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ヴォーカロイドパニック  作者: たかさん
13/44

欲しいのは金の卵か?それとも金の卵を産む鶏か?(新藤海人サイド)

3話連続投稿の3話目です。

前話を読んでない方は1つ、もしくは2つ戻ってください。

ブックマーク、評価、誤字報告有難うございます!

 36カ所にも及ぶ全国オーディションの最終日。

 それを終え、俺はホテルの自室でパソコンの画面を眺める。

 本来ならオーディションは35カ所で終わりのはずだった。

 プロジェクトムーサ――音楽、映像、ゲーム、書籍と、多岐にわたるコンテンツで同時に進行する一大プロジェクト。しかもその全てがファン参加型となる。キャラクターデザイン、楽曲、マンガ、小説と、プロアマ問わず広く募集し、多角的に作り上げるムーサという世界を作り上げる。

 どんな世界になるのかは確定していない。

 すべてが参加した名もなきクリエイターたちが作り上げるからだ。


「とはいうものの……」


 巨大プロジェクトであるがゆえに、資金も膨大なものとなる。

 委員会方式も検討されたが、結局それぞれの業界の一流企業がスポンサーになることに決まった。

 そうなれば「スポンサー意向」というものが出てくることになる。

 大きなプロジェクトをコカすことはできない。

 だからある程度計算できる「素材」を求めるのは理解できる。

 あいつらが欲しいのは金の卵ではなく、金の卵を生む鶏のほうだからな。

 その「意向」を強く受けるのがプロジェクトの中核を成す9人のヴォーカロイド、歌姫たち。そのサンプリング音声――いや歌姫の分身となる声優、歌い手の起用だ。

 オーディションが始まる前からすでに5人、9人中5人が内定とか。

 しかもオーディションをしている間にさらに2人、「意向」によって決められてしまった。

 なんとか1人オーディションで声優の卵を起用することができたが、その1人を入れる事が精いっぱいの内に35カ所目の福岡のオーディションが終わる。

 このままだと「ファンで作り上げる」ムーサの世界が、ただの宣伝文句だけで張りぼてと化してしまう。

 そんな危機感を感じた俺は、急遽36カ所目の会場を確保した。

 北九州は福岡市に次ぐ、福岡県内第2の都市だ。

 もしかしたら日の目を見ていないダイヤの原石を見つけることができるかもしれない。

 そうして始まったオーディション。

 その時のことを思い浮かべる。


「ありがとうございました」


 オーデションを受けた41人目のポニーテールのコが、頭を下げた後退室する。

 他の地域に比べても多めの人数。

 だが目ぼしい人材はいなかった。

 やはり急遽募集したのも影響したのか。

 多少歌が上手い、多少声が良い、多少見目が良い、そんな人材はいたが、「多少」止まり。食指が動く人はいなかった。

 41人目の女の子が部屋を出る。

 俺はため息をつきかけ、ごまかすように体を伸ばした。


「三ちゃん。これで終わり?」


 俺はスーツをぱりっと着こなした、ミスタービジネスマンという風体の三井三太郎に声を掛ける。

 本来は俺の他にクリエイター側から2人、実務側から2人審査員が出るはずだが、北九州会場は急遽ということで、クリエイター側から俺と歌姫起用が決まっている藤田奈々美、そのマネージャーの柏木さん、実務側から三井さんが参加している。

 

「新藤さん、三ちゃんはやめてください」


「いいじゃん、かわいいのに」


「せめて公式の場では三井と」


「はいはい、で三ちゃん。いまのコで最後?」


「はぁ……ええと――」


 三ちゃんは呆れたような表情をしつつ、手元の資料をめくる。


「もう一人いるみたいですね。店長さん、次を」


 三ちゃんが声をかけると、「承知しました」と店長が椅子から立ち上がって、部屋から出ていく。

 ちなみに店長は審査員ではない。

 そしてすぐに戻ってくる。


「どうもまだ来ていないようで――」


「時間が守れないなんて、論外ね!」


 ふんすという感じで奈々美が腕を組んだ。

 憤慨している、という感じだろうが、どうも小型犬がキャンキャン吠えているようで迫力がない。

 ただ彼女の言うことはもっともだ。


「じゃぁ、これまで――」


 と終わりを告げようとした時、被せるように部屋をノックする音が聞こえてくる。

 次いでガチャリと戸が開き、店長の店の店員が顔をのぞかせた。


「42番さんが来ました」


 お、来たのか。

 まぁ来たのならやるか。

 期待はできないが……

 促されて入ってきたのは高校生ぐらいの女の子。

 ん? 女の子、だよな?

 彼女はきょろきょろと室内を見渡し、大きな目をぱちくりさせながらこちらを見ている。

 おや? これは、オーディションを知らないっぽいか?

 話を進めていくうえで、それは確信となった。

 やっぱりか。

 だけど容姿と声は良い。

 時間も押しているということで、すぐに課題曲を歌ってもらう。

 そして彼女が披露したのは、まさかのスキャット。

 だがそれは妙に耳に残る声だった。

 これは……もしかしたら……

 俺は店長にプレイヤーと歌詞を用意してもらい、彼女――橘まことの歌を聴く。

 そしてすぐに自然と口角が上がった。

 見つけたかもしれない。

 そのときの映像をパソコンで見ながら確信する。


「君の世界はこれで変わる。いや、こちらの世界もかな」


 俺はエクセルのオーディション参加者リストを開くと、「橘まこと」の欄に「採用」の印を入れ保存、それをメールに添付し事務局へと送信した。


「君はただの金の卵か。それとも――」


読んでいただいてありがとうございます!

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焼きたての餃子に対するビールです!

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