玄関先の攻防w(前編)
あ、そうそう、出かける時にちょっとした一悶着があったりした。
迎えに来た美佐さんに、深雪が食って掛かったのだ。
あいつには一応「バイトすることになった」とは告げていた。そうすると予想通り質問の嵐が俺を襲う。「何のバイト?」から「どこでするの?」など、さらには「女の人多い?」なんていう関係ないんじゃ? みたいな質問まできた。しかも最後には「あたしも一緒にする!」とまで言い出したのだ。もしかしたら「私が母親代わり!」だなんて思ってるのかもしれない。だけどさすがにそれは無理なので何とか宥めて、「残念だけど我慢する。バイトがんばってね」といわせることができたんだ。
今日の朝などは、
「お仕事いってらっしゃい。あ・な・た―――きゃぁ~! 新婚さんみたい!!!」
などとわけのわからんテンションだったのだけど、まぁ機嫌はよかった。だから安心して美佐さんの到着を待っていたのだけど、いざ美佐さんが家へ現れると、それまでの態度が豹変する。
美佐さんと約束をした時間である午前十時半。
時計の長針が文字盤の「6」を指すか指さないかという時刻、玄関の呼び鈴が甲高い電子音を鳴らし、客の来訪を告げる。もちろんまだその姿を確認してない。だけど時間から言って美佐さんに間違いないだろう。マネージャーらしく時間にはかなり正確のようだ。
かく言う俺も、待ち合わせなどの時間は守る方である。冒頭の春一との待ち合わせを思い出してくれれば、なんとなく納得してくれると思う。ついでに言えば、春一は全く守らない。これも冒頭を参照してくれれば分かってくれると思う。
という俺の性格もあり、今日も予定時間の十分前には支度を終えていた。といっても特にしなければならない準備なんてないけどね。
準備も終りソファでくつろいでいた俺は、立ち上がってインターフォンへと向かった。そして通話ボタンを押すと、液晶画面に玄関外の映像が映し出される。画面の向こう側に見えるのは、予想通り美佐さんの姿だ。
俺は対応すべくマイクに向かって声をかけた。
「はい」
『失礼します。私、柏木と申しますが―――』
「あ、俺です」
『橘君?』
「はい。今出ますんで待ってください」
そう言ってもう一度通話ボタンを押し、外との通話を打ち切る。
そのまま玄関に向かおうとして、ふと足を止めた。
深雪に一声掛けてから出るか……
「深雪~」
「なーに~?」
俺が奥の方へ向かって声を掛けると、そちらのほうから山彦のごとく声が返ってきた。
深雪は宿題をするために自室にいるはずだ。
「迎えの人きたからバイトいってくるわ」
それだけ言ってから、深雪の返事を待たずに玄関へ向かおうとした。
俺が声を掛けてから、遠くでドアが開く音が聞こえるまで、もしかしたら秒単位の時間かからなかったかもしれない。ドドドド!っと廊下を走る音が聞こえてきたかと思うと、ドップラー効果でその音を変えながら俺の眼の前駆け抜けて行った。
通り過ぎる時に「バイト先の人なら、あたしも挨拶しなくっちゃ!!!」とよくわからんことを口走っていたので、おそらく美佐さんに挨拶をするつもりだろう。お前は俺の妹であって、母親ではないんだが……
「おいっ、深雪!」
と、深雪の背中に声を掛けるが、この暴走機関車娘が止まる筈もない。
暴走機関車娘……
何気なく言ってみたが、すげぇハマッてる気がするな。
そしてすぐに玄関にたどり着いたのだろう、ガチャリという扉を開ける音と、「おはようございます! ウチのまことがお世話になります!」と、元気よく挨拶する声が響いてきた。
ふぅ……やれやれ……
深雪の暴走にも困ったものだけど、まぁ必死こいて止めることもない。だから俺はゆっくりと深雪の後を追って玄関へと向かう。
そして遅れて到着した玄関で、深雪が近所のおばさんのごとく美佐さんに話しかけて……ない? あれ? なにか無言で向かい合ってるぞ?
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