メニュー選びで迷わないタイプ
ちなみに私もメニュー選びは早いほうです。
皆さんはどうでしょう?
「ほら、そっち寄りなさいよ」
奈々美は俺に向かって椅子の奥を指し示す。
って、こっちに座るのかよ……
そんな俺の気持ちを顔の表情からくみ取ったのか。奈美が呆れた顔をする。
「あのね、これから打ち合わせをするのよ? それなのにデュオを組むあたしたちがバラバラに座ってどうするのよ。あなたが一人で、私が美佐さんと座ったらおかしいじゃない」
「あ、そっか」
確かに……マネージャーである美佐さんと、俺たち二人とが向かい合って座る。この方が打ち合わせとすればしっくりくる。
俺は身体を預けていた椅子から腰を浮かし、席の奥へと体をずらした。
それを見届けてから、奈々美が俺の横へと座る。
座った拍子に奈美からいい匂いが香ってくる。美佐さんのように「女性」を思わせるような香りではなく、「女の子」を感じさせる香りだ。思わずドキリとして、必要以上に奈美との距離と取ってしまう。
「そんなに端に座らなくてもいいわよ」
彼女はそんな俺を見て、ため息をついた。
これはたぶん「女の子と密着して座るのがちょっと」という俺の真の理由とは違い、「そんなに嫌って避けることないでしょう?」という奈々美視点からの言葉だろう。
確かにコイツがそう受けとっても、仕方ないといえば仕方ない。初対面があんな出会いだったしなぁ。事実、会うのが憂鬱だったわけだし……
とか思っていると、奈々美は困ったように、形の良い眉をハの字にする。
「まぁ確かに良い印象を持たれてないのは分かるけど―――」
やっぱり嫌っていると思われているか……
「別に馴れ合う必要は無いけど、変にギスギスするのも嫌なのよ」
そう言って、意味ありげに美佐さんのほうを見る。
奈々美の視線につられて俺も美佐さんを見ると、気持ち悪いくらいにニコニコしていた。もしかしたら奈美にひと言言ったのかもしれない。
まぁ俺だって空気の悪い中で仕事はしたくない。
職場を辞めたのは、人間関係で―――みたいなことはよく聞くし……
短い期間だとはいえ、気持ちよく仕事できるのなら、それにこしたことはない。
「じゃ、じゃぁ」
俺は離れすぎず近すぎずといったポジションに、自分の腰を調節する。
こうやって隣同士で座るなんて、深雪をのぞいたら初めてだ。
なんか緊張するな……
「奈美は何にする?」
美佐さんが彼女にメニュー表を差し出しながら聞いてきた。
奈々美はそのメニュー表を受取り、前半のページをすっとばして後ろの方のページを開く。大体こういう店のメニューは、表紙、スパゲティやピザ類、洋食、和食、サイドメニュー、デザートやドリンク、裏表紙ってかんじに構成されているものが多い。ここも多分に漏れず、後半はデザートが記載されている場所。
彼女はデザートのページを吟味し始めたのだ。
時間からすると、確かに「ご飯」って感じじゃないかもなぁ……俺は腹空いてるから食べるけども。
「橘さんは決まった?」
「え? あ、はい。グリルハンバーグの洋食セットで」
「他はいいかしら?」
「さすがに時間が時間ですし、お――私はこれだけで」
俺が返事を返すと、美佐さんはすぐに店員を呼ぶスイッチを押した。
って、あ、奈々美がまだだけど……
「美佐さん」
「なに?」
「あの、藤田さんがまだ―――」
「ああ」
俺が言いかけると、美佐さんは笑った。
「奈美は決めるの遅いから、先に頼んでいいのよ」
遅いって言ったって、そんなには……
「スペシャルパフェも捨てがたいし……でも、今日の気分はバナナチョコ的なんだけど……ケーキ類に……でも全部食べてたらお肉になっちゃうからここはやっぱり……」
そう思って奈美を見ると、親の仇を見るかのような表情で、真剣にメニュー表と向き合っていた。そこはかとなくゴゴゴっという効果音を伴い、ラオウに挑むケンシロウが発するようなオーラが見えるような気がする、がもちろん錯覚だ。
だが確かにこれは長引きそうだな。
「ね?」
「理解しました」
そういえば――
「藤田さんって、藤田奈々美なのに美佐さんは奈美って呼んでますよね? なんでですか?」
確かイベントのときは藤田奈々美って名乗ってたはずだけど。
呼びやすく短くしているだけ?
「奈美の本名は藤田奈美。声優としての芸名が藤田奈々美なの。なにか意味があるってわけじゃなくて、偶然の産物でね」
「はぁ」
そんなことあるんだろうか?
芸名とかもっといろいろ調べて決めるものだと思ってたけど。
「デュオを組むのだから苗字ではなくて、名前で呼んだほうがいいかもしれないわね。後々のことも考えると奈々美のほうが良いかしら」
俺はちらりと隣を見る。
まだうんうん唸ってる。
まっ、すすめられたし――
「では奈々美さんで」
注文選びが長引きそうな奈々美を尻目に、美佐さんが俺のグリルハンバーグの洋食セットと、自分の分であろうホットコーヒーを、やってきた店員に注文する。店員はタブレット端末を操作し、入力が終わった後で一度復唱する。そしてもう一人、奈美の注文も確認しようとして、視線をタブレットの画面から奈美のほうへと向けた。
メニューを見ている奈美は、勿論その視線に気がつかない。
どうしたものかと困っている店員へ、美佐さんが助け舟を出した。
「もう一人も少し時間がかかりそうなので、とりあえずそれだけで。また決まりましたら呼びます」
「あ、はい、かしこまりました。では失礼します」
店員は頭を下げ、厨房へと姿を消す。
店員が去った後、しばしの静寂がテーブルを包み込む。
奈々美は未だ注文するものが決められていない。いや、それどころか、パフェ類にするのかケーキ類にするのかといったことすら絞り込めないでいるらしい。毎回これだと、一緒に来る人は大変だよ。優柔不断なのか甘いものに目がないだけなのか、はたまたその両方か。
自分が結構スパって決めるタイプなので、こういう気持ちはあまりわからない。
「いつもなのよ」
俺がメニューを見ている奈美を眺めていると、美佐さんが困ったように笑う。
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