変身中(変態中ともいえる)
お久しぶりです!
生きてますよ~
まぁそんなどたばたを乗り越えつつ、その後美佐さんの知り合いであるこの美容院に移動したってわけ。
ちと回想が長くなったか。
長くなってすまん。
なんか色々ありすぎて、気分的にはもう夕方な感じな疲労感。
すすめられたスタイリングチェアにどっかり座り、ぐでーっと疲れ果てている俺。
そうやって待っていたら、大きい箱状のカバンを持った美佐さんが、店舗の奥から現れた。
その後ろには美容師さんが―――いないや。美佐さん一人だ。
「お待たせ」
カバンを眼の前に鏡、その手前にある棚のようなスペースに置くと、俺の後ろにまわり両手で顔を挟みこむ。そして後ろから俺の顔と並べるようにして腰をかがめ、すごく近い位置で鏡の中の俺を覗き込む。
回りこまれたときに香る、大人の女性の香り。
そして頬に感じる冷たい手の感触に、どきっと心臓が跳ね上がる。
そりゃ、驚きもするだろ?
大体男は自分の髪や顔をあつかわれることに慣れてない。だってそういう機会なんて普通はないだろう? 精々床屋に行ったときくらいだ。ああ、ちなみに俺は美容院派ではなく床屋派。なんか美容室って入りにくいんだよね。
顔を触られて硬直している俺を、鏡越しに美佐さんがじっと観察する。
真剣な顔をして、何かを確認するように―――
俺は身体が動かないように、じっと息をひそめる。それはもう息まで止めて……いや、止める必要はないんだけど。
「うん、ちょっと眼鏡外してもいいかしら?」
「あ、はい」
美佐さんは俺に確認をとってから、掛けていた眼鏡は外す。そして外した眼鏡を、鏡の横に備え付けられてある眼鏡置きへと置いた。
そして再びさきほどと同じ体勢に戻る。
同じく先ほどと同じく息を止める俺。
息を止める必要は(以下同文)。
「睫毛長いのね」
「そうですかね?」
あんまり気にしたことはないな。
「肌もきめ細かいし、化粧ののりが良さそうね」
そう言いながら、俺の前髪をかき上げ、額を露にした。
「うん、これなら大幅な改造はいらないわね。女性としては複雑だけど、マネージャーとしては歓迎だわ」
鏡に映っている美佐さんはにこりと笑い、先ほど持ってきた箱型のカバンを開ける。俺の位置から中身全てを見ることは出来ないが、確認できる幾つかの物から想像するに、そのカバンには化粧品が収められているらしい。化粧カバンとかいうやつかな?
って、美佐さんが化粧とかするのかな?
「美佐さん?」
「なにかしら?」
彼女はカバンの中から幾つかの化粧品を出しながら返事を返してくる。
「美佐さんが化粧してくれるんですか?」
「ん? そうよ、なぜ?」
「美容院に連れてこられたから、ここの美容師さんがするのかと」
「確かにプロがしたほうがいいのでしょうけど、君の秘密を守らないといけないでしょう? できるだけ秘密を知る人間は少なくしたいの。だから私がしたほうがいいのよ」
「なるほど」
毎度本職の人にやってもらっていたら、いつか男だとばれる。「いつか」っていうか、俺からしてみれば、「一回目でバレるんじゃない?」という心配ありありなんだが……
だから元から秘密を知っている美佐さんが化粧をしてくれたほうが、男だとバレる可能性は低くなるわけだ。
「視力はどれくらい?」
「左右共に0.5くらいですね」
「コンタクトの経験は?」
「いえ、ないです」
「では合わなくてつけてないってことはないのね?」
「はい」
「じゃぁ、コンタクトをつけてもらいましょう。あと襟足に少し髪を足して……前髪は上げたほうがいいわね」
美佐さんは鳥のくちばしのようなもので、俺の前髪を止める。そして液体のようなものを自分の手に取り、そこから俺の顔へちょんちょんちょんと着けて、その後全体へとその液を塗り広げた。
「驚いた……肌つるつるなのね。張りもあるし、あら、ヒゲもないわ」
ぬぅ……俺としてはあんまり嬉しくないほめ言葉をいただく。
個人的にはヒゲとか生やしてみたいんだけど……
そんなふうに色々男としては自身をなくすような賛辞を浴びせられながら、テキパキと化粧は進んでいく。肌、唇、目、おでこの生え際など、美佐さんは手馴れた様子で俺を「女の子」の顔に変えていった。
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