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ヴォーカロイドパニック  作者: たかさん
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至ショップ

いらしゃいませ

 目的の店舗は、サブカルシティと名付けられた商業ビルの4階にあった。

 過去に何度も中身が入れ替わったビルだが、十年ほど前にアニメやマンガ、ゲームなどに特化した店舗が集まったサブカルの聖地となったらしい。

 海を越えた隣県に住んでいる俺たち学生にとっては、気軽に行けるミニ秋葉原といったところか。

 なので俺も春一も何度も来ているおなじみの場所。

 

「そういえば」


「ん?」


「その限定版って、本数に限りある?」


 お一人様1セットというのはわかった。

 だが全体の本数はいくつなんだろう。


「んー、2種類それぞれ20セットだな」


 春一がポケットから広告を取り出し確認する。

 っておい……もう売り切れてる可能性ないか?

 サブカルシティに向かう連絡通路はいつもより人が多く感じる。


「結構人が来てそうだけど、大丈夫か?」


「マコトも電話かけたとき言っただろう? いまさらって」


 確かに……だからといって、買い求める人間が少ないとは限らないだろう。

 春一みたいなのが他にもいるだろうし。


「俺はいいんだけどさ。買うのお前だし……でも一応急いだほうがよくないか?」


 自分のものではないといえ、それ目的できたのだから買えた方が良いに決まっている。


「ここまできたら急いでも変わらない気もするが」


 と言いつつも早歩きになる春一。

 俺も同じくらいの速度でついて行く。

 そのまま連絡通路を歩き、歩くこと数分。

 大きなモニターが外壁に取り付けられたビルが見えてきた。

 目的地のサブカルシティだ。

 連絡通路はビルの二階から入れるようにつながっているのでそのまま向かう。

 大きく重い手動のガラス扉を開け先に建物に入った春一は、エントランスで立ち止まりスマホで何かを確認し始めた。 

 必然的に俺も立ち止まり、なんとなくエントランスに立てかけてあるビル内見取り図を確認する。

 そんな時、ビル内に流れる来客に対するお礼のアナウンスが止み、代わりにアップテンポな音楽が始まった。

 イントロからなかなかにキャッチ―な曲。

 お、このギターかっこいいな。

 アニメの主題歌かな?


「春一」


「ん?」


 春一は入り口横の案内板を眺めつつ、返事をする。


「今流れている曲ってさ」


「ん?ああ、これか?」


 と親指で天井に備え付けられているスピーカーを指さす。


「そそ、これなんのアニメだっけ?」


「今から買うやつ」


 今から買う……って……


「ミクにアニメとかあった?」


「違う違う、ミクを使って素人が作った曲だ」


 マジか!

 すごいな、素人が作ったのか。

 下手なシンガーソングライターが作った曲より、できが良い気がする。


「正確には元素人だな」


「いい曲だな」


「それはそうだ。今を時めくナギPが昔作曲したやつだからな」


「ナギP?」


「ん。元ナギPことナギラユウジン。マコトも知ってるだろ?」


「ああ、コレ、ナギラユウジンの曲なのか」


 それは納得。

 ナギラユウジンとは数年前からワイワイ動画でミクをつかった曲を発表し、それが評判となってメジャーデビューを果たした新進気鋭のシンガーソングライターだ。アニメの主題歌の大ヒット、ドラマや映画の主題曲への楽曲提供も多数。今や人気アイドルグループにまで曲を提供したりして、去年などは本人を含め、ナギラユウジンの作曲した歌が、紅白で4曲歌われたほどである。

 ナギラユウジンの曲は知っていたけど、ミク時代の曲は知らなかった。

 足を止め、店内から流れてくる曲に耳を傾ける。

もちろんどんなにうまく作ったとしても、ヴォーカロイドの歌は生身の人間の歌には敵わないだろう。微妙な呼吸や強弱とか、人でないと出せない味というものがあるからだ。でもヴォーカロイドにも独特の味というものもあるように思える。

 そういうことを含めて聴くと、俺は「ナギラユウジン」の曲よりも、「ナギP」の曲の方が好きかもしれない。

 そんなことを考えながら聴いていたら、丸一曲聞き終えてしまった。

 うん、いいかもしれない。

 店内にかかっているってことはCDあるのかな。

 曲名はなんだろう?

 春一なら知っているか。


「なぁ、春一」

 

 俺はそれを聞こうとして春一に声をかけた。

 って、あれ?

 声を掛けると同時に春一が立っていた方向に顔を向けたのだけど、そこにいたはずの春一がいない。さっきまでそこにいたのに……

 周りを見渡すが、エントランス周辺にあいつの姿は認められない。

 どこへ行ったんだ?

 さてはもう店内に入ったのかな。

 一声かけてくれればいいのに。

 やっぱ売り切れてないか心配だってことか。 

 じゃあ、俺も中に入るか。俺も行かなきゃ、ソフトが2本買えないだろうに。

 とりあえず新店舗を探して――


「ちょっと君」


 とエントランスを通り抜けようとしたとき、不意に後ろから声を掛けられた。

 反射的に振り向くと、そこには声の主であろう男の人の姿。

 赤いエプロンを着ているところを見ると、たぶんそこかの店員さんだとおもう。少しぽっちゃりめの体形に丸めがね、失礼だけど漫画にすると描き易いキャラクターの人だ。

 その人は手にしている書類のようなものと、俺の顔を交互に見ている。

 ちょっとコミカルな動きだ。

 でもなんだろう?


「何か?」


 通行の邪魔になると思われたのかな。

 見た感じ大丈夫だと思うんだけど……

 店員さんは何度か顔をチラチラと見、最後に俺の胸のあたりをみて大きくうなずく。


「橘まことさんで間違いないですね?」


「あ、はい。そうですけど、なぜ名前を?」


「先に書類には目を通しているので……時間ないので急いで5階へ向かってください」


 書類って……それに時間がないってどういう……


「あの……」


「思いのほか早く進んでいるので急いで」


 そのひとは俺の言うことも構わず、エスカレーターほうを指差す。

そして「五階に係員がいますので、指示を聞いてください」と言い残すと、小走りに走り去っていった。


「意味がわからんのだが」


 さっぱり分からん。

 どうしようか……なんとなく嫌な予感がしないでもない。このまま下手に動かず、ここで待っていてもいいんだけど、あの店員さん、また戻ってきそうだしなぁ。春一の用事もあるし、う~ん。

 とりあえず行った方が無難か。

 新店も上の階っぽいしな。

「確か5階って言ってたな」


 俺は一度吹き抜けから上層階へ視線を向けた後、5階へ向かうべくエスカレーターと向かった。


読んでいただいてありがとうございます。

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