表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴォーカロイドパニック  作者: たかさん
44/44

ガールズトーク

そうか! こんな悪乗りしているからファミレスが長いんだ!


「あなたが食べたいなら……そうしてあげてもいいわよ」


 そう言った顔は、薄っすらと赤くなっているような気がする。

 これは……あれか……こいつの性格は、春一がよくいうところの「ツンデレ」というやつか?

 あ、でも、デレてはないよなぁ……じゃぁ、「ヤンデレ」?いや、あれは猟奇的なヒロインのことを言うんだっけか? うーん、ツン、ツン―――なんだろ? 当てはまる言葉が見つからないや。そもそも「ツンデレ」っていうのは性格のことなんかいな? 春一は属性とか言ってた気がするけど、属性の意味が分からない。

 ま、それは置いといて、ここはこう言っておいた方がいいか。


「では、お願いします」


 俺はそう言って笑う。

 はっはっは。

 どうだこの大人の対応。

 だが、


「ふんっ」


 と奈々美は鼻を鳴らしてそっぽを向く。

 笑いかける、というのは失敗だったか……


「ふふふ」

 ?

 俺が奈々美の反応に指でこめかみを掻いていると、思わずといったように美佐さんが声を出した。 

 その声に同時に俺と奈美が美佐さんの顔を見る。

 俺は「?」っていう表情で―――

 奈々美は「ムッ」とした表情で―――


「ああ、ごめんなさい。貴方たちが仲のいい姉妹に見えて……ふふふ」


 姉妹って……俺は男ですが?


「不愉快なこと言わないでくれる?」


「あら、どうして?」


「!」


「お待たせいたしました。グリルハンバーグの洋食セットとホットコーヒーでございます」


 奈々美の声が大きくなりかけた時、絶妙のタイミングで店員が声を掛けてきた。もしかしたら少し騒がしくなった客を、嗜める意味もあったのかもしれない。

店員はマニュアル通りの笑顔のまま、最初に頼んだ注文品を手にしてやってくる。

 さすがに奈々美も店員のいるところで言葉を荒げる気はないのか、開きかけた口と噤んだ。

 そして店員がテーブルから去ったのを待って、こんどは若干声を抑え気味に奈々美が口を開く。


「どうせあたしが子供みたいって言いたいんでしょ」


「あら、どうしてそう思うの?橘さん、お腹すいたでしょ? 熱いうちにお食べなさい」


「ちっ、あとで見てなさいよ。先輩の力を見せつけてあげるわ」

「はいはい」

 

美佐さんは奈々美の相手をしながらも、俺に食事をするようにすすめる。

 俺としてもそろそろ空腹のせいでテーブルに突っ伏しそうだ。いや、しないけどね。

 素直に美佐さんの言葉に従い、やってきたグリルハンバーグを食べ始める。


「で、どうしてかしら?」


「姉妹だって比べられたら、あたしのほうが妹に見られるに決まっているじゃない」


「だって……あたしのほうが背も低いし、童顔だし、む―――」


「む?」


「む、胸だってちっちゃいし……」


 そう言って奈美はちらりと俺の胸元を見る。

 そこには高校生にしては見事な二つの山が存在を主張していた。

 勿論これは本物の胸ではないのはご存じの通り。

まさかこのニセ乳にコンプレックスを感じるとは……

 だがここで、


「ああ、これ偽物だから、あははははっ」


 なんて言えない。

 というか、男とバレても困るんだが、こう見事に女だと疑われないのもそれはそれで嫌だな。

 とりあえずここは下手に口を挟まない方向で――。

 俺は無言でハンバーグを口に運ぶ。


「奈美は十六でしょ?まだまだこれからよ」


「……あんた、いくつ?」


「え?」


「歳よ! 歳!」


「十七だけど……」


「たった一年でこんなになるっていうの?」


「そうね~、奈美次第じゃないかしら?」


「あたし次第?」


「そう」


 半信半疑の奈々美に向かって美佐さんが微笑みかける。


「それってどういうこと?」


 ぐぐっと前のめりになる奈々美。


「聞きたい?」


「べ、べつに……美佐が話したいみたいだから聞いてあげるだけっ」


 いや、興味ありありなのが丸分かりぞ?

