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第7話【キミにきめた!】

 翌日の放課後、ボクは吹奏楽部に入部する事を決意した。なに単純な話、自分の希望する条件を全て満たす絶好の部活だったからだ。







 その日の放課後、ボクらは体育館に集まっていた。百六十人の新入生が一挙に集結した事で、館内は軽い蒸籠状態だ。

 学科毎に出席番号順に並ぶため、ボクは館内の左手後方で腰を下ろし体操座りをする。前には柳君、後ろには有木君がいるが両者ともスマホたぷたぷ中なので、自分は配られた冊子に目を通す。


 今日ボクらが集められたのは各部活動の紹介を見るためだ。毎年の慣例行事で、各部の先輩達が体育館のステージ上に立ち、新入生に向けて自分の部を紹介し勧誘していく。


 基本は自作の部活紹介用のビデオと勧誘の挨拶をするのだが、ビデオは使わずに部員同士でコントをする部なんかもあるらしく、部活が決まっている奴らはそっちをメインで楽しみにしているようだ。


 ボクは各部の紹介ポスターを束ねた冊子をめくりながら、自分に合った部活がないか念入りにチェックする。

 部活ってこんなにあるのか……大和高専には優に五十を超える部活動が存在する。冊子をめくると、野球部サッカー部バスケ部と定番の運動部から、計算機部にワンダーフォーゲルスキー部なんて名前からは活動が想像できないような部も掲載されている。

 これだけの部活があれば……自分に合った部活を見つけることができる、そう期待しつつ冊子を眺め、開始の時を待った。







 まさかこんなに濃いとは…ボクは体育館を出て駅へ向かいながら部活紹介を振り返っていた。一部活三分、三十程度の部活が参加しており、見応えはかなりのものだった。

 中でも《ラクビー部》と《計算機部》はひときわ異彩を放っており、館内は大きく盛り上がった。


 ラクビー部の迫力はすごかったな。ラグビー部は順番がくると、ステージ右手から白を基調としたユニフォームを身につけたガタイの良い男達が十人出てきた。そして中央付近で各々雄叫びをあげながら力自慢をする。大きく四股を踏み、叫びながらのドラミング、そして締めのマッチョポーズ、圧倒的な筋肉に気圧される。

 アピールが済むと、中央から右に隊をなして整列していく。四-三-三フォーメーションの様に並んだら、今度はステージ左手から朱色のユニフォームを着た細身の選手がラグビーボールを右腕に抱えて出てきた。緑のアイシールドをしており顔は見えないが、筋骨隆々な他の選手と比べると、随分と頼りなく見える。

 どうやらステージ右手白マッチョチーム対ステージ左手アイシールドの戦いのようだ。

 ぴーっ!どこからともなくなったホイッスルの音を聞き、白い男たちは腰を落として待ち構える。その瞬間アイシールドはステージを左から右へ颯爽と走り出す。シューズと床の摩擦でキュッキュッと音を立てながら、グングン選手の元へ進んでいく。その速度と身軽さにガタイの良い男たちがなすすべなくスラスラと脇を抜かれる。七人が余裕で脇を抜かれ、残りは三人。焦りを見せた三人はお互いの顔を見合わせ、大きく両の手を広げ隙間をなくして迫る。しかし、一瞬入れたフェイントに見事に三人引っかかり逆側からあっさりと抜かれ、アイシールドはそのまま走り抜いてステージ右手のカーテン裏に消えていく。

 ぴーっ!「タッチダウン!!!」

再びホイッスルの甲高い音がなり、ステージ裏から野太い声で得点の掛け声がかけられる。一瞬の余白の後、館内から歓声が沸き上がる。

 白チームの選手はこちらに向きなおり、アイシールドが出てきて話を始める。

 「みなさん、ラグビーに体の大きさは関係ありません!自分の個性を生かしてチームの役に立てます!たくさんの入部、お待ちしてます!!」

 選手全員で一礼して、ラグビー部は退場していった。

 この実演にはラグビーに対して無知なボクも少し興味を惹かれた。それだけの熱意が伝わってきたのだ。まあそもそも運動部入る気ないけど。


 その後もいくつか紹介が続いたが、計算機部は明らかに異彩を放っていた。


 高専っぽさ全開かよ……彼らの順番が来ると、映像がすぐさまスクリーンに映し出された。

 どこからともなく某ラブコメアニメのオープニング曲が流れ始め、《計算機部でも恋がしたい》とロゴが出る。これを見た瞬間に会場の大半はあのアニメのパロディだと悟った。

 そこからは曲に合わせて各部員の映像が映し出されていき、サビでは男達が両手の人差し指を立ててカメラ目線で指を回している。おそらく計算機部メンバー総出演だろう。サビの踊りに突入した瞬間に会場に一気に笑いが巻き起こった。

 PVが終わると、《計算機部ではパソコンを使った様々な活動をしています。計算機部に入ればあなたもきっとやりたい事が見つかるでしょう。》とテロップが流れて計算機部の部活紹介は幕を閉じた。

 動画編集までできるなんてすごいな。ボクは素直に編集力の高さに驚いた。入部したいとは思わなかったが。







 あそこしかないな。駅に着いたボクは上機嫌だった。先ほどの部活紹介で自分の要望とぴったり合致する部を見つけたからだ。


 まず第一に文化系で運動能力が必要ないため、運動音痴のボクにも適性はある。

 次に部員の三分の二が高専から始めており、初心者でも入りやすい環境だと思ったからだ。部の紹介をして下さった部長も、高専に来てから始めたらしい。トップが初心者なのは有難い……

 さらに男女混合のため、多くの人と接点が持てる。高専は工業系のためか男子の割合が高く、特に機械科や電気科に入ると女性との接点が絶たれてしまい、通称高専病なるものを発症してしまう事もあるのだ。

 女性恐怖症を克服するチャンスでもあるか……中学一年生のある出来事がきっかけでボクはめっきり女性と話せなくなってしまっていた。これを機に、女性とも円滑なコミュニケーションを取る事が出来るようになれば、悲願達成に大きく近づくだろう。

 おまけに人手不足で一人でも多くの部員を必要としているらしい。初心者大歓迎ってだけでもありがたいのに、人手不足まで重なればなおさら初心者でも喜んで入部させてもらえるだろう。


 まさかあのボクが吹奏楽部を選ぶとは……元々音楽を聴いたり楽器を吹くこと自体は好きで、よく音楽の授業前は音楽室前方のピアノを使って、某RPGゲームのメロディをコピーして弾いたりしたものだ。

 しかし女性が苦手な事も相まって、中学の時はずっと避けてきていた。それがまさか、こんな形で最高の部活になって姿を表すとは……人生何があるかわからないものだ。


 考えている間に電車は到着する。ボクはなるべく降りる駅の階段に近い車両に乗り込む。降車駅はいつも混むので、階段下のこの車両がベストポジションなのだ。入学四日目にして公共交通機関を乗りこなししたり顔である。

 問題はどう馴染むか……いくら男子の比率が高い高専と言えども吹奏楽部、女性が七割を占める。そんな所にボクが単身乗り込める訳もない。

 うー、どうする……何か打開策がないかと考えている間に電車は降車駅に着く。ボクは電車を降りて改札を抜け、バス停へと足を進めた。

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