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薬師はあくまでも副職  作者: 酒場のあの人
わたし、という人間
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別れ道

能力がひとつ試せた。しかし、余韻に浸ることなく新たな幕開けとなります。

【ルーク】

┌精霊族 火鳥類

└ピコ族のラグドと契約


 瞬きをすると何もなかったかのように文字が消えてしまった。




 よほど普通にわたしが凝視していたのだろうか、向かいに座るメアは赤くなったり青くなったり表情が忙しない。精霊とわたしを交互に目がキョロキョロしている。

この精霊の事が分かった能力について、聞いてみようかと口を開いたときーーー


ガタン。キッ……


突然のタイミングに馬車が停止し、聞き取れないが外から男の声が聴こえてくる。


 扉の外から音がなり、それにいち早く座席から腰を浮かしたメアが反応した。


「ソルド?」


 扉を開けたのはどうやら今まで馬車の外で動かしていた、ソルドと名の従者らしい。深く帽子をかぶっていて顔が良くわからないが、声の質からして二十五〜三十くらいであろう青年の男だった。


「ピコからの使い殿がお見えになりました」


「分かりました。アズール様お降りになれますか?」


メアが馬車から先に降り面会を促してくる。もう降りて促す辺から降りないと言う選択は無いでしょうに。


「わかりました」


 馬車から降りると今まで座っていたからだろうか。足がしっかりせず少しふらついた。さり気なく手を差し伸べられた従者に支えられながら降りると、バサッ。と背後から羽ばたきの音がして馬車から精霊が飛び立つ。精霊――ルークが降り立った場所には一人の男と亜麻色の大きな馬らしき生き物が居た。馬には白い角が額に生えている。ユニコーンに近いその馬は、肩にルークが乗ってもよろめかない辺り主人に鍛えられているのだろう事が伺えた。


グルッ。


 まるで早く来いと言わんばかりにルークから合図のような声が漏れた。

メアに連れ添って待ち人の前まで歩き出す。



「アズール=アルーナ様。と、その関係の者で合っているか?」


 少し低く威圧を感じさせるような声で問われた。


「いかにも、こちらはアズール様でございます。わたくしはメア=アチュール、そして従者のソルドです」


 メアが逸早く答える。なぜ、アルーナの氏を言わなかったのか、それはメアに何か考えがあるのかもしれない。


「我の名はバッカル。オアシスのピコ、元長のミアと長のラグドの名の下アズール様を迎えに参った。長からの言伝はひとつ。アズール様のみ(..)お迎えする様にとの事である。ご苦労であった」


 バッカルと言っただろうか。言い方からしてここから行くのはわたしのみ、そう聞こえた気がしたが、メア達は数泊の滞在さえも許されないのだろうか?

 どことなく急かされた雰囲気にのまれながらも、言葉を何とか発した。


「……メア達とはここでお別れなのですか?」


バッカルは眉を潜めながら答える。


「この度の事は災難であったが、町ひとつ関わる大きな騒動だと聞いている。その関係者がこんな大きな馬車で村に入ったら少なくとも騒ぎが起こる。

ルークを見る限り大丈夫そうだが、ここからはなるべく人目につかないほうがいいだろう。

ソルドと言ったか?アズール様の荷物をこちらへ。

馬車はこのまま乗って行ってくれると助かる。向こうで売れば生活の足しにはなるであろう?」


 メアもこの流れは想像してなかったのだろう。横顔を見れば、困った顔をしている。


「……アズール様、ここまでとなってしまうようです……。

確かに使者のお方の言う事も一理あります。ここで騒ぎを起こしてしまってはピコの一族でも手に負えなくなるかもしれません。

どうか最後までお側に居れないことを、お許しいただけますか?」


 視線に気付いたメアが申し訳無さそうに聞くが、アルーナ町からここまで気を張り詰めていただろう。騒動の中で身体に傷を作ることなく無事町を離れられたのもメア達の判断によるものだ。今のわたしには、感謝さえすれど、何かを指示する立場では無い。


「メア? 大丈夫よ。ここまでありがとう。残りの旅路、無事に首都に着くことを祈っています」


 そう言葉を伝えるとメアの瞳からポツリと涙が落ちる。まだやはり少女でもあるのだろう。そして、以前のわたしはこのメイドに嫌われてはいなかった、それは分かった。特別好かれていたのかはまた別として。


「使いのお方。アズール様はこの騒動で以前の記憶がございません。抱えてたご心労は重く、何もかもお忘れになってしまったのです。心安らげます様、取計いお願い致します」


バッカルはその言葉を聞き、少し狼狽えながらも無言で頷いた。



「アズール様。アズール様。メアはお側にいれた日を忘れません。あの邸の中での日々。お館様でもルコ様の側でもありません。アズール様のお世話が出来たこと、別館でのお仕事に幸せに感じておりました。どうかこれからはご自分を大事になさって下さい……」


ひとつ頷くとソルドが荷物を運び終えたのだろう。バッカルが連れていた馬に荷が括りつけてある。本当に慌てて出て来たのだろう――手提げほどの小さな包みしかなかった。


 脚にバッカルは紐を結ぶと、ルークが先に村があるという方角に飛び立った。


「アズール殿こちらへ」


 記憶が無く、馬車で過ごしただけのメアとの関係なのだが別れを惜しみたくなる。

後ろ髪引かれる想いで、バッカルに手を引かれながら馬に乗った。



「アズール様。お元気で」


 メアと従者が頭を下げる。

 そして、バッカルとアズールの乗った馬が走り出す。


 加速と共に、冷たい風が頬を撫でた。

 これまでの身体の持ち主の生活からのひとつ、別れ道となり、そして"わたし"の生きる道の始まりとなった。

道中は短くするつもりです。次話は村まではとサクッと。のつもり…

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