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努々忘れることなかれ2

真地は、息を呑んだ。

次に見えたのは地面。

転がりながら、息を吐いた。広がったスカートを慌てて己の掌で抑えて、整える。願わくば、3枚千円のパンツが誰の目にも触れていませんように。

「・・・び、びっくりしたぁ・・・。」

青い空と白い雲、そして覗き込む、いまだおぼつかない足取りの子供。

目の前に突然現れた少年に、いきなりかけた急ブレーキは彼女の運転している自転車のハンドル操作を誤らせるのに充分だった。

遠くから、女の声が聞こえる。少年の母親の声だろう。

目を離した隙に転がり出た、と言うことろだろうか。

季節が秋でよかったと、心底思う。

後部に当たる植木の感触が柔らかく、そして暖かい。日が落ち始めたばかりだから、柔らかな日差しの暖かさが残っているのだ。

ひんやりと心地の良い地面から身体を上げれば、まだ若い母親が目に飛び込んでいた。

こちらを心配しているようにあわてて駆け寄ってくる。

大丈夫だと、笑って立ち上がりまた自転車にまたがる。

頭も打っていないし、手を少し擦り剥いたが、これくらの怪我なら2,3日もかからないで治るだろう。子供がこちらを見た。夕日が差し掛かる街路樹の根元で笑って頭を下げる。

「あんがとぉ。」

母親が困った顔をしたのを尻目に真地も笑いながら自転車を走らせた。


少し、いい気分になって、真地は視線を地面に落とした。

…雑巾?

夕焼けに染まる街角の、普通の、そう極ありふれた普通の歩道だ。

白いものが夕日に染まっていた。

一見、布。

自転車を止める。ぼろ雑巾にも見えるが、動いているのだ。一見、布は。

非常に遅い動き、しかしながら生きているように動いている。

「…何、これ…?」

踏んでみた。容赦なく、白い運動靴で踏んでみた。日に焼けた足で、こう、左右に一回ずつ、足首を捻って。

「…ぶぎゅるっつ」

有り得ない声が聞こえて、真地は踏んだまま、動きを止めた。

踏んだまま、もう一度足首を左右に丁寧に一回ずつ、先程より力を込めて踏んで見た。

「…ぶぎゅるっ♪」

…どうしよう、心なしか嬉しそうだ。犬や猫なら、少なくともぷぎゅる、とはいわない。

寧ろ声質から言って低い男の声だ。先程のいい気分など粉みじんでそれを見つめていると、白い雑巾が顔を上げた。

口元は獣。何だか笑っているような形のそれが、二、三度動き、真地は思わず踏んでいた足を外す。

「………………。」

沈黙が、続いた。

「いやたぁああああああああ!女子高生の生足ゲットぉおおおおおおおお!」

先程まで嫌にゆっくりと動いていた生き物と同じだとは思えない、本能に近い動きでそれは真地の太股を這い登ってきたのだ。咄嗟、持っていた学生鞄で殴り飛ばせば、歩道の数メートル先にそれは弾け飛び、地面を何度もバウンドして転がる。

今度こそ、その白いものは動かなくなった。一ミリも。


そのまま置いて帰るには余りにも無常だった。


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