表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薬師はあくまでも副職  作者: 酒場のあの人
一人の時間 後編
21/60

わたしの知らない場所で

たっぷりのレナンで作りましょう。今夜だけで出来るかしら……。あぁ、眠いわ……

 サラっとした掛布が心地良い。


外の騒がしい音に意識が戻るが


目をつぶったまま寝返りを打つ。




もうすこしだけ……

まだもう少し寝てしまいたい。

そんな気持ちに負けようとした。

戸が激しい音を立てて開くーーー



「おい、アズール。起きろよ」


………は?


居ないはずの声に目が覚める。

ここは寝室。わたしの家よね。


それに……あら、どうして寝室にいるのかしら

おはようと言ったフォルを最後に

そのままリビングで寝たような気がする。

前にも似たようなことがあったかしら……


 まぶたを開けてチラリと見れば

頭の中と同じ、目の前の箱を持つ男。


ーーーラグドの姿に聞かずも納得した。


 あぁ……運んでもらったのね。


とりあえず、今の姿はまずいわ。

夜着のままだし、顔も洗っていないのよ。

いくらレイ家で慣れてきたとはいえ、この姿は恥ずかしい。


「外に出ててちょうだい」

ラクドを寝室から追いやり身支度をする。


 顔を拭い、髪を纏め上げながら気がついた。


……っ! 金平糖!


朝まで寝ずに作っていたもの、

それはまだ壺の中にあるはず。

鏡を見て確認を急ぎ、リビングの壺へと向かう。


 戸を開け、こちらを見たラグドをよそに壺へ直行。


机の上が寝る前と同じく散らかってるのは

気にしないことにするわ。


 静かに放置されたままの壺。

注水口に大瓶を当てて落としてみる。


多少大きさが揃っていないが

レナンの色ーーー薄い黄色の粒がこぼれ落ちる。

丸く、とまでいかない不揃いな形。


とても可愛い!


 ひと粒つまんでみるとレナンの風味と共に

口の中に甘みが広がるーーー

 ……はぁー。これよ、これ……

甘いものがこの村には無いんだもの。

甘くした紅茶もいいが、ほろ苦い紅茶とつまみたいー



そんなわたしが思い出したのは

 知識の中にある金平糖だったの。




「おい、パン持ってきたんだが」


椅子に座っていたラグドの声にハッとする。

机の上が散らかったまま……


「ごめんなさいね、でもどうして?」

「昨日のことはおおよそ話を聞いた。

朝、お前の様子を見に来たらフォルに連れ込まれた。

寝てるお前を運んで一度戻ったが……

2度目の食後に村に行ったら、

パン屋についでだとお前の分も頼まれた」


往復するはめになった、とラグドが言う。


「ありがとう……悪かったわね」

断らない辺りはラグドらしい。


 2度目、と言われて

もうお昼が過ぎていたのには驚いた。


……だいぶ寝てしまったわね。


お腹が空いているのも無理ないわ。

 机の上を片して、紅草を摘んで緑の草を植える。

早いものね。昨日植えたばかりなのにもう一日よ。

視線を上げればラグドがじっとこちらを見ている。

そうよね、やる事ないわよね。


何か出した方がいいかしら……


「紅茶、飲む?」

「あぁ」


さて、私の手の中のこの5束の紅草。

ついでに小瓶にも作り置きしちゃいましょう。


 4束ほどを乾燥し、

甘味粉を1杯に対して小さじ2の量で。

ほろ苦くも慣れれば飲める不快ではない苦み。


ラグドとわたしで2杯、小瓶に38本出来上がる。

コップに入れて渡す。

湯気がまだ出来立てだと見て取れる。

冷ましてすぐ飲むラグドは熱さに強いみたい。

飲んでチラリとこちらを見ることに、

あぁ、甘さが足りないのね、と思いだす。


「レナンの金平糖、よ」

小皿に小さな山を盛って渡す。

黄色い優しい色が目を楽しませる。


見たことがない、と言うラグドを横目に遅めの昼食作り。


そうでしょ……あちらの世界では

職人さんが心を込めて作るものね。




 多めのミルクを沸騰させて少し小瓶に移す。

壺に残したミルクにはレナン汁。

固体化させると水と分離した。

この壺、曖昧なのよね。魔力で動かすからかしら?

イメージ通りに働いてくれるの。

 分離したものだけを網でこすとチーズもどき。

余る分は小瓶に入れる。4本になった。


椅子に座ってラナおばさんの焼いたパンを手でちぎる。

作った白いチーズをつけて食べれば

柔らかさを味わうまでもなく口に溶けてしまい

少し酸味が残る。パンとからんで優しい味がした。


……見られてるわ。とても食べにくい。


「あなたも食べる?」

「あぁ、一つでいい」


オアシス村に流れてくるチーズは砂漠の暑さで

水分の少ない固めのものだった。

柔らかいものは珍しいのかもしれない。

珍しい物を見た、とばかりにラグドはチーズを口にする。


「これ、ミア婆に持って行って?」

すぐに無くなるかもだけど。

机の上にチーズ瓶を3本を置く。

小瓶に入れたレナンの金平糖もどき2本も。


座ったまま腰に付いていた袋を広げてだしラグドは小瓶を包む。


「毎日、お前の食べれたらいいのにな」

「来たらいつでも作るわよ」


いつもの無愛想な顔ではなく、

幾分か頬が緩んでいるの。

美味しそうに食べるラグドになら

作ってあげてもいいかも。と思えるのよね


そんな穏やかな時間だったーーーー


〔アズール……起きてるかなぁ〕


フォルから声がかかる


〔なぁに?〕

〔えっ、起きてるの!?〕


〔えぇ、おはよう、フォル…… 

ラグドに起こされたもの。どうしたの?〕


〔ラグドに外出てって言ってよー。

もー、交代! アズール出てこないでねー〕


……なにかしら?


