脱衣所の攻防w(後編)
美雪が出てくる場面は書いてて楽しいです。
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俺の顔を見上げて、なにやら確認してきた。
そんなに仰々しくしなくてもいいだろうに……
「よろしく」
俺がそう返事をすると、深雪は予想外の行動をとる。
彼女はすっと俺の足元へしゃがみこみ、「えい!」とばかりにパジャマのズボンを引き摺り下ろしてきたのだ。とっさにパンツをガードしなければ、それすらも下へずり下げられていたに違いない。
「ちょ! おまっ」
深雪の突然の暴挙に、それ以上言葉が出ない。
いや、普通そうだろ?いきなりズボンをひき下ろされたら……
俺は即座にズボンを引き上げようと、パンツから手を離し、パジャマのズボンに手をかける。だが深雪が両手でしっかり押さえているために、引き上げることができない。こいつ、意外に力がつえぇ!
「手を離せよ!」
「なんでよ!」
「なんでって!」
「脱がないとできないでしゅ!!」
できないって―――なんで着替えたばかりのパジャマを、洗濯する必要があるんだよ!しかも語尾を噛んでいるじゃねぇか!
俺は力ずくで太ももまでズボンを上げた。
「なんでえぇぇぇぇぇぇ!? 上げちゃうのよぉぉぉぉぉ!」
深雪がそう言いつつ、じりじりとズボンを下げていく。二人の力が拮抗し、ズボンを握る手がぷるぷると震える。顔を真っ赤にしつつ俺のズボンに手をかけている様は、我が妹ながら恐ろしい。
「はーなーせーよ!」
負けずにズボンを上げようとする俺。
「いーやーだ!」
こちらも負けずに、ズボンを下ろそうとする深雪。
ぎりぎりの攻防のせいで深雪の頭が、俺の腰へと最接近してくる。
「おまえ! 今がどういう体勢か分かってるのかよ!?」
「―――え?」
俺がそう言うと深雪は、力を入れるために下へ向けていた視線をふと正面へと戻す。その正面には、あらわになった俺の股間があった。あー、いや!勘違いしないでくれよ?!
あらわになっているといっても、パンツは穿いてるからな!
それに気がついた途端、深雪はこれ以上ないというくらいに顔を赤くし、そのままの姿勢で動きを止めた。
力が緩んだ!
俺はそのチャンスを逃さず、一気にズボンを腰まで戻した。深雪が「あっ」と声をだして手を伸ばしてくるが、後ろに下がって距離をとることにより、それを回避する。
よし!危機は脱した!
「あーーーーー!!!」
「あーじゃねぇ!! なにすんだよ!」
「お願いするって言ったじゃない!」
「それは今洗濯機に入ってるやつのことだ! 着ているものまでしなくていい!」
「洗濯機の中のでどうしろっていうのよ!」
「普通に洗濯すりゃいいだろ!」
「洗濯ってっ! ………………………………………………・・・洗濯?」
そう言って、深雪が動きを止めた。
こう、なんていうのだろう。両手を前に差し出し、いまにも飛び掛ってきそうな体勢のまま、一時停止ボタンをおしたかのようにピタリと止まっている。まるでザ・ワールドの能力で止められた、スタープラチナのようだ。深雪はその体勢のまま、小さい声で「洗濯?洗濯なの?」とつぶやいている。時間は止められていないらしい。
えっと……
「おーい」
「……」
返事なし。
「みゆきー?」
「…………」
返事(以下同文)
うーん……動かないな……
仕方ない。
俺はしゃがみこんで深雪の耳元に口を近づけると、耳元に向かってふっと息を吹きかけた。瞬間、深雪はびくと体を震わせて、息を吹きかけられた耳を押さえる。
あ、動いた。
こいつは耳を触られたり息を吹きかけられたりするのを、極端に嫌う。何年か前に面白がって耳たぶを触っていたら、本気で怒られたこともあった。だからなるべくはしないようにしているけど、こういうときは仕方ない。だって効果絶大だし。
「ちょっと! 耳はやめてって―――」
「ようやく動いたな」
深雪は俺がそう言うと、言いかけた言葉を飲み込み、何か考えるように俯く。どうやらようやく事態を認識したようだ。上目遣いでおれの顔を見て、両手を無意味に組んだり離したりし始める。こいつがバツの悪いときによくする仕草。
「あ……あの……いっくん……その、あれは……」
「これ洗われたら着るものなくなるからさ。これは洗わなくていいよ」
言いながら、俺はパジャマのズボンをつまむ。
「う、うん……」
深雪は何か探るように俺のことを見ながら、小さく頷いた。
「……洗濯と思われてるんだ……よかった……」
「ん?」
「うんん! なんでもない!」
そう言って、ぶんぶん首を横に振る。
なんだ?なにか怪しいけど……ま、いっか。
「じゃぁ、今洗濯機に入ってるのだけよろしく」
「……わかった」
深雪はぎこちない動きで、洗濯機のパネルを操作し始める。まるで錆びたロボットのような、ギギギッと音が出るのではないかと思える動きだ。もちろん深雪は何度も洗濯当番をしたことがある。だから洗濯機の操作がわからないから―――ということで、こんなロボット的動きになっているわけではない。考えられる原因は一つ。先ほど俺のパジャマを脱がそうとしたこと、それを引きずっているということだろう。俯いてパネルを操作する深雪は、激しく怒られたあとの子供のようだ。
まったく……
俺はため息をついてから、俯いている深雪の頭をくしゃくしゃと撫でる。俺も、まあぁ、そんなに背が高い方ではない―――スイマセン、ウソヲツキマシタ。背は低いです。そのため人の頭を撫でたりするのは、得意なほうではない。だけど俺の肉親である深雪も、女性の中でも小柄のほうだ。だから彼女の頭を撫でるのに、そんな苦労などしない。逆に「俺だって、こうやって頭を撫でることができるんだぜ」と、優越感に浸ることができるので嬉しかったりする。
そして嬉しいのは深雪も同じらしい。昔から父親が仕事で忙しく、留守がちだった。だからいつも居ない父親の代わりに、俺にこういうことを求めていたのだと思う。なので機嫌が悪かったり落ち込んでいたりしているときには、こうしてやると機嫌が直るんだ。普段はそうでもないのだけど、こういうところは子供っぽい。
今も頭に手をやった瞬間は少しびくっと体を震わせたが、後は俺の撫でるのに身を任せていた。洗濯機を操作する手も、スムーズに動き始める。
よし、大丈夫か。
「とりあえず……気にするな」
「…………うん」
「じゃ、まかせた」
「うん」 俺は最後にポンポンと軽く頭を叩くと、深雪を残してそのまま洗面所を後にした。
洗濯のセットするだけだったのに、なんだか疲れた。
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キン肉マンに対する牛丼です!




