繰り返し
一回目は本当に彼女が憎くてたまらなかった。それでも、何もしていないし、何もする気はなかった。ただ罪を擦り付けられ、殺された。
二回目はただ死にたくなかった。だから、殿下の婚約者の立場から降りた。それなのに、嫉妬で彼女に危害を加えたと責められ殺された。
三回目は殿下と相思相愛になれるよう努力した。殿下も愛してくれていた。なのに、結局は彼女のもとに行き私をあっさりと殺した。
何度も何度も繰り返した。
その中で、家族や殿下に繰り返しのことを打ち明けたこともあった。彼らは守ると誓った。それなのに私を裏切って私を殺した。他国に逃げても、ダメだった。
だから、今回にかけていたの。
他国の王子であるランスなら大丈夫って。ランスなら婚約者になった私を見捨てたりしないって。
なのに、なのに____
「嘘をついた君のことは信じられない」
ランスの腕に己の腕を絡ませるシイナ。私を何度も何度も陥れ、殺した彼女はランスさえも私から奪った。
信じてくれるって言った癖にランスの瞳は失望の色しかない。
「嘘などついておりません」
申し訳程度に否定してみる。
もしかしたら、ランスならしっかり聞いてくれるかもしれないなんて淡い期待を抱いて。
「シイナが君の本性を教えてくれた!善人面はもうやめろ!」
プツン
私の中で何かが切れる音がした。
「………ふふっ…あははははははははっ!」
あぁもう、おかしくてたまらない。
狂ったように笑い始めた私。それを唖然として見るシイナや、ランスたち。
どの時もあんなに愛した。あんなに一緒にいた。それでも皆、最後はシイナのもとへ行く。私を裏切って。私を捨てて。
何度も何度も何度もやり直し、いつまでも終わらない時間。繰り返すたびに期待させられて、裏切られる。誰も私のことなんて愛してない。誰も私のことなんて見てない。私は悪役だから。私は主人公の踏み台だから。
「もう、いいわ」
もういい。もう、何も期待しない。誰も信じない。抵抗もしない。
「誰も信じてくれないのですものね?もう、茶番は結構よ」
私は知っている。この後、誰がどんな言葉で私を糾弾するのか。どれも証拠が無いと否定する私を殺すのが誰なのかも。
「まだ断罪は終わって__」
「結構よ。それとも、これから死ぬ女にこれ以上何を言って絶望させようとしているのかしら?
シイナの母の形見が無くなったこと?
シイナの本が誰かに破られていたこと?
シイナのドレスが何者かによって汚されていたこと?
シイナがほかの令嬢に距離を置かれていたこと?
どれも証拠が無い。それでも貴方たちは私を殺すのでしょう?私の言葉なんて誰も信じないんでしょう?」
どうせ信じてくれないなら、もういい。早く、終わりにして欲しい。
「っ!そこまでわかっていて、何故シイナに謝罪しない!」
「謝罪する理由がございませんわ」
誰でもいいわけじゃなかった。
ランスだったから愛した。ランスだったから信じた。でも、ランスも私を捨てる。お兄様やお父様や殿下のように。
「……もういい。認めぬならここで斬り捨てるまでだ」
ランスはそう言って剣を抜き私に振り下ろした。
私はランスに向かって__嗤った。
「愛していたの…信じていたのよ__
__ランス ノ ウソツキ」
皆、皆嘘をつく。信じてくれるって言ったのに。ずっとずっと守ってくれるって誓ってくれたのに。
何度繰り返しても、結末は変わらない。
大切な人たちに繰り返しのことを話して、『裏切らない』と言われても。希望を見つけて隣国まで逃げても。
皆、私を裏切るの。皆、愛する人を信じるの。
もういいわ。もう疲れた。
魂が引っ張られるような感覚がする。また、繰り返すのね。
神様、どうか願いが叶うなら。これで最後にして欲しい。どうせ同じ結果になるのなら、もうおしまいにして欲しい。もう…疲れてしまったの__
✤✤✤
『なんと愚かな』
『何故、こうもあの娘の周りは騙されやすいのか』
『哀れな子。私の…私たちの可愛い子』
『やはりこれで最後にするべきだ』
『これ以上は壊れてしまう』
『そうね』
✤✤✤
『可愛い子、食事が出来ましたよ』
「はい、女神様」
私は今、神のもとに居る。私の中の何かが切れたあの時から二回目の繰り返しで五歳の私は保護された。人の世では神隠しというもの。
少し話をするとこの、前の時の繰り返しでは、私は何もしなかった。
婚約者や家族とふれあうことも、シイナと関わることもほとんどなかった。それでも、やっぱり私は彼らの愛する人をいじめたことになり殺された。
だから、女神様たちが迎えに来たと言った時、これで終わるのだと安堵した。どの時間でも味方でいてくれた乳母には申し訳なかったけど、あんな結末はもう嫌だから。「ありがとう」と言葉を残してきた。
神が住まう森の中に入ることが許されているのは私とあの人だけ。数多の繰り返しで、一度も裏切らなかった人。私を庇い何度も死んだ人。優しくて、暖かくて、強くて、私を愛してくれる人。
「フィア」
彼は私の名を呼ぶ。愛おしそうに、慈しむように。
だから、私も彼の名を呼ぶ。ありったけの愛を込めて。
「クロウ」
_シイナ。私は貴女たちを愛せない。
どの時間でも、貴女はなにもかも奪っていった。
私が愛した家族の愛も。
私が愛した婚約者の愛も。
私が愛した民の愛も
私が必死で築き上げた居場所も。
私に向けられた愛も慈しみも優しさも感謝も憧れも、全て。
だから、私は愛さない。
なにもかもを奪った貴女も。
私を裏切った家族も。
私を捨てた婚約者も。
手のひらを返し、罵倒した民も。
もう、私には要らない。
無理やり作った愛なんて虚しいだけだから。
無理やり作った居場所なんて寂しいだけだから。
貴女にはわたさない。
私を愛してくれる人。私が唯一心から愛せる人。
私の唯一。
私の愛する人。
私の大切な大切な恋人。
クロウさえいれば私には何も要らない。
クロウさえ愛してくれるならもう家族愛されなくてもいい。
「ねぇクロウ」
「んー?」
優しい瞳に微笑む。
「お願い_」
_もうこの手を離さないで