 それだけ前のめりになって「聞きたくはないけど」と言われてもな。

 ……つか、いつになったら仕事の話が始まるんだろう? 大体今日は関係者との顔合わせであり、奈々美ともその一環で会ってるんじゃないのかね? だとしたらこんな話をするのではなく、今後のこととか話すのだと思うのだけど……

 なんて思っていても、それを口には出せない。

 せっかく奈々美の矛先が変わったというのに、わざわざ自分に引き戻すことにもなりかねないしな。

 ここはこのまま二人の会話を続行させるしかない。

 ただ胸がどうのとかいう話に男の俺が入れるはずも無い。分かるわけないし、なによりもなんだか気恥ずかしい。こういうのをガールズトークというのだろうか? まぁ間違いなくこの会話に「男」は立ち入れないのは分かる。だからその「男」である俺は、無言でハンバーグを食べていた。

 このガールズトークが終るまでは、眼の前のハンバーグに集中しよう。


「そうね、まずやたらめったら牛乳を飲んでも効果はないってことね」


 うん、このハンバーグはなかなかいける。


「うそ! だってアコだって牛乳飲めば大きくなるって言ってたし!」


「健康にはいいのでしょうけど、飲んだ分だけ大きくなるというのは違うわ」


 ファミレスのハンバーグ感はのこしつつ、それでいて専門店も唸らせる重厚さも兼ね合わせている。昨今の「ファミレスの肉料理」と「コンビニのスィーツ」は、やりすぎじゃねぇ?って思うくらいに本格化しているな。


「じゃぁじゃぁ、その―――れて大きくなるって言うのは―――」


「ん?」


「も、揉まれたら、大きくなるって言うじゃない。あれは?」


「どうかしら? 元は脂肪の塊なのだから、ただ揉むだけで大きくなるとは思えないけど」


「でも、雑誌なんかではよく書いてるし」


 そしてこのグリルハンバーグセットはハンバーグがメインになってはいるが、それそえられているソーセージもまた美味だ。付け合せの野菜にしても、手を抜かずなかなかに凝っている。総合として―――


「ああいうのは結構眉唾ものよ?」


「それは美佐だったらそういうことも経験した経験から?」


「そういうことって?」


「だから、ね、男の人と、その……」


「その辺りは秘密だけど……ただバストアップ体操は効果あるわよ?このあたりの筋肉を

つけることで、バストアップの効果をもたせるっていうね。大きくなるっていうよりも、形がいいバストにってにって感じだけど」


この金額としてはなかなかお買い得なメニューになって―――


「どうやるの?」


「こうやって両手を……」


「両手を……」


 いると思われ―――


「こう?」


「もっと―――」


「んん……」


「それからこうして―――」


「あ、あん……けっこう、きついのね」


 お、もう……


「―――あら、橘さんどうしたの? 顔が真っ赤よ」

 いつの間にかフォークを口にくわえたまま下を向いていた俺に、笑いをこらえた様子の美佐さんが声を掛けてくる。

 心なしか顔が熱い。

 多分、鏡を見たらかなり顔が赤くなっているに違いない。

 俺は顔をあまり上げずに、美佐さんの顔を盗み見る。

 彼女はテーブルに両肘をつき、両手の指を組んでその上へ顎を置いてこちらを見ていた。その顔を予想通りの顔をしている。

 お気に入りのおもちゃで遊んでいるかのような笑顔。

 今の会話、ぜってぇわざとだな。


読んでいただいてありがとうございます。

あ、手が滑った! と評価・ブックマークをしてもいいんですよ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