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薬師はあくまでも副職  作者: 酒場のあの人
生まれ故郷
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村入りの時

メア達と別れたアズール。村に騒ぎ持ち込まない為にもバッカルに連れられこっそり村入りすることに。

 俺はバッカル=レイ。

オアシス村のピコ、長ラグドの弟。

歳は満月が月の初めと考えて十二で一年。生まれてから数えて二百十六回。つまりは、十八になる。長の兄貴は二十四。


――あれは日が暮れた食後の時だったか。


 いつものように一家で食事をし終わった後の団欒中、アリーナ村の民がとうとう暴挙に出たとラグド兄貴の元に村長から伝書鳩が飛んで来た。暮らし方の違いでオアシスの民とピコは同じ村だが棲家を分けている。

アリーナ村の事は噂には聞いてたが俺には知り合いもいねぇし、大変なこったと他人事の様に思っていた。が、俺からして祖母であり元長のミア婆がやけに落ち着かねぇ。


「ミア婆、知り合いでもいんのか?」


 これにラグド兄貴が先に答えた。


「アリーナにはアズールがいる。覚えてないか? 

シルビの髪の子だ。」


シルビ……いつだったか年老いた前領主が孫連れて神の絵だとか見せにきた幼い頃の記憶を思い出す。

あぁ……これが神なのか? 

というようなおっさんの下で花を摘む金と赤の髪の女がいたっけか?

絵の題名が『神とシルビ』だったはず。

領主に世話になってたピコの商家、ロンの家の娘と同じ髪色(かみ)だと当時は話になった気がする。


 覚えてねぇ……俺まだ(えだ)片手に遊んでた頃だろ?


「ラグド、気配を辿れるかい?」


ミア婆が兄貴に聞いた。兄貴の能力(ちから)は範囲探索だ。この辺の2つ隣村辺りまでは知ってる気配なら感知できる。


「アズールらしき赤い気はある。けど、違和感があって断定できん。行ってもいいか? ミア婆」


 珍しく口数多く話した後、腰を浮かせようとした兄貴を、静かにミア婆は制止する。


「長のお前が簡単に動いて良いことではないのかもしれん。バッカルよ。ちと、お使いに行って来ておくれ」


 つまみを買ってこいというくらいの軽さに聞こえたのは気のせいか?この場にはレイ家のミア婆と兄貴と俺、離れに暮らす姉のユンと夫のヨーガしか居ない。兄貴が行かないとなれば、次の役目は必然的に俺になる。仕方ない、行くしかないさ。


アズール様のみお連れする、言伝を得て俺は馬に乗って村を出た。



 村を出て隣村に向かう道中。一台の馬車が向かってきた。合図を送り止めさせる。身分を明かし従者に確かめるとオアシスのピコに向かうと言う。

馬車から降りてきたのはラグドの兄貴が言ってた通りのシルビの髪をもつ女、アズールだった。間違いないだろう。ミア婆が気にかけるのも分かる気がする。寒い夜の為か首に布を巻いているがどこか儚い(はかない)雰囲気を出す女であった。



____________________________




 メアと別れ、わたしはピコの使いだと言うバッカルという名の男と馬に乗っている。しばらく走り木々が茂ってきた。慣れない馬の速さに開けていられず目をつぶった。無言のままなのは、ありがたかったかもしれない。


「着く」


馬上に乗った記憶は無かったが、揺れに逆らわない事に専念し、暫く。頭上からの声に目を開けると、月の光で反射するキラキラした水辺を横切り、木と木の並木とは言えない通りを馬が通る。ここがピコの集落の門なのだろうか。


 少し前方の道の先に2人が立っていた。ぼんやり見える影の一つは背が低く丸みをおび、もう一方は背が高く、先ほど見たルークを肩に乗せていた。


「ミア婆、兄貴、戻った」


 バッカルが声をかけると小さな方が元長――ミア婆だろうか――が、声をかけてきた。


「バッカルお帰り、アズールも無事でよかったよ」

 

 優しそうな声で言われ、気を張っていた気持ちが少し和らいだ。


「お前アズールか?」


 じっと見つめてたもう一人の方、長のラグドが静かに聞いてきた。どこか刺を含むような、まるで全て分かってるかのように。


「……!」


 和んだ空気の4人の間を再びピリッと張りつめる。話をさせてもらえるのだろうか、軽々と口にしたらそのさり気なく触っている腰の武器で一瞬で切りかかってきそうだと瞬時感じた。


「バッカル。そいつを離すなよ」


視線を外さずにラグドがわたしにゆっくりと近付いて来る。


「どういう意味だい?」


ミアが不思議そうに目を細めた。"わたし"と"前のアズール"で見分けがつくのはこの男だけ――


「見た姿はアズールだ。先程探知した気はお前のもの。そして、火を使うピコの赤い気を纏っている。だが、お前には俺の記憶にない緑の気もある。俺の知ってるアズールは赤のみだ。そして、ルークが精霊の気配がないと伝えてきた」


 息をすることも辛くなる視線で見つめられ、鼓動が早くなる。無理やり来たわけじゃない――そうするしかなかった、それが言いたいがこの視線に口を開く事を身体が拒否した。


「記憶がないそうだ、兄貴」


メアに伝えられたことをバッカルが短絡に説明する。ラグドはまだ疑いの目でこちらを見つめてくる。


「あの……」


言わなければ、と分かっているが、どこから話していいのか喉に言葉が詰まる。


「取り敢えず家に入らないかい? 寒くてはまともな話も出来ないよ。

こんな何も持たぬ娘が何かしでかすこともないだろう?」


 ミアがこの場は取り繕い、わたしは何も言い返せないままラグド達の棲家であろう建物に連れてかれた。



 長の棲家(いえ)。建物の扉をくぐる。

長い黒髪を横に束ね、大きな目がくるりとした特徴があり、可愛らしい女の人。不快にならない程のヒゲを生やした男性が待って居た。

レイ家のユンとヨーガで合っているのか。


「アズール!! 大変だったわね? お帰りなさい」


 ユンがわたしの方へ駆けつけてくるのを制止し、ラグドは居間へ集まるように声をかける。


「悪いようにはしないさ。アズール? 何が起きたか話しておくれ」


再び深刻そうな雰囲気を作り出したラグドに、不思議な表情のそれぞれが持ち場に座るとミア婆が促してくる。


 気配が違うだとか、精霊が、とか。わたしには意味のわからないことをこの人達はいくつか知っている気がする。下手に記憶がない、だけでは通じないのだろう。メアに馬車で聞いたこと、あの不思議な空間(ここに来る前)のこと。もう、隠さない方が楽になれるか。

 ――全て話してしまうことにした。

元長のミア=レイ。通称、ミア婆。現長であり以前のアズールを知る同年のラグド=レイ。アズールを迎えに行ったバッカル。姉のユンと夫のヨーガ。レイ家の彼らが言う纏う気とは、精霊とは。次話に続きます。



誤字など随時修正しております。話の内容に変化は今の所ございません。修正の表示は気にせずそのままお読み下さい。




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