表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

4話 イセキ


 衝撃の事実だった。

 全く予想していなかったが、思い返せば気付く機会はいくらでもあった。

 というよりもなぜ気付かなかったのか。別に誰かが隠していた訳でないのに。


 そう。


 フェイとアルトの性別が逆だったのだ!


 頬を真っ赤に腫らし、ガタガタ震えながらも歩けるようになった二人を引きずるようにして森から脱出した後、二人共もらして濡れていた上に臭っていたので、俺の家で乾かしてやる事にした。この状態のまま村に送り届ければどう勘違いされるか分かったものではない。

 ちゃっかり家に逃げ帰っていたラティに餌をくれてやり、乾かす前に一度洗おうと服を脱がせたところで、フェイが男らしすぎる女で、アルトが女らしすぎる男だった事に気付いた。


 フェイは上に兄が三人いる。フェイの母は彼……彼女を産んだ時に亡くなり、男所帯で育った。フェイの一家は揃いも揃って豪快大雑把。細かい事は気にしない。娘に女らしい言葉遣いや服装をさせるという発想は無かったのだろう。

 アルトは上に姉が三人いる。アルトの父は彼女……彼が物心つくまえに病で亡くなり、女所帯で育った。アルトの一家は揃いも揃って美容と着飾る事に熱心だ。息子に可愛らしい格好をさせていたとしても違和感はない。

 なぜ逆の家で生まれなかったのか。どうせ二人はそのうち結婚するだろうから問題ないような気もするが。流石にアルトとフェイが好き合っている事ぐらいは分かる。


「そもそも名前がな。フェイもアルトも男でも女でもおかしくない名前だからなあ」


 服を乾かしている間、暖かいスープを渡す。ショックから立ち直っていたフェイはスープの肉だけを犬のように貪った。


「言ってなかったっけか。俺フェイリール」

「あー、それなら女だ」


 アルトを見ると、びくっと震えてか細い声で言った。


「アルトザーク」

「無駄に勇ましいな。もう名前交換しろよ」


 一度でもフルネームを聞いていれば勘違いする事もなかったんだが。

 まあ俺も自分のフルネームなんて成人した時の訓辞で聞いたのが最後だ。普段はニックネームだけでも困らないから、自分でも時々忘れそうになる。

 しかしそうか。性別逆だったのか。本当になぜ気付かなかった。


 服が乾くと、二人は俺の手をがっしり握り、何度も何度も頭を下げて礼を言って帰っていった。命を救ったぐらいでおおげさだ。

 さて、なんだかんだでもう夜。この暗さで隕石を探すのは至難の業。まだ森の動物たちも落ち着いていないだろうし、隕石探しは明日日が昇ったらでいいだろう。














 翌日、空が白み始めると当時に目が覚めた俺は、まず隕石探しの腹ごしらえをした。

 干し肉を食いちぎりながら、右手の指輪をまじまじと見る。これの効果はまさに魔法としか言い様がない。

 魔法。魔法か。一晩経つとあれは夢だったんじゃないかと思える。ファンタジーアニメや漫画は好きだし、魔法があったら使ってみたい、とは常々思っていたが、思うのと実現するのはまた別の問題だ。


 試しにナイフで腕を軽く傷つけてみたが、指輪が鈍く光ったと思ったら治っていた。夢ではなかった。うーむ、何度見ても驚きだ。

 これは即死級のダメージでも瞬間再生する。一度死んで転生した経験があるからか、死を間近に感じたショックはまるでないが。あ! これ前世の死に際で感じた事ある! ってなもんだ。


 こんな強力な再生効果にリスクは無いのだろうか。指輪に彫られているミイラっぽい彫刻のせいか、ヒールというよりゾンビという感じがする。

 別にゾンビになろうが悪魔になろうが一向に構わんが、どんなリスクがあるのかは純粋に気になる。魂が穢れるとか? いや魂が穢れるってなんだ。転生した以上、魂の存在は疑ってないが。

 この指輪以外に魔法を知らないから、判断基準がない。魔力的なものを消費して再生しているだけで、魔力が尽きると再生できなくなるのかも知れない。あるいは……あるいは……駄目だ、詳しい人に聞かないと分からなさそうだ。


 そういえば今、村に都合よく自称魔族が……

 …………。

 そうだ。あの自称魔族も本物だったのかも知れない。口からデマカセで煙に巻いて魔法を使えるフリをしているだけのクズ共だと思っていたが、魔法が実在しているなら話は変わる。魔道具が無いとナンチャラと言っていたが、あれは本当だったのではないだろうか。何しろ証拠が俺の指に嵌っているのだ。他にこういう物が無いと、どうして言えるだろう?

