14 Tel ーショウゴー
ガチャッと玄関を開けて入る。
リビングを通らずに二階に上がろうとすると、
「ただいまぐらい言いなさいよ」
と声が掛かった。
「ただいま」
「はい、おかえり。ご飯食べてないでしょ」
どかっと有無を言わさずカレー皿を置かれた。
(カレーより電話してぇ)
と思ったが、カレーの匂いにつられて盛大な腹の虫がなり、渋々席に着く。
「ねーちゃんは?」
「友達と出掛けて行ったわよ。まだ帰って来てない」
「ふぅん」
「珍しいわね、アヤネの事気にするなんて。何かあった?」
「何も」
「そう?」
カレーと共に出された牛乳パックをラッパ飲みして、ごっつぉさん、と机に置く。
「おかわりは?」
「いい」
言うや否や二階に駆け上がる息子に、母は再び珍しいわね、と一人ごちる。
数分もしない内に下がってきて、
「風呂」
「はい、どうぞ」
また10分もしたかしないかで二階に上がっていく。
ちゃんと洗ったのか、と母は思うのだかここで茶々を入れると後、一週間口を聞かなくなるので我慢する。
でも、とほくそ笑む。
駆け上がる息子の足音が軽い。
なんか良いことあったな?
アヤネに聞いてみよう。
本人なんざ口を割らないに決まってる。
こう言う時のおねーちゃん様々なのだ。
鼻歌を歌いながら洗い物を済ませた。
やべーやべーとショウゴは部屋に戻る。
姉が母に何か吹き込んでるか、と探りを入れたら藪蛇だった。
家に連れてくる事になったら言うけど、それまではうるさくヤイヤイ言われたくないのだ。只でさえ根掘り葉堀り。
ガシガシ頭を拭きながら悪態をついていると、ベットの上で携帯がチカチカしているのに気付いた。
バッととって履歴を確認する。
風呂前に二回も続けざまにコールして返信ないからもう寝たかと思っていたのだ。
着信はほんの1分前。
すぐに折り返した。
ーーこ、こんばんは
やばい。電話越しの彼女の声、近い。
ーーごめんなさい、お風呂入ってた
見たこともない彼女の裸体が脳裏に出そうになって、慌ててかき消す。湯けむりまで想像するな! 散れ!
「……何でもない。あー、今度いつ会う?」
妄想をする前に会うに限る。
デートだデート。
ーーえっと、もうすぐ夏休みに入るから暫くコンサートはないのだけど……
暫くコンサートはいい。
遊びに行こう。普通に遊びたい。……二人で。
ーーあ、はい……
はにかんだ彼女の声が可愛い。
ホンと、年上とは思えない。
時間とかまた連絡する、と切ろうとしたら止められた。
何だ?
ーーつきっ
月?
カーテンを開けるが今日は曇っていて見えない。
ーーつきあって……下さい……せんげん
途切れ途切れに言う声が可愛い。
照れ隠しにせんげん、って言う所も可愛い。
何だこれ……可愛い過ぎるだろ……
笑うしかない。
この叫び出しそうな思いを誤魔化す為には。
宣言ウケる、と誤魔化して軽く言ったら、
ーーウケないで……
泣きそうな声がした。
ごめん、そんなつもりじゃない。
でも言えねぇよ、あんたみたいに素直に言えねぇ。
時間の猶予が欲しくて、会った時にと誤魔化した。
拗ねた声のやりとりの後、またしても彼女は俺の心を貫く。
ーーさん、はいらない
呼び方、迷ってたんだ。
〝ちゃん〟は、柄じゃない。
呼び捨てにしたかったけど、一応年上だし。
誤魔化しながら呼んでた。
俺、誤魔化してばっかりだ。
だから、
初めて呼ぶ名前は、
自分でも思ってもみない声が出た。
カエ
彼女が息をのむのが分かった。
たぶん、伝わった。
黙ってしまった彼女に、ちゃんと言うからな、と念を押して電話を切った。
「〜〜〜〜っ」
ダダダダダッと階段を降りる。
「ショ、どこいくの?!」
「走ってくる」
携帯握りしめて飛び出した。
叫ばなかった俺、偉い。と自分で自分を褒めた。
こちらの方がまだ冷静に書けました。
ふぅ。




