第2話【入学式と担任教師】
入学式の朝、新入生は全員体育館に集められ、学科毎に並べられた椅子に出席番号順に着席する。
いよいよか。少しソワソワしながらも式が始まるのを待つ。
「えー、学生の方も揃いましたので、これより入学式を始めたいと思います。」
急に張り詰めた緊張感にボクは思わず背筋を伸ばす。バーコード頭の先生のアナウンスで入学式は始まった。
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想像とは真逆で、入学式自体はとても簡素なものだった。高専というだけあって、もっとメカメカとかビリビリとかトントンとかあると思っていたのだが、校則の緩い高専だからといって、派手な演出はしないらしい。
大和工業高等専門学校
通称:大和高専
高校生の年齢から入るこの学校には、機械、電気、環境、建築の四つの学科があり、一クラス四十人を目安に構成されている。
入学から五年間の一貫教育で、次世代の日本を担うモノづくりのプロフェッショナルを育成する、というのが学校の謳い文句だ。
「新入生退場、新入生のみなさんは担任の先生について退場して下さい。」
バーコード頭の先生の声で、新入生はそれぞれの担任の先生について教室へ向かう。
ボクら機械科の四十一人はツンツン頭のひょろ長い先生が担任だ。2列になって退場し、先生の後をついてゾロゾロと教室に向かった。
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「はい、じゃあみんな自分の出席番号と席に貼られた紙を参考に、自分の席に着いてー」
教室についたボクらは先生の指示に従い各々の席に座っていく。
全員が着席したのを確認すると間髪入れずに先生が話し出した。
「はーいみなさんこんにちは、僕が今年1年間このクラスの担任を務める、平松数矢です。一応数学の教員をやっていて、みなさんで言えば数学Aの授業を見ることになってます。」
先生は淡々と自分の紹介を続ける。自分の事を話すときに早口になる事から、あまり自分の事が好きではないようだ。
「担任を務めるのは今年が初めてなんですけど、まあやる事やって、あとはゆるくいこうと思ってるので、みなさんどうぞよろしくお願いします。あ、問題だけは起こさないでくださいね」
乾いた笑いをとばして先生は自分の紹介を締めた。
パチパチパチ……クラスの誰かが叩き始めた両の手は一瞬で教室中に伝播する。ボクもならって手を叩く。
なんか、闇深そうだな……ゆるくいくという言葉の後に牽制を込めた釘止めをするあたり、軽はずみな行動をすればキッチリ制裁がくるだろう。
身の振り方には気をつけよう、クラスの何人かは先生からの忠告をしっかりと受け止めた。
「それじゃあみなさん、まだ入学初日で誰が誰だとかまるっきりわからないと思うんで、いやまあ既にわかってる人達も何人かいるっぽいんですけど、まあそれは置いといて……」
続く言葉にボクは戦慄した。
「まずは前に出て、一人ずつ自己紹介をしてもらいたいと思いますー」
唐突に出された圧倒的難題にボクは涙目で下を向く。な、どうしよう、原稿考えてないぞ……
嫌な汗が背中を伝う。まるでメガネを外したかのようにピントがうまく合わない。突如訪れたピンチに、ボクの体は外から崩壊し始めたようだ。
こうして勇樹颯にとって、高専初の試練が幕を開けた。開けられてしまった。