 あの連中もこんな物を持っているとしたら、確かに迂闊には見せられない。


 そうとなれば善は急げだ。隕石も気になるが、魔族も気になる。俺はとりあえず近場の魔族から調べようと考え、村へ向かった。


 早朝の村は静かだった。村人も家畜もまだ寝ている。旅人や行商人は大体いつも村長の家に泊まるので、そちらへ直行する。

 途中、桶を持って村の外から戻ってくるアルトに会った。艶やかな黒髪をバレッタで留め、水一杯の桶をふらふらと持ってくるアルトは相変わらず小動物的な可愛さがある。この可愛さに一体何人が騙され……いや多分俺だけだろうな。


「おはようアルトザーク『君』。朝早くから仕事熱心だねアルトザーク『君』」

「おはよう。なんで強調するの」

「そんなのアルトの性別が女だと思ってた自分と女々しすぎて普通に可愛いアルトに理不尽な怒りが有頂天だからに決まってるだろ」

「ご、ごめんなさい」

「やめろ謝るな、なんか惨めになる」


 脅すように言うとアルトはシュンとした後、何やらモジモジし始めた。ちょっと待って、と言ってわたわた家に入っていき、水桶の代わりに布を持って出てくる。


「あ、あの、昨日のお礼しようと思って。服、仕立てた。カースの服、だめになっちゃったから。貰って」

「仕立てた? 昨日の今日だぞ」

「徹夜した」

「……そいつはどうも」


 だからふらふらしてたのか。本当に世話好きだ。礼を言うと、アルトはえへへ、とはにかんだ。なんだその少女みたいな反応。お前もうほんとにはあ。マジはあ。

 今はいい。似合ってる。でも三十年後はどうだ。いい年したおっさんがこんなんだったらドン引きだ。いつかどこかで矯正しないといけない。

 アルトとフェイを衝突させたら性別入れ替わったりしないだろうか。それで全部解決する気がする。


 もやもやしながら渡された服と靴を身につけてみたが、着れない事はないもののワンサイズ小さかった。目測採寸スキルを持つアルトにしては珍しいミスだ。


「小さい、ね?」

「小さいな。仕立て直せるか」

「うん、ごめん。すぐやる」


 アルトは不思議そうに首をかしげながら脱いだ服を受け取り、また家に引っ込んだ。

 アルトがサイズを直している内に村長の家を訪ねると、早朝から大声で起こされて不機嫌な村長に、魔族はもう帰ったと言われた。


「帰った? 遺跡の調査は」

「さて。夕方頃に戻ってきて、挨拶も無しに慌てて帰っていきおったからな。詳しくは知らん。こんな事を聞いてどうするつもりだ? その服はどうした。また何かやらかすつもりか」

「常にやらかしてるからそんな事聞かれても困る。何か変わった様子は?」

「怪我をしていたように見えたが」

「本当に?」

「嘘をつく理由があるか」

「村長俺の事嫌いだろ。俺が知りたがってるって理由で嘘言うかもしれん。真実であると髪に誓えますか?」


 村長の残り少ない毛髪を見ながら厳かに尋ねると、青筋が浮かんだ。よし、地雷踏んだ。いいぜ、怒っても。俺もお前なんて嫌いだ。

 村長は俺がまだ村に住んでいた時、事あるごとにねちっこく思いやりと協調性を説いてきたクソ野郎だ。両方俺が嫌いな言葉だ。思いやれば裏切られ、協調すれば貧乏クジを引かされる。損するだけだ。


 もちろん、俺も人間が社会を作って生きるためにはそういった事が必要だと分かっている。俺が思いやりがことごとく裏目に出る人生を送ったから、世界中の人間も全てそうだ、なんて幼稚な事は考えていない。思いやりは人間社会に必要で、大切なものだから広まっている概念なのだ。だからそれを投げ飛ばして生きている俺が煙たがられ、嫌われるのは当然。正直まだ人間扱いされているのが驚きですらある。世界は俺の想像よりもずっとクズに甘かった。悲しい事に。