「ラグド、フォルが外にって」


ちっ。 と舌打ちしてラグドの顔が怖くなる。


 旨かった、と感想を残し

包みを抱えて外に出るラグド。


ゆっくりするこんな日も良いわよねぇ




少し経ち、食器を片し終わった時ーーー


ドカン。だか、ドン。だか、爆発音が外からした。


〔フォル! なんの音?〕

〔ちょ、アズール、出てこないでねー〕

〔ちょっと、フォル……〕


リビングからなら覗けるかしら。


 窓から覗くとそこには

燃えている木に水をかけるフォル、

こちらに背を向けているラグドと

向かい合わせにバッカル、フリード、ジーナ。

フリードが頭を抱え、ジーナが何か叫んでいる。


……ラグドの片手が燃えた木に向いたまま。

水辺が近くにある為、木は所々生えている。

決して茂っている訳ではなく、乾燥した土地の中で数少ない元気に葉をつけているもの。その一つがわたしの家の前にあるものだった。


燃えた木は幹の中心に穴が開いている。

薄黒くなりそこから炎が上に上がり灰色の煙を立ち上げている



……本当に、何してるのよ。


その時、バッカルが何かラグドに言って殴られた。


〔ちょっと、フォル?〕

〔今行くからー! 水晶持って待ってて!〕


……水晶ってこれよね?


言われた通りに白い水晶を持つ。

少し開いたままの入り口からフォルが入ってきた。


〔フォル? なんの騒ぎなの?〕

〔話すからーー。と、とにかくそのまま入ろう?〕


窓の外にはまだ4人が何かを話している。

そこへ行かなくていいのかしら、

そんな気持ちにあと引かれながらもフォルが進んだ扉へと向かう。



カタン。と音がして

リビングへと続く戸が消えた。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



〔はぁー。疲れたーー〕


扉が音を立てたのと同時に前に振り返ると

銀色の毛をしたフォルが椅子の上でくたりとしている。


……殴られたバッカルも心配だし、

外の様子がとても気になるわ。


金平糖よ、と疲れ気味のフォルにあげる。


〔あー。本当に疲れたよー〕


ボリボリ食べるフォル……味わってほしいわ……


〔ねぇ、何なの?外は〕


それがねー、とフォルが話し出すーーー



**


フォルに聞く話を頭の中で纏めると……


 ジーナが止めるフリードを振りきって

「アズールと話がしたい」と言い出した。

でも、ジーナはわたしの家の場所を詳しく知らない。

そこで偶然村にいたラグドに聞くが

「帰れ」とばっさり断られたらしい。

それでも諦められないジーナは

レン家の近くまで来た、と。


 そこでバッカルに会う。

フリードの阻止も虚しく、バッカルは案内した。


家の前まで来たがフォルに見つかり威嚇され

押し問答をしていたらしい。


……だから起きた時、騒がしい気がしたのね。

ラグド、かなり普通にしてたんだけど……



そしてフォルはわたしが起きたと知り、

ラグドに交代を頼んだ。


ラグドが家から出た時に

ジーナの沸点はピークになった。


「あんな裏切り者を何で庇うの!!」

そう、ジーナは叫び、ラグドの怒りに触れた、と。



……アルーナを見捨てた、そう見られてるのかしら……



ジーナに手を上げる事もできず、

ラグド怒りのやり場が近くの木に魔法を放つ。


「なぜ、こいつを連れてきた」と聞くラグドに

フリードは答えられず、バッカルは「俺が」と

答えたらしい。それで、殴られた。と……



……わたしが原因じゃないの? これ……


穏やかな時間の間に

フォルは大変だったみたい。


〔ごめんなさいね、フォル?〕

〔ううん、アズールは気にしなくていいよ!〕


悪いのはジーナだから、とフォルが呟く。


ここに居たら迷惑かけるのかしら……


買った食材を整理していても

干し肉を調理して夕食をフォルと摂っていても

湯船に浸かり体を温めても……

どこかでジーナの言葉が思い出される。


複雑な気持ちを抱えたまま夜を迎えたーー











ちくしょう。

俺だって心配だからジーナのやつを案内したのに……


なんで殴るんだ!兄貴!



---バッカルの心の声---


**


ぁ、そうだ。金平糖……

〔フォル? 壺に入れましょ〕


〔神様食べるかなぁ?〕


壺が小さいので、仕方なく欠片を落とす。


フルフル。ニョキ。


……蔓が出てきた。引っ張ってみると赤い種。


【岩実】

┌育てると手のひらサイズの実が出来る。

┝色が濃く甘い。とても種が多い

└用途 料理     

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