お願いします!
その日は朝から暑かった…いや、熱かったと言うべきか
それも人の頭をおかしくすることが出来るくらいには熱かった
「お願いしますっ!」
ミーンミンミン…
ツクツクボーシツクツクボーシ…
蝉の鳴き声のなか、懇願する叫び声が上がった
「だから無理よ!そう言ってるでしょ!」
それに呆れたような声に答える声
答えた声は最初に聞こえた声よりも高かった
敢えて言うなら少年の声と少女の声だろうか
周りは別れ話でもしているのかと、まるで2人が見えないようなふりをしてそそくさと通りすぎていく
確かに痴話喧嘩に巻き込まれるのは面倒だが、この2人は痴話喧嘩をしているのではなかった
巻き込まれて面倒なのは同じ事だったが
「無理じゃない!美桜は絶対に今週中に異世界に行く」
「ばかね。異世界なんてあるわけないわ。いい加減、夢を見るのは止めてよね桜漓」
美桜と呼ばれた少女は長い髪の美しい少女だった
ややつり目だが、それが良いと言わせるほどには顔と雰囲気が合っていた。スレンダーな身体は出るところは出ているが引っ込むところ引っ込むと言う無駄な場所は無いのではないように見える
しかし桜漓と呼ばれた少年はもさもさと髪で目を隠し、眼鏡をかけて顔を隠していた。身体はヒョロヒョロで、走るとすぐに体力がなくなりそうなイメージがある
しかしこの2人は
「私の双子の兄なのにそんな事を言ってたら私まで疑われるわ」
双子なのであった
今から16年前に産まれたこの2人は、幼い頃は似ていたが成長するにつれて容姿も性格もまったく違うものになっていった
それがはっきりしていくと共に親からの扱いも違うものになった
容姿も勉強も運動能力も人より頭1つ分抜き出ていて周りからの信頼も厚く、現在通っている高校で2年生ながらも生徒会長を任されている少女と、容姿も勉強も運動能力も人並みで友達もあまりおらず、周りからあまり好かれていない少年
元々双子を育てることをあまり良く思っていなかった両親は、当たり前のように人よりも優れている美桜を可愛がり、桜漓の事は空気のように扱っていた
小さい頃からそういう生活だった美桜は桜漓の事を両親と同様に扱っている。そうすることが普通だと思っているようだ。例え話したとしても冷たく接する
桜漓は家がおかしい事を知っているが、特に不自由を感じなかった為なにもすることはなかった。それも拍車をかけることになったのかもしれない