パナの町④思考あれこれ
小さな緑頭の可愛い商家の子と軽い雑談をしたわたし。
その会話の中で得た物は二つ。
ひとつは、わたしの作る"金平糖"が流出していない事。
けれども、少なくともアラビ……この国の首都には"焼き菓子"というものはある事。焼き菓子と言っても、クッキーだったりケーキだったり、思い浮かぶ物は沢山ある。この世界に小麦はあるし、ココやコカトリスの鳥、食用になる卵もあるわ。お菓子作りに必要な砂糖の代わりにシュマもあるし、ミルク等も加工次第で材料になる。もし、同じ神様から送られた"転生者"が職としてやっているならば、この世界で珍しいものとして人々の心を掴むでしょう。
でも、わたしには関係ないわ、今の所。
わたしの作るものは、壺を使って作る、薬剤を含めた"嗜好品"だもの。専門的にお菓子を売るわけじゃないわ。いつか状態異常に治療効果のある七草でも何かを作りたい。"便利な嗜好品の一種"に使えるものとして。今のところは色んな金平糖と、
岩実とかの野菜を使ったーーまだ試してないけれど、あれくらいしか予定していないわね。
そして、二つ目は、この馬車の造り。
父様達が暮らしていたこの家は、生活としては不満なんて無いわ。けれども、出発の時にラグドが荷を置いてカモフラージュした様に、"普通の馬車"としては、幾分か怪しまれる可能性もある。
長い事、宿屋に泊まらずにいても疑問にならない造りを、入り口に近い此処のリビングに施した方が気が楽かもしれない。父様達は領主様と懇意にしていたと聞いていた。ここを使わないで取引をしていたのかも。
それに、わたしとしては壺での加工を、多くの人に見られたくはない。
在庫を確保しておくか、必要な量を補充しながら売りたいわ。品質を保存出来る小瓶が一日100しか無いんだもの。
いざという時、紅茶はあるのに金平糖が入れれないから売れない……それは困るわ。小瓶も中身が空になると勝手に消える、その辺には売っていない珍しい物。必要な人にだけ必要な量を売りたい。
村で仲人してもらって売るのもいいけれど、特定の商人さんを懇意にすると、辿れば足がつく。旅の道中で歩き売りしていけば、いつ厄介事に巻き込まれるか、という心配事も防げる。
珍しい姿をしているなら、フードで隠せば良いものね。
と、なると……
このリビングの大きなテーブルはもう少し小さくして、
寝具か布地を使った長椅子と簡単な棚、それからーー
「おい、アズ」
「……!?」
びっくりした。いつの間にかラグドが目の前で顔を覗いてた。
考えながらいつの間にか俯いてたわ。
「あら、起きたのね」
「あら、じゃないだろ。どうした?」
眉が下がっている。
そんなに心配させるほど難しい顔してたかしら、わたし。
「いえ、模様替えしたいなって、此処の」
「あ? 此処を?」
深刻な事じゃないのかよ、と少し呆れた様に言われた。
大事な事なのよ、とリビングについて説明していく。
「確かに一理あるな。人が入って来ても誤魔化せる様にするか」
「ここ、一枚、扉の前に壁か布を置いてみるのはどう?」
直接、奥へ続く扉が見えないようにしたり、リビング自体の幅を区切って誤魔化すのも……ありかも知れないと思うのよね。
狭い空間だから限度はあるけれど。
四角い部屋、奥へ続く扉の前に一歩半位の幅を取り、カーテンみたいな目隠し布を天井から下まで垂らして、その間には寝具か何かを置く。
布から手前は小さなテーブルと棚。軽い1ルーム的な部屋になる。
「そうなると、首都か。レスリーが言ってたな」
「エントの木材?」
「あぁ、首都は職人も多いし、今なら安いだろう」
丁度いいわ。誰だか分からないけれど、首都への道で暴れた人に少しだけ感謝ね。少しだけよ。他の商人さん達は困っているもの。
首都で教会へ行く事と、馬車のこの部屋だけ改造。決まりね。
「この馬車、預ける事になるのかしら」
「そうだな。水晶だとか軽い荷を持ち出して、向こうでは宿に泊まるか。内装だけならそんなにかからないだろう」
「ねぇ、結界石って傷つけたり、燃えたり出来ない筈よね?」
釘……があるのか分からないけれど、馬車にある寝具だとかは全て何かで動かない様に固定されているのよね。今の仕様から変えられるかしら。
「あれは外からの攻撃を守るだけだ。
普通に手を加えられるし、中で火を付ければ燃える」
燃やすなよ、と念を押された。失礼ねぇ。
「あら、ラグ程じゃないわ。木、ダメでしょう?」
「おい、見てたのか」
「見てても見てなくても分かるじゃない。
残ってたもの……燃えかす」
そう、村のわたしの家の前の可哀想な木のことね。
「あれはジーナがな、」
言い訳をするラグドの言葉に頷きながら適当に流す。フフフ、知ってるもの。少しヒートアップしているラグドの口に、濃い紫の金平糖をひと粒投げ込む。かなり話を脱線させちゃったわ。口が閉じて目を見開いたのを見計らい、水のコップを渡すと勢い良く飲み干した。
「どう? 毒消し金平糖」
「いくつも食えるものじゃないな」
やっぱり濃すぎるみたい。眉がハの字。
「それは本当に使うとき限定よ。普段はこっちね?」
薄い紫の金平糖をひと粒渡す。
口にポイッと入れたラグドの顔を観察。
うん、眉も下がらず頬が持ち上がった。大丈夫そう。
「うまい」
ほらね。気に入らない時は眉が下がるし、
美味しいと頬が緩むもの。よく分かりやすいわたしの試食係さん。
あ、そうだ。
「さっきね、お隣さんかな?女の子にもあげたのよ」
「お前が自分から他人には珍しいな」
「可愛かったのよ。喜んでくれたわ」
「そうか」
「金平糖、見たことないって。首都に焼き菓子という物はあるみたいなの」
「そうか」
あらぁ。焼き菓子って部分に興味が無さそう……
女の子の話をしてる時までは良かったのに、
無表情に戻っちゃったわ……
「ラグ、ミア婆達にもお土産も買って行きたいわ?
最近出来たらしいし、レイ家みんな食べた事無いと思うのよね」
「あぁ……行ったら寄るか?」
「ほんと? 行きたいわ!」
フフフ。誘導成功です。
珍しい物、食べたことが無いもの、となれば話は違う。
分かってきたのよねーこの頃。
「なぁ、ルーク達まだ来ないか?」
外を見ながらラグドが言う。
つられて視線を動かすと、夕焼け色の光が差し込み、
もう直ぐ日が暮れることを知らせていた。
壺や瓶達を片付けてローブを手にする。
「声かけて、大通り行きましょうか」
「あぁ」
日が暮れてきたし、宿にみんな戻るかしら。
人が落ち着いてきたかしらね?




