世の中に映るものは仮の姿で、誰にでも幸せになる道がある
「『好きなことをしてお金を稼ぐ』、これが一番だ!」
「またケンジお兄ちゃんのドヤ顔が始まった……」
「えっ? シンプルにして王道をいく真理だと思うけど」
「そんな、好きなことをしてうまくお金が稼げるわけないじゃん……お母さんだって、『歌手になるなんてバカなことばっかり言ってないで勉強しなさい!』ってよく言ってくるし……」
「違うんだよなあ……ミコちゃんわかってないなあ……」
「もう! さっきからすごいバカにされてる気がする」
「ごめんごめん、そうだね、少し回り道して違う話をしようか」
「う、うん……別にいいけど」
「簡単に言うと、『世の中に映るものは仮の姿で、誰にでも幸せになる道がある』ってところかな」
「えっ! 何それ! またアヤシくなってきた」
「すっかりアヤシいお兄さんになってるじゃないか、オレは。そうだな……例えばさっき、キャスの閲覧人数の話が出てきたよね」
「うん、ケンジお兄ちゃんの配信を聞いてくれる人は二,三人で、私は五十人くらい……だっけ」
「じゃあ聞くけど、ミコちゃん。閲覧五十人って、満足してる?」
「そりゃあ、五十人も私の音楽を聞いてくれて、色々とコメントくれるのは嬉しいけど。CDデビューしている人は閲覧千人超えてる人もいるし。まだまだかなあって思う」
「うんうん、正直でいいと思う。でも、オレからしたら閲覧五十人なんて神のような数字だぜ! もうキャスやめてもいいって思えるくらいに!」
「そ、そう……そうかな」
ケンジさんに褒められて、少しうれしくなるミコなのでした。
「閲覧五十人って数字は変わらないけど、見る人によって感じ方が全然違うんだよね。人はどうしても自分のフィルターを通して物事を見たり、考えたり、発言したりしてしまうんだ。昔の人はこんなことを言った、『世間虚仮、唯仏是真』」
「急にむずかしくなってきたよぉ」
「聖徳太子が言ったとされる言葉なんだけど、『われわれの目に映っているものは、あくまで仮の姿で、ただ真実のみが正しい』とかそんな感じかな」
「うーん、頭がこんらんしてきたよ」
「世の中はそういう偏見や汚れた考え方に満ちていると思うんだよね。そして九割以上の大人はそれに気付いてないと思う。自分が考えていることが正しいって思い込んじゃうんだよね」
「えっ、ほとんどの大人が汚れてるとか、そんな感じ?」
「さっき、『成功したかったら強く念じて行動に移すだけでいい』、とか、『好きなことをやってお金を稼ごう』って言ったけど、そんなことを言うと、『なにバカなことを言ってんだ、やめなさい』ってなるわけだ」
「そんなもんなのかなあ……」
「その点、子どもや若い人たちは、まだ汚れてる世間のことを知らない。自分の中の内なる思いに忠実だから、自分が興味のあることやりたいことをシンプルに夢に描く。でも結局汚れている世間にまみれてしまうことが多いんだよね」
「そっかあ……」
「みんな難しく考え過ぎなんだよ。もちろん社会のルールを破ったりするのは人を傷つけることになるし、自分にも跳ね返ってくるからやめたほがいいけど。そうでなければ自由に生きたらいいんだよ。どうしてもお金が必要なら、今は世の中労働人口が不足しているからバイトとかで稼げるし、どうせなら好きなことをした方がいい」
「じゃあ、お母さんの言うことは聞かなくていいの?」
「『今日からあなたの言うことは聞かない』って孤高を目指すのもいいんだけど……色々と面倒くさいことが起きるから、『この人は成功の法則に気づいてない、可哀想な人なんだな』って心の中で思っておくくらいがいいと思うよ。ほんとはさ、ミコちゃんが成功したら、さっきのお金の話とかこれからミコちゃんが体験することとか教えてあげて、自由な人にしてあげるのがいいんだけどね」
「本当に聞かなくてもいいのかなあ?」
「じゃあ、少し失礼な質問になるけど、ミコちゃんのお母さんは人生の成功者?」
「え? 成功者だとは思わないかも……なんかすぐに機嫌悪くなるし、コッソリ『お父さんと結婚するんじゃなかった』とか言ってるし」
「世の中は不自由な人であふれてる。成功した人の意見だけを聞いてたほうがいいんじゃない? 例えばゴルフには『シングルプレイヤー以外の人のアドバイスは聞くな』っていう言葉もあるよ」
「それって、どういうこと?」
「シングルプレイヤーってゴルフのハンデ一桁で、つまりアマチュア上位クラスの人のことなんだけど、要するに上手くなりたかったら、上手い人だけの意見を聞きなさいってことだね」
「そっかあ、そんなもんかなあ……」
「成功した人は自分の人生や周りの人に感謝しながら生きている。不自由な人は不平や不満を常に吐き出しながら生きている。ミコちゃんはどっちになりたい?」
「そりゃあ、グチばっかり言っている人より、いつもニコニコしていてありがとうって周りに言っている人の方がカッコイイと思うけど」
じゃあニコニコしていて楽しそうに話す、目の前のケンジさんは成功者なのかな?
ミコはふとそんなことを思いました。
「そうだろ! あとは不自由な人は状況の変化をとても嫌うんだ。周りの人が成功者になろうとすると、『そんなの成功するわけない』とか『もっと真面目に生きなさい』とか言ってすぐに自分の仲間に戻そうとするんだ。ゾンビが生きてる人間に集団で襲いかかるようなもんだね」
「ケンジお兄ちゃん、ひっどーーい。でも、なんかわかりやすかった」
「だから、ミコちゃんもシンガーソングライターになってこれから成功していこうと思うなら、その辺は心に留めておいた方がいい。成功している人とは、周りの人の挑戦や変化を応援できる人のことだ」
「うん、わかった。私も周りの人を応援できるように、頑張るね!」
成功への法則『世の中に映るものは仮の姿で、誰にでも幸せになる道がある』