ガールズトーク
そうか! こんな悪乗りしているからファミレスが長いんだ!
「あなたが食べたいなら……そうしてあげてもいいわよ」
そう言った顔は、薄っすらと赤くなっているような気がする。
これは……あれか……こいつの性格は、春一がよくいうところの「ツンデレ」というやつか?
あ、でも、デレてはないよなぁ……じゃぁ、「ヤンデレ」?いや、あれは猟奇的なヒロインのことを言うんだっけか? うーん、ツン、ツン―――なんだろ? 当てはまる言葉が見つからないや。そもそも「ツンデレ」っていうのは性格のことなんかいな? 春一は属性とか言ってた気がするけど、属性の意味が分からない。
ま、それは置いといて、ここはこう言っておいた方がいいか。
「では、お願いします」
俺はそう言って笑う。
はっはっは。
どうだこの大人の対応。
だが、
「ふんっ」
と奈々美は鼻を鳴らしてそっぽを向く。
笑いかける、というのは失敗だったか……
「ふふふ」
?
俺が奈々美の反応に指でこめかみを掻いていると、思わずといったように美佐さんが声を出した。
その声に同時に俺と奈美が美佐さんの顔を見る。
俺は「?」っていう表情で―――
奈々美は「ムッ」とした表情で―――
「ああ、ごめんなさい。貴方たちが仲のいい姉妹に見えて……ふふふ」
姉妹って……俺は男ですが?
「不愉快なこと言わないでくれる?」
「あら、どうして?」
「!」
「お待たせいたしました。グリルハンバーグの洋食セットとホットコーヒーでございます」
奈々美の声が大きくなりかけた時、絶妙のタイミングで店員が声を掛けてきた。もしかしたら少し騒がしくなった客を、嗜める意味もあったのかもしれない。
店員はマニュアル通りの笑顔のまま、最初に頼んだ注文品を手にしてやってくる。
さすがに奈々美も店員のいるところで言葉を荒げる気はないのか、開きかけた口と噤んだ。
そして店員がテーブルから去ったのを待って、こんどは若干声を抑え気味に奈々美が口を開く。
「どうせあたしが子供みたいって言いたいんでしょ」
「あら、どうしてそう思うの?橘さん、お腹すいたでしょ? 熱いうちにお食べなさい」
「ちっ、あとで見てなさいよ。先輩の力を見せつけてあげるわ」
「はいはい」
美佐さんは奈々美の相手をしながらも、俺に食事をするようにすすめる。
俺としてもそろそろ空腹のせいでテーブルに突っ伏しそうだ。いや、しないけどね。
素直に美佐さんの言葉に従い、やってきたグリルハンバーグを食べ始める。
「で、どうしてかしら?」
「姉妹だって比べられたら、あたしのほうが妹に見られるに決まっているじゃない」
「だって……あたしのほうが背も低いし、童顔だし、む―――」
「む?」
「む、胸だってちっちゃいし……」
そう言って奈美はちらりと俺の胸元を見る。
そこには高校生にしては見事な二つの山が存在を主張していた。
勿論これは本物の胸ではないのはご存じの通り。
まさかこのニセ乳にコンプレックスを感じるとは……
だがここで、
「ああ、これ偽物だから、あははははっ」
なんて言えない。
というか、男とバレても困るんだが、こう見事に女だと疑われないのもそれはそれで嫌だな。
とりあえずここは下手に口を挟まない方向で――。
俺は無言でハンバーグを口に運ぶ。
「奈美は十六でしょ?まだまだこれからよ」
「……あんた、いくつ?」
「え?」
「歳よ! 歳!」
「十七だけど……」
「たった一年でこんなになるっていうの?」
「そうね~、奈美次第じゃないかしら?」
「あたし次第?」
「そう」
半信半疑の奈々美に向かって美佐さんが微笑みかける。
「それってどういうこと?」
ぐぐっと前のめりになる奈々美。
「聞きたい?」
「べ、べつに……美佐が話したいみたいだから聞いてあげるだけっ」
いや、興味ありありなのが丸分かりぞ?
それだけ前のめりになって「聞きたくはないけど」と言われてもな。
……つか、いつになったら仕事の話が始まるんだろう? 大体今日は関係者との顔合わせであり、奈々美ともその一環で会ってるんじゃないのかね? だとしたらこんな話をするのではなく、今後のこととか話すのだと思うのだけど……
なんて思っていても、それを口には出せない。
せっかく奈々美の矛先が変わったというのに、わざわざ自分に引き戻すことにもなりかねないしな。
ここはこのまま二人の会話を続行させるしかない。
ただ胸がどうのとかいう話に男の俺が入れるはずも無い。分かるわけないし、なによりもなんだか気恥ずかしい。こういうのをガールズトークというのだろうか? まぁ間違いなくこの会話に「男」は立ち入れないのは分かる。だからその「男」である俺は、無言でハンバーグを食べていた。
このガールズトークが終るまでは、眼の前のハンバーグに集中しよう。
「そうね、まずやたらめったら牛乳を飲んでも効果はないってことね」
うん、このハンバーグはなかなかいける。
「うそ! だってアコだって牛乳飲めば大きくなるって言ってたし!」
「健康にはいいのでしょうけど、飲んだ分だけ大きくなるというのは違うわ」
ファミレスのハンバーグ感はのこしつつ、それでいて専門店も唸らせる重厚さも兼ね合わせている。昨今の「ファミレスの肉料理」と「コンビニのスィーツ」は、やりすぎじゃねぇ?って思うくらいに本格化しているな。
「じゃぁじゃぁ、その―――れて大きくなるって言うのは―――」
「ん?」
「も、揉まれたら、大きくなるって言うじゃない。あれは?」
「どうかしら? 元は脂肪の塊なのだから、ただ揉むだけで大きくなるとは思えないけど」
「でも、雑誌なんかではよく書いてるし」
そしてこのグリルハンバーグセットはハンバーグがメインになってはいるが、それそえられているソーセージもまた美味だ。付け合せの野菜にしても、手を抜かずなかなかに凝っている。総合として―――
「ああいうのは結構眉唾ものよ?」
「それは美佐だったらそういうことも経験した経験から?」
「そういうことって?」
「だから、ね、男の人と、その……」
「その辺りは秘密だけど……ただバストアップ体操は効果あるわよ?このあたりの筋肉を
つけることで、バストアップの効果をもたせるっていうね。大きくなるっていうよりも、形がいいバストにってにって感じだけど」
この金額としてはなかなかお買い得なメニューになって―――
「どうやるの?」
「こうやって両手を……」
「両手を……」
いると思われ―――
「こう?」
「もっと―――」
「んん……」
「それからこうして―――」
「あ、あん……けっこう、きついのね」
お、もう……
「―――あら、橘さんどうしたの? 顔が真っ赤よ」
いつの間にかフォークを口にくわえたまま下を向いていた俺に、笑いをこらえた様子の美佐さんが声を掛けてくる。
心なしか顔が熱い。
多分、鏡を見たらかなり顔が赤くなっているに違いない。
俺は顔をあまり上げずに、美佐さんの顔を盗み見る。
彼女はテーブルに両肘をつき、両手の指を組んでその上へ顎を置いてこちらを見ていた。その顔を予想通りの顔をしている。
お気に入りのおもちゃで遊んでいるかのような笑顔。
今の会話、ぜってぇわざとだな。
読んでいただいてありがとうございます。
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