お金の奴隷になるのではなく、お金と友達になる
「じゃあ、逆に聞くけど、どれだけお金があれば満足? 百万円もらえたらいい? 一千万円もらえたら満足? それとも年収一億円以上もらって、都内の高級住宅地にでも住んで、ベンツでも乗り回す?」
「えっ、そんなそんな……急に言われても……」
「お金の話をすると、お金の欲望に終わりはないんだ。しかも、お金持ちになったからといって幸せとは限らない」
「そう? うちのお母さんなんかしょっちゅう『お金がない、お金がない』って騒いでるよ。お父さんとも『アンタがパチンコに行き過ぎだから、もっとお金のことをちゃんと考えて!』って喧嘩してるし……やっぱりお金があったほうが幸せなんじゃない?」
「まあ、もちろん、生活していく上でお金は必要なものだけど。たくさんあればいいってもんじゃないんだ。お金持ちになったら逆に別の悩みが出てくる場合もある」
「えっーー! お金持ちに悩みなんてあるの? 欲しいものも買えるし、働かなくてもいいんだよ」
「税金対策で悩んだり、お金目当ての人が寄ってきてうっとおしかったり。あと死んだ時も困るよな。残された家族で血で血を洗う相続争いとか、散々争って親戚が財産を持っていって残ったのは故人の仏壇だけ……とか、そんな例をオレは何度も見てきたよ。それって本当に幸せなんだろうか?」
銀行に勤めているケンジさんの話を聞いていると、なんだか実感がわいてきます。
「んーー。そう考えると、お金があるからって幸せとは限らないのね」
「あとはアメリカのプリンストン大学の教授の研究でこんなものがある。人間の幸福度は年収約七百万円で頭打ちになるってね」
「どういうこと?」
「年収と幸福度の関係について調査したものなんだ。確かに年収が上がるにつれて、それに伴って人々が幸せと感じる割合は上がっていくんだけど。だいたい年収七百万円以降は幸福度は変わらなくなるんだって」
「ええと、つまり……」
「つまり、年収七百万円の人も、三千万円も感じる幸福度はそんなに変わらないってことなんだね。年収が高い人はその分忙しかったりストレスがかかったり、お金のために争いのタネが増えたりするし」
「そっかあ、それなら何が幸せかわからなくなってきちゃうね……」
「世の中の大多数の人は『お金にコントロールされる人生』を送っている。そうじゃなくて、『自分がお金と友達になる』んだ」
「いまいち違いがよくわからないんだけど?」
「まだミコちゃんには実感がわかないかもね。簡単にいうとお金について悩むのをやめるってことかな」
「そんなのムリ。おこづかいが入ったらすぐに使っちゃって、『あー、もっとお金があればあのアーティストのCDが買えるのになとか、可愛い服が買えるにな』、とかすぐに考えちゃうもん」
「ある程度収入があれば、その問題も解決するだろ? CDは数千円あったら買えるし、ミコちゃんの欲しい服だって、せいぜい数万円あったらとりあえず欲しいものは買えるだろ?」
「そうだけど、そのお金がないから困ってるんじゃん」
「だから、自分の思い・欲求にちゃんと向き合うことと、あとはお金を稼ぐことも大事。『衣食足りて礼節を知る』とか『金持ちケンカせず』って言うけど、お金があれば気持ちに余裕が持てる」
「ケンジお兄ちゃん、さっきと言ってることが違くない? さっきはお金持ちになっても幸せじゃないって言ってたし、でもお金を稼げって……」
「違いが理解できてないかな? どうも世間一般の人々はお金に対して否定的なイメージを持っている。自分ではお金を望むクセに、お金の話を人前でするのはタブーみたいな所があるんだよね」
「うーん、わかったようなわからないような……」
「例えば、ミコちゃん、お金、好き?」
「えっーー、うーんと、どう……かなあ?」
「オレはお金大好きだよ!」
目を輝かせて、ケンジさんはそう言うのでした。
「そんな、言い切っちゃうの?」
「だってお金があれば欲しいものも買えるし、色んな人を幸せにできるし、資産運用の仕方も奥が深いし、情熱的にお金を稼いでいる人から話を聞くのも面白いし、一生学んで遊べるコンテンツだよね!」
「そ、そうかなあ……」
ケンジさんのテンションの高さに、思わず面食らってしまうミコなのでした。
「お金自体は、もともと善も悪もないんだよ。でも一般の家庭に育った人は幼い頃から両親がお金で言い合いしたり、悩む姿を見てきている。だからお金に対して否定的なイメージなのにお金を求めるっていう、こじらせたコンプレックスみたいなのを抱いてしまうんだよ」
「うーん、そうかなあ……」
「一方、成功者の家庭に育った人は、お金の使い方をよく知っている。お金に対してネガティブなイメージがないから、自分に必要かどうかよく見極めて、効果的にお金を使っている。自分に投資する価値をわかっているのもこういう人達だね」
「なんか、私全然イメージわかないんだけど」
「お金なんてのは政府が保証しているただの紙切れだ。ミコちゃん、ちなみに一万円札を一枚印刷するのにいくらお金がかかるのか知ってる?」
「えっ、そんなの考えたこともなかった。やっぱり……たくさんお金がかかるんじゃない? 絵も細かいし、色もたくさんあるし、キラキラ光るやつ(ホログラム)もついてるし」
「一万円札の原価って、実はたった二十円だよ!」
「に、二十円!?」
「ようするに、たかだか二十円の紙切れを、僕たちはありがたがって使っているわけだ。場合によってはそれで殺人事件も起これば、戦争も起こる」
「なんか、色々と考えすぎて、頭がおかしくなってきちゃった……」
「みんなが価値があると思っているから、僕らも安心してお金を使って生活に必要なものに交換できるわけだ。で、成功するための法則に戻るけど、どうやってお金を稼ごうか? そのためには……」
「そのためには……?」
「『好きなことをしてお金を稼ぐ』、これが一番だ!」