3 車内 ータエ子ー
タエ子は大井町線に乗るのが好きだ。
時間がある時は、始点から終点まで乗ってしまう時もある。
都心にしては緑が多いこの線の眺めも好きだし、乗客の人も擦れてなく居心地がいい。
そして何より、この線に乗務する車掌さんの声が好きなのだ。
優しくて、駅員独特の金切り声でもなくて、でもよく通る声。
いつまでも聞いていたい様な……
睡眠不足のタエ子の頭の上でそのアナウンスが聞こえると、ついウトウトしてしまう。
でも、下車前には意地でも起きる。
終点まで行ってしまい、声の主に肩でも叩かれ様ものなら、恥ずかしくて乗れなくなる。
この密かな楽しみを、
誰にも知られたくないものだ。
ある日、打ち合わせの帰りに自由が丘から二子玉川行きに乗り換えると、下車する一つ前の駅で知ってる子が降りるのを見た。
(あ…カエちゃん)
同じマンションに住んでいる子で、感じのいい子。
タエ子はカエの母親とは話した事はあるが、カエは見かけるぐらいだけど遠目でも分かる。
楽器を持っているから。
そのカエちゃんが男の子と一緒に降りた。
(おー…イケメンですね。
でも…トラブル…?)
なんだか雰囲気が。
(…大丈夫か)
男の子がカエちゃんをベンチに座らせて隣に座った。……手を繋いでいる。
(青春やねっ)
発車のベルが鳴って電車は二人を置いて走り出す。
(いいなぁ 青春)
ひそっとため息をついて、手すりに寄りかかる。
「次は〜等々力〜 次は〜等々力〜」
(……いい声)
こんどは満足のため息をつき、
そっと目を閉じた。