 俺は村長をギリギリまで煽りつつ情報を引き出し、怒りが爆発する前に退散した。 

 実際のところ、村長の話に嘘は無いだろう。現に広場に停まっていた魔族の馬車は無くなっている。


 村長の話だけでは全容が掴めなかったので、起きだした村人を何人か捕まえ、話を聞いて統合したところ、何が起きたのかが大体分かった。


 魔族は昨日の昼頃に遺跡へ出発した。馬車の見張りに二、三人だけ残し、残りは全員怪しげな道具を担いで森に入っていったという。

 夕方頃、森から一斉に鳥が飛び立ち、にわかに騒がしくなった。村人が何事かと怯え、どうするべきか迷っていると、魔族が血まみれのボロボロで森から慌てて戻ってきた。その人数は出発した時の半分もいなかったらしい。

 何が起きたのかと尋ねる村人に説明もせず、魔族達はほとんど錯乱した様子で荷物を馬車に積み込み、村長に挨拶もせず慌ただしく去っていった。


 ここからは推測するしかないのだが、もしかしたら、遺跡に隕石が落ちて、調査していた魔族に被害が出たのではないだろうか。村に魔族が戻ったタイミングとしてはおかしくないし、怪我の理由も説明がつく。あれだけの衝撃波を出す大きさの隕石なんて早々落ちてくるものではない。そりゃあ泡食って逃げるだろう。


 何が起きたかは遺跡に行けばはっきりする。

 魔族が森に入った方角と帰ってきた方角、森で騒ぎがあってから魔族が村に戻るまでの時間から、遺跡の位置は大雑把に予想できた。

 昨日の夜に出て行った魔族には流石に追いかけても追いつけないだろう。それよりも遺跡の方が気になる。魔族がわざわざ調査に来る遺跡だ、何か財宝が残っているかも知れない。魔道具的なものとか。


 村を出る前にアルトの家に寄ると、超スピードで仕立て直した服を渡してくれた。なぜかフェイもいる。

 新しい服に着替え終わると、フェイは握っていたものをつき出してきた。


「俺はアルトみたいに服とか作れないけどさ。俺の宝物、やるわ。もってけ! 助けてくれてありがとな!」


 照れくさそうにそっぽを向きながら、フェイは俺に赤っぽい石コロを押し付けた。

 それはどう見てもただの色付きの石だった。河原で一日粘れば三、四個は見つかりそうな。

 しかし。きっとフェイにとっては、とても大切なものなのだろう。ただの石だからこそ逆にそう思う。


 助けたら、恩返しをされた。アルトは性格的にまだ分かるが、フェイまで。

 前世では、俺が命懸けで車に轢かれそうになった人を助けた時ですら「いきなり突き飛ばしやがって! 膝怪我したじゃねーか!」となじられた。

 手のひらの中の石コロを見てようやく実感する。そうか。人の命を助けるのは、礼をされる行為だったのか。

 嬉しいが、虚しい。前世に一人でもアルトかフェイみたいな奴がいたら……


 ああ、畜生。

 俺らしくない。


「な、泣くほど嫌だったか?」


 フェイがオロオロして、アルトが微笑ましそうにしている。いつもと逆だ。


「泣くほど嬉しかったんだよ。察しろ」


 俺は目元を拭い、笑ってフェイの背中を叩き、アルトの頭をぐしゃぐしゃに撫でて、村を出た。















 さて、切り替えて行こう。

 二人のお礼は確かに嬉しかったが、だからといって生き方を変えるつもりはない。自分の心のままに好き勝手やってこうなったなら、きっとそれでいい。

 好き勝手に生き、いずれ呆気なく死ぬのだ。

 ちょっと昨日あたりから死ぬか怪しくなってきているが。


 遺跡を探し、普段入らない森の奥まで進んでいく。昨日の混乱のせいだろう、そこら中に色々な動物の足跡が入り乱れていたが、見慣れない特徴の靴の跡も混ざっているのを発見してからは、それを追うだけの楽な仕事だった。

 二時間ぐらい歩いただろうか。意外とあっさり目的地についた。ゆっくり足跡を追って二時間なら、走れば三十分もかからない。思ったよりもずっと村の近くに遺跡はあった。


 あった。

 過去形の「あった」だ。


「こりゃ酷いな」


 遺跡は瓦礫の山になっていた。これが遺跡の成れの果てのはず。


 肩の上で空気になっていたラティが何やら興奮した様子で瓦礫の山の間にちょろちょろと駆けていった。たぶんそこに餌は隠れてないぞ。

 俺も足元が崩れないように注意しながら慎重に後に続く。


 森の開けた空間に、瓦礫の山ができている。広さは野球場ぐらいだろうか。瓦礫は全て石材で、このあたりでは見ない白い色合いの、ああこれ大理石だ。

 ……だ、大理石!? この瓦礫の山、全部大理石か! 売ればひと財産だ!

