外の世界と中の世界
鍾乳洞から出たら、太陽の明るい光が注ぎ込んできて、先ほどの寒さが嘘のように、いや天気でも寒いことがあって、太陽がよく見たら二つ三つ出ていて、いやまぶしいから見られないんだっけ、だから大体の数を言うと二、三個です。
「役立たずの太陽め!」と空に向かって叫んだら、男たちの一人から足払いを食らわされて、私は地面に倒れ込みました。別の男が「太陽は神様だ」と叫んで、太陽に身を捧げると、じゅうっという音がして男は消えちゃいました。
足払いをした男は「どうした?」と尋ねてきたので、心配してると思って私は感激のあまり涙を流しました。その涙を男はすくって舐めてみて、「しょっぺー」と叫ぶと「水、水」と真水を探してどこかへ行ってしまいました。
残りの男たちと、砂浜を散歩していると、先ほどの男が水が出ないかと砂の中を手掘りで掘っていたので、私も手伝うことにしたら、砂のお城が出てきたんです。相変わらず「水、水」と騒ぐので、先ほどまでいた鍾乳洞の中に入ったら、氷の世界だからと勧めると、男たちが集団で鍾乳洞の中に入り、出てこなくなったので、気にかかりました。
私は寒いのが嫌だったので、波打ち際で貝を拾って耳に当てると、ゴロゴロと凄い音がしたので、あわてて貝から耳を離すと、貝殻の隣に猫がいて、のどをゴロゴロと鳴らし始める。猫に乗れば楽かもしれないと思ったら、相手も同じことを考えていて、猫が私の背中をまたいで乗っかりにきたのでブリッジの体勢に変えたら
猫がぶら下がる感じになった。そのまま歩いてみたら、猫をのせてないのが楽なので、体制が多少辛くても我慢して歩くと、鍾乳洞に入った男の一人が、鍾乳石をくわえて出てきました。わたしはブリッジしたまま、男の足元を見ています。男は「水、水」と騒いでいます。
いい加減、神様にも会っていないけど、何かの能力はあるんじゃないかと思って、「鍾乳石よつららになれ」と命令したのですが、何も変わらないままでした。男は怒りだして「ペイワン娘のうろつき」と耳元でささやく。たしかにうろついているのは目的がないからです。この世界で戦闘するといったら、先ほど私を足払いした男しか思いつかないのです。
私は彼に「あなたのお名前を教えてくださいませ」と丁寧に呼びかけてみたところ、男は、私にぶら下がっていた猫を差し出しました。猫は黒猫だったので、「クロというんですか」と念を押すと「ちがうブチ」と叫びました。それでやっと、彼の名前が「ちがうブチ」だとわかったのです。
私は彼の持っていた鍾乳石を奪い取って「ちがうブチ勝負だ」と宣言しました。ちがうブチはしゃがんで命乞いをしています。
どうやら私は敵を間違えていたようです。ここで、敵と言えばモンスターでしょう。モンスターのいそうなところといえばダンジョンになりますね。私は先ほどの鍾乳洞にもう一度入ってみたのです。
中は寒く、男たちが駆け出そうというポーズで凍っていたみたいです。時折、「モギョーッ」という聞きなれない鳴き声が聞こえてきたので、それが敵なのだろうと思って、声のする方へ行くと、先ほどの男たちの一人が鍾乳洞まんじゅうを配っていました。男たちは少し動いては固まる。寒いのでだるまさんが転んだでもしているのだろうと思い、そっとしておきました。
ふと気づくと、私も少しずつ固まっては動き、固まっては動きを繰り返していたのです。どうやら何かのブームに私も知らずに乗っているのかなと思ったら、眼光の鋭い鳥がこちらをにらみ「モギョーッ」とけたたましく鳴いている。私は思わず睡魔に落ちてしまいました。
いかん、寒い所で寝たら死んでしまうと思って、ひざのつるんとしたところをつねって、無理矢理起きたら、鳥がくちばしを開いたまま固まっていたのを発見しました。こんな気温の低い鍾乳洞にいたら、凍ってしまうよなと思って、鳥をかかえて、出口へと向かうことにしたのです。
途中固まったままの男たちの集団がいたので、「ハーイ」と声をかけて立ち去りました。彼らにとってもいい思い出になったと思います。
出口から外を見ると、役立たずの太陽が増えていました。見つめて網膜が焼けたら大変なので、だいたい二、三個あったのだと思うことにして、太陽に尻を向けて中空を拝みました。失礼かもしれませんが、
背に腹には代えられなかったのです。許してね、太陽さんへ。
ちがうブチが命乞いをしていたので「大丈夫、あなたとは味方だよ」というと、怒鳴り声をあげて襲い掛かってきたので、先ほどの仕返しとばかり足払いをしようとしたら、前回り受け身をして一回転してすっ飛んでいったのです。
ちがうブチが砂浜から草まみれになって、こちらに向かい「男たちが固まったのはでんぷん質のせいだ」というので、「ちがう、この鳥が魔法をかけたんだ」と先ほどかかえていた鳥をみると、目つきが緩くなって微笑みを浮かべているんですよ。擬態をしてるなと思いましたが。ちがうブチは「この優しそうな鳥は魔法使いには見えない」と幼稚園児にもわかるぐらい簡単な説明をしていたんです。
私は、男たちを助けなければならなくなり、ちがうブチを誘ってもう一度寒冷の地に足を踏み入れたら、足跡がくっきりとついたので、面白がって足跡をつけまくったら、先ほどの鳥がやってきて、くちばしで一か所がつながった三本線を描いておりました。それくらい踏んでよと私は思いました。
男たちは私が遊んでいる間に、浜辺に出て日光浴をしていました。太陽は大方が沈んでいて、月がたくさん出ていた。男たちは、火を焚いて貝を焼き始めた。カルシウムの焼けるおいしそうな匂いが海岸に広がったのです。
私はごくりと海水を飲み込みました。「ペイワン娘、お前も食うか」ちがうブチが顔をくしゃくしゃにして手招きをしました。私は貝殻をバリバリとかみ砕き嚥下しました。