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20 上野毛〝すずや〟 ーケンー

 

 ドンッ ドドンッ パラパラパラ


 店の中まで響いてくる音に、店内が騒めいた。口々に始まった始まったとそわそわした雰囲気。


「よろしければ皆さん、そのままにして外に見にいってみて下さい」


 大将の声に、いい? じゃ少しだけ。と皆会釈してからりと店の外へ出て行く。

 バイトの子にも目でOKと伝える。


 店内に残ったのは、大将と村瀬さんとカウンターに一人。


「見に行かなくていいのか?」

「いいよ」

 ケンは黄金色のロックをカランと鳴らして、飲む。

 その顔が一人で見てもつまらん、と言っていた。そっちこそ少し一緒に見たらどうだ? と逆にツトムに振る。


 いいよ、とツトムは口元に笑みを浮かべて言った。その余裕な表情が自分との違いを見せつけられて、ケンはまた不機嫌になる。


「なんだよ」

「別に」

「羨ましかったらお前も動け」

「……」

「来週、休みとれたか? 今日来ても意味ないんだぞ?」

「……」


 だんまりのケンに肩をすくめて瓜の梅酢漬けを出す。

 ケンは眉をひそめたまま一口食べるが、頬がぴくっと反応した。

 ツトムはそれを見て口の端を少しだけ上げる。


(似てるんだよな)


 日本酒と焼酎の違いはあるけれど、決まって二杯。好きな物を食べると、状況はどうであれちゃんと反応する所。

 杯の数を決めているのは、店を出た後も家まで一人で帰りつく為。


 カウンターの中で様々な客に対応してきて気付いた共通点。

 中々に、ない。


「続き、何にする?」

「同じのでいい」


 2杯目を変えるのが面倒でそんな頼み方をする。村瀬さんがいつの間にか横にいて、グラスを変えて古酒 くらを大きめの氷の中に入れてくれた。

 黄金色の液がとくとくとグラスに入っていく。

 少し微笑みながら入れてくれるこの村瀬さんが、なんであんな野郎の手の中に入っているのか意味が分からん、といつも思う。

 ただ、村瀬さんがこの店に来てからはフェロモン野郎の鳴りが治った様に思ったから本気なんだろうな、とは思ったが。


「惚れんなよ」

「人のモンには手は出さん」

「何言ってるんですか、二人共……」


 珍しく素の声で咎めて、花火を見に行った客の空いたお皿を片付けに行く。

 ちょっとだけ頰を染めた村瀬さんに、ケンはあんぐりと口を開けた。


「惚れんなよ」

「惚れるか」


 先程とはえらい違いのどす低い声で言われて、答える。彼女の片鱗を見て、勿体無ねぇ。と正直思った。




 いつもより早めに〆が出て、追い出される様に店を出された気がする。

 花火も終わって1時間経ったか経たないかぐらいだ。まだ人が多いのに。

 ちぇっと思いなが歩き出すと、駅向こうから浴衣の二人組が歩いてきた。

 カランコロンと下駄の音がする。

 どちら様も羨ましいこって、とは、頭の中で続かなかった。


(狐?!)


 はっと振り返ると、カランコロンと二人、寄り添って歩いて行く。街灯の光が届かない方へ行ってしまって、狐のお面を被っているのかいないのか、もう判断出来なかった。


 仲睦まじい姿に当てられたというよりか、この世のものでない者に当てられた様な気がした。


 だが不思議と怖くは無かった。

 こちらには気付かないくらい、お互いの世界に入っていた気がする。


 暫くして首をぴしゃんと叩いて気付する。

 首を振って駅に向かった。

 もう気には止めなかった。





狐たちも楽しんだみたいです。

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