 あ、いや、この世界の大理石が前世と同じぐらい価値があるのか分からんな。全体的にかなり砕けていて、子供よりも大きな塊はパッと見では見当たらないし、街まで運ぶ手間考えたら儲けは出ない気がしてきた。


 瓦礫の山の中でも高い場所に上って見渡すと、一面の瓦礫に混ざっていくつもクレーターができているのが見えた。

 いや、クレーターというよりもボウルのような陥没……だろうか。隕石孔っぽいあの縁の盛り上がりが無いし、表面が妙に滑らかだ。土を綺麗に抉りとったようにも見える。

 クレーターの直径は様々で、小さいものは一メートルから大きいものは十メートル近くまで。

 よくわからん。流星群でも降り注いだのか。ピンポイント過ぎだ。


 クレーターの中心部に降りてみたが、隕石の欠片もなかったし、熱も残っていなかった。

 というかよくよく考えれば隕石とはいっても宇宙から来ただけのただの石だ。他の石と見分けがつく気がしない。中心部に湯気を出している熱い石があるイメージを勝手に抱いていたが、そんなものは映画か漫画の中だけという事だろう。

 それでもいくつかのクレーターの中心を未練がましく掘り返してみたが、素手では深く堅い地層を十センチ掘るだけで大仕事だったし、石だらけでどれが隕石なのかさっぱりわからなかったので諦めた。隕石と普通の石の見分け方さえ分かっていればこのあたり一帯の土を全て掘り返してでも探し出してやるんだが、見分けがつかなければどうしようもうない。

 そもそもクレーターの様子からして本当に隕石が落ちたのか怪しいところもある。隕石でなければなんだったんだという話だが。


 昼になり、休憩がてら大理石に腰掛けて干し肉を出し齧りはじめると、瓦礫の迷宮に消えたかと思ったラティが出てきて、俺の手から干し肉の欠片を受け取るとまた探索にとんぼ返りした。俺よりも鼠の方が熱心に探索している気がするが気のせいだろうか。瓦礫に挟まれている好みの雄鼠でも見つけたのか。


 午後は隕石よりも財宝探しに時間を費やした。

 が……駄目っ……宝探しには……重機が必要……!

 単純に大理石の破片が重すぎて動かせなかった。最大で子供ぐらいの大きさとはいえ、それだけの大きさなら石というより岩だ。他の瓦礫と支えあってガッシリ固定されている岩を素手で動かせる訳がなかった。どうして俺はいけると思っていたのか。


 両手でなんとか持てる程度の大きさの石を運んでどかして運んでどかして。指輪のおかげか腰や腕の筋肉を傷める事こそなかったが、すごい徒労感だ。半分ぐらい終わったか? と思って全体を確認した時、千分の一も終わっていなかった時の絶望感。一生かかっても終わる気がしない。

 結局、夕方まで粘っても財宝どころかコイン一枚も見つからなかった。


 ただし、収穫が無い訳ではなかった。

 まず気付いたのは、瓦礫の中の奇妙な空洞だ。砕けた大理石の中心に、何か棒のようなものが通されていた痕跡があった。最初は地下水の侵蝕か何かで自然にできたのかとも思ったが、全く同じような痕跡のある大理石がいくつも見つかれば人工的なものだと分かる。

 思い出したのは鉄筋コンクリート。鉄筋コンクリートから鉄筋を抜けばこんな感じになるのではないだろうか。鉄筋大理石なんて聞いた事がないが、それに近いものを感じた。

 しかし詳細はやはり不明だ。


 もう一つは瓦礫に刻まれた日本語だ。砕かれた碑文らしき破片が瓦礫の片付けついでにかなり見つかった。

 慣れ親しんだ日本語が、なぜかファンタジー世界で見つかった。

 まあそれは別に割とどうでもいい。この世界が遥か未来の日本で、この指輪が超高性能医療用ナノマシン生産装置だとしても、過去に俺のようにこの世界に生まれ変わった日本人がいて、その人物が建てた家がこの遺跡だったとしても。重要なのはこの遺跡にお宝があるかどうかだ。


