13 Tel ーカエー
付き合う宣言……て、どうすればいいの?
とにかく、電話?
と思って携帯を手にとるのだが、何をどう言ったらいいのかも分からなくて、また机に戻す。
カーエー お風呂湧いたわよー
リビングから母の声がした。
「はーい!」
ひとまずお風呂入ってからにしよう。そうしよう。
カエはうんうんと自分に言い聞かせて着替えを取り出した。
「お先に〜」
そう言って部屋に戻ろうとすると、母が、
「なんだかお部屋でブーブー鳴っていたわよー」と声をかけて入れ替わりに脱衣室に入って行った。
カエは髪を拭うのも忘れて部屋へ走る。
パカっと携帯を開けると、不在着信2件の文字。
カチカチっと押すと、どちらも須永ショウゴと表示された。
慌ててリダイヤルする。
何コールかしたけれど、繋がらなかった。
一つ息をついて、机に戻そうとしたかしないかで、携帯が震えた。
「わ、わわっ」
お手玉の様にばたつきながら通話ボタンを押して、耳に当てた。
「……あー、こんばんは」
「こ、こんばんは」
「……」
「……」
どうしよう、沈黙になっちゃったっ
どうしよう、なにか……言わなきゃっ
「あー、電話出なかったから、もう寝たかと思った」
「ごめんなさい、お風呂入ってた」
「……」
「あの、ショウゴくん?」
「……何でもない。あー、今度いつ会う?」
どきっとした。今度? コンサート?
「えっと、もうすぐ夏休みに入るから暫くコンサートはないのだけど……」
「違くて、コンサートじゃなくてさ」
「うん」
「普通に、遊びに行こう、て話」
「あ、はい……」
デート、だ……
「じゃあ……来週の土曜日」
「分かった。また時間とか場所とか連絡する」
「あ、まって!」
切りそうな気配に、慌てて声をかける。
付き合う! 付き合う宣言!!
「どした?」
「あの、あの」
「うん?」
「つきっ」
「月?」
「つきあっ、て……下さい、せんげん」
「……」
ぶはっ と笑い声
「宣言って……ウケる!」
「ウケないで……」
泣きそうだ……
「もう付き合ってるつもりだった。まだ言ってなかったか」
「うん」
「じゃあ、正式なのはまた会った時にな」
「え?」
「電話じゃ俺、言えねーよ」
「そ、そうなの?」
「照れる」
がーん……私、言ったのに……
「あー、今度会った時、ちゃんと言うから」
「……はい」
「泣くなって」
「泣いてません」
「拗ねんなって」
「拗ねてません」
「カーエー……さん?」
「……さん、はいらない」
「……」
ちょっと息を飲む気配がして、
カエ
と呼ばれた。
名前で呼ばれたら、ゾワッとした。
その声が、さっきみたいな軽い感じではなくて、熱かったから。
黙ってしまったカエに、ちゃんと言うからな、と念を押して電話は切られた。
携帯を耳に当てたまま、ぽて、とベットに転がる。
どうしよう……
名前呼ばれるだけで……
「〜〜〜っ」
枕につっぷす。
叫びたいくらい嬉しい!
ぐりぐりとドリルのように顔を埋めて、心の中できゃーーと叫んだ。
……ちょっと書いてるこっちが恥ずかしくなってきた。




