祭り。

 ため息は目の前に人の耳にも届いてしまったようだ。


「ちょっと、あなた」



読んでいただいてありがとうございます。


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