 せめてこの遺跡に宝があるかどうかだけでも分からないかと意味を成していない断片的な碑文を拾い読みしていて『の遺跡において破壊は何の意味も持たぬ。知能を駆使せよ。さすれば』という文を見つけた時は笑った。

 思いっきり破壊されているんですがそれは。

 他にも入口扉の開き方と思しき碑文の断片もあったが、既に入口どころか全方位にフルオープンしている。何の役にも立たない。


 それから何日も遺跡跡に通いつめ、せっせと瓦礫撤去に勤しんだが、それ以上の発見は全く無かった。見つかるのは日本語のゴミ碑文ばかり。

 フェイとアルトも二日目は手伝いに来たが、一日で筋肉痛になって畑仕事に支障を出していたのでクビにした。ラティもちょろちょろ走り回っていたが、日に日に元気がなくなっていき、一週間もすると諦めたように俺の肩に乗っているだけになった。


 十日後、待望の行商人がやってきたので、手のひらサイズの碑文の欠片を持っていつもの村の外れに行った。


「ようトニー。儲かってるか」

「そこそこだな。お前も売上に貢献してくれたっていいんだぜ」

「貢献できるか知らんが見てもらいたい物がある。この文字知ってるか」


 碑文の欠片をトニーに渡すと、なんでもない事のようにさらりと言った。


「ああ、古代語か。これがどうした? 解読はできんぞ」

「読めるから解読はいい。古代語か……それ売れるか?」

「こんなもんじゃあ買取は無理だが。読めるのか?」

「読めるし書ける。というか古代語ってなんだ」

「古代語知らずに読み書きできるってお前、一体どうしたらそうなるんだ」


 呆れるトニーの説明によると、古代語は遺跡や迷宮で頻繁に見られる、数百年前の言語だという。そこで見つかる罠の謎解きや古書などは全てこの古代語で書かれている。現在では古代語を公用語としている国は無いが、解読はほぼ完全に済んでいて、辞書まで作られているらしい。遺跡・迷宮に潜る冒険者や、金と暇を持て余した上流階級が嗜みとして勉強する事が多いとか。

 話を聞いた印象では、日本人にとっての古文か、欧米人にとってのラテン語っぽい。ネイティブに読み書きできるのはちょっとした特技になりそうだが、特別という訳ではない。一瞬遺失言語の知識で俺SUGEEEEの幕開けかと思ったが全然そんな事はなかった。


「じゃあこれは竹取物語が書かれた本の切れ端みたいな物なのか」

「タケトリモノガタリが何かは知らんが、本の切れ端って例えは上手いな。売り物にならん」

「売れない物をどうやって売るか考えるのが商人の腕の見せどころだろ」

「……一理ある」


 適当に言った言葉にトニーは感心していた。


「だがガラクタを高値で売りつけるのは商人ではなく詐欺師というんだ。買い取らんぞ」

「大理石でも?」

「大理石は加工して価値を出すもんだ。それはまだガラクタだな」


 ガラクタだった。まあ仕方ない。

 ついでに隕石の見分け方も聞いてみたが、知らないと言われた。それはそうだろう。聞いておいてなんだが、一介の行商人が隕石の見分け方について詳しく知っていたら驚く。


「魔族と魔道具について何か知ってる事ないか」

「今日は随分教えて君だな。何かあったのか?」

「魔族が来て魔道具がどうとか言ってて、遺跡が隕石で粉砕されて襲われて指輪が凄かったんだよ」

「なるほど分からん。魔族は……よく知らん。生まれつき不思議な事ができる連中を魔族と言うらしい。都会に行けば割といるって話は聞くが俺は会った事ないな。魔道具は魔力を使って火を出したり水を出したり怪我を治したりできる道具だ。モノによっては目ン玉飛び出る高値で取引される。迷宮とか遺跡で時々見つかるらしい。いつか商ってみたいもんだ……そんなところだな。情報料代わりになんか買ってけ」


 あまり参考にならない話だったが、元々買い物はするつもりだった。いつものように毛皮を売り、有り金はたいて鉄製の金槌とノミを買った。

 よーし、おじさん大理石加工しちゃうぞー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