玄関先の攻防w(中の中編)
すまない。
前・中・後でいくつもりが切どころを間違えたorz
そして俺の襟から手を離すと、今度は胸に手を当てた状態で俯く。
「だって……心配なんだもん」
泣いてはいない。
今は深雪にマウントポジションを取られている体勢なので、下からコイツの顔を覗き込む感じになっている。だから深雪が俯いて顔を下へ向けていても、その表情をよく見ることが出来る。
うん、泣いてないんだ。
そりゃそうだろ?
たかだか俺のバイトのことで、コイツが泣くなんてことがあるはずがない。
あるはずがないんだよ。
でもなんだろ?
この今にも泣き出しそうな顔は……
初めて……いや、前にも見たことがある気がする。
いつだっけ……
ああ、そうだ。あれは俺がここに残るって言った時。海外へ向かう家族、両親と深雪の3人と別れて暮らす決意を口にした時だ。あの時も今と同じような、必死で涙をこらえている表情をしていた記憶がある。あの後少ししてから、深雪もこっちへ残るといい始めたんだっけ。
だとすれば、俺が正体不明のバイトへ行くことを、本心から心配しているのだろうか?
先ほども言ったが、逆の立場だったらどうだろう?
そう考えると行動の無茶はあれど、心配してくれたこいつに、全てを秘密にしようと言うのが間違いだったのかもしれない。いや、勿論全部は話せるはずもないけど、ある程度なら話してもいいのかもしれないな。
俺はそう考えて、ふと苦笑いをする。
そして安心させるように言った。
「深雪、そんなに心配しなくても―――」
「まーくんが知らないうちに巨乳マニアになって、ピーをピーしてピーなんかしたりして、
挙句の果てに巨乳を使っていっくんの情熱にはちきれんばかりのピーを―――」
「って、あほかぁぁぁぁぁ!!!!!」
美しい家族の思い出を引き合いにだした俺に謝れ!!つかどこでんな放送禁止用語を覚えてきたっ!!! 人の予想の斜め後ろを行くような心配するな!!
「くだらない心配なぞするなっ」
「くだらなくないわよっ! きっと慎ましやかなバストのあたしに飽きたんだわっ!」
「慎ましやかとか、今は胸の大きさなんてどうでもいいだろ―――」
「どうでもいいってなによっ! 全国の貧乳に謝れっ!」
「どうして貧乳がでてくる!」
感傷的になった俺が馬鹿だった。
「じゃぁ、貧乳好きだっていうのっ?!」
「女の子が貧乳貧乳連呼するなっ!」
「AカップのAはアホのAとか、BカップのBはバカのBとか思ってるんでしょっ!」
「つか、お前が全国の女子に謝れ」
いかん!
なんかパルプンテを食らったかのように、深雪が混乱している。落ち着かせないと、目なんかちょっとヤバイかんじになってるし……しかも美佐さん待たせっぱなしだ。なんとか落ち着かせて、この場を収めないと―――。
まずはこの体勢をどうにか……
「とにかく落ち着け。ちゃんと話すから、とりあえず俺から降りろ」
「降りたらどうするつもり?」
「立ち上がるに決まってるだろ」
「タチアガルデスッテ!」
ギラリと目を光らせる深雪。
そして顔を後ろに向け、俺の股間辺りへ視線を移す。
「をい……今はカナカナ表記だけど、漢字だと絶対誤変換してるだろ?」
「とにかくヤダ、降りない」
「いつまでもこうしていられないだろ」
「だって退いたら、あの巨乳のところに行くんでしょ」
「巨乳って……」
確かに美佐さんは巨乳だけども……スーツ姿でなければもっと目立つだろうな。
「あっ! 何か不穏なものを思い出したわねっ!!! 不純異性交遊反対!」
鋭い。
「さっき放送禁止用語を連発していた奴にいわれたかねぇっ!」
「やっぱり降りない! このまま拘束するっ!」
「拘束って……」
「拘束します!ジャッジメントですの!」
「……確かにキャラは近いモノがあるけど、それはまずいだろ……」
ええい!
このままでは埒が明かない。
俺は深雪が自主的に降りるというプランをあきらめ、実力でこの体勢から逃れるべく動いた。
「実力でこの体勢から逃れるべく動いた」なんて大げさっぽく言ったけど、俺がやったのはただ単に。深雪のわき腹を掴んだだけ。それも「がしっ!」と強く掴むのではなく、支えるように手を添えるってかんじにだ。
でもそれだけで、
「ひゃうっ」
と普段は出さない声を出し、びくっと身体を震わせる。その動きに合わせて、トレードマークのツインテールが飛び跳ねた。その拍子に俺の身体を押さえ込んでいた両足の力が一気に緩む。
よし!狙い通り!
コイツの弱点実はわき腹だ。
小さいころによく、くすぐりあいとかってするだろ? 子供同士のじゃれあいなんだけど、これが弱い人間はとてつもなく弱い。深雪と俺も小さいころにやった経験があって、そのときからコイツはくすぐりってヤツに弱かった。もうその悶えっぷりが面白くて、ついついやりすぎた結果、深雪はものすごくわき腹が敏感になってしまったのだ。言わば、俺が作った深雪の弱点ってことになるのかな。
それで親戚のおっちゃんがわき腹を掴んで抱き上げようものなら、顔の位置まで持ち上げたときに膝蹴りをし、体育祭のダンスで腰に手を添えられようものなら、その相手を投げ飛ばす。今ではそのことを知っている誰もが、深雪のわき腹には触れようとしないまでのものになってしまった。
龍の逆鱗、深雪のわき腹だな。
しかしここはあえてその弱点を突きに行く。
今は反射的に投げ飛ばされようが構わない。
このマウントポジションから逃れることが優先なのだから。
肉を切らせて骨を断つ!
そしてその俺の試みは成功した。
がっちりと俺の身体を固定していた深雪の膝が浮き、身体を動かす空間ができたのだ。
俺はこの好機を見逃さず身体を反転し、上に乗っている深雪をソファの下へと追いやる。重心が高くなっていた深雪は、成す術なくソファの上から転がり落ちた。でもさすがに床へと落とすのはかわいそうだ。
だから俺は落ちそうになった深雪の腰に手を回して、ソファのほうへと引き戻す。つまりは先ほどの体勢から、くるりと入れ替わるようにして、最終的に立場を逆にした体勢へと移行したのだ。
「きゃっ」
どさっとソファに倒れこんだ深雪は、小さく声を上げる。
ふぅ……なんとかこれで……
と考えたとき、俺の下になっている深雪と目が合った。
あれ? これは……まるで俺が深雪に襲い掛かっているような。
うおっ、相手が妹だとはいえ、この体勢はまずいっ!
見上げている深雪の目が若干潤んでいるのと、少し頬を赤く染めているのが、余計にその気持ちを強くする。
「わりぃっ」
目的は深雪の拘束から逃れること。
それが果たされた今、こうして妹とくっついている理由なんてない。
俺はすぐにソファから降りて―――降り―――降りられない?!
って、なんでお前が下から抱きついてるんだよ!
「ちょっ、おま」
「説明して」
「説明って……」
「説明できなければ、あの牛乳女とはそんな関係じゃないって証明して」
なんだ、この「彼氏の浮気っぽい現場を目撃したときの彼女」的な態度は……
深雪は普段まことのことを「まこくん」と呼び、感情がのると「まーくん」
と呼びます。なぜかはそのうち閑話で。
読んでいただいてありがとうございます。
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