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出会い

 黒服の男性が私を迎えに来た翌日。

 入学式のため、私は【黎明学園】の校門前に立っていました。

 昨日は、ドタバタした一日で、手続きやら必要な道具やら、すべて用意してもらい、まるで高級ホテルのような女性寮でゆっくり寝ることができました。ちなみに、一人部屋です。

 しかも、嬉しいことに、この学園では、朝、昼、晩の食事がすべて無料で、本当に私は1円もお金を使うことがありませんでした。

 ただ、ここまでくると少し罪悪感のようなものを感じてしまいます。

 なぜ、私が選ばれたのか……その理由も未だによく分かっていませんし、何より私のような存在が通っていい学校だとは思えません。

 さらに、話を聞けば、試験運用として今年入学する一般学生は――――私一人だけ。

 ……とても不安で、仕方がありません。

 それも、この学園は小、中、高、大学と、すべてエスカレーター式なので、昔からの知り合い同士の中に、いきなり新しい……それも、一般人以下の私が飛び込むことを考えると、怖くて足が竦んでしまいます。


「大丈夫かなぁ……」


 思わず弱音を口に出しながら、目の前の校門を見上げる。

 まるで巨大遊園地の入場門のような、立派で巨大な門が、私の目に前にあります。

 その奥には、これまたお城のような校舎が見え、他にも巨大な施設が点在しているのが確認できました。

 聞いた話によると、この黎明学園の敷地面積は、東京ドーム約150個に相当するらしいです。

 他にも、公園のような噴水のある広場や、飲食店などが立ち並び、学園というよりは、一つの町と形容した方がいいように私は思えました。


「……ここで立ち止まってても仕方がないよね」


 私は意を決すると、門をくぐり、黎明学園の敷地内に足を踏み入れました。

 実は、女子寮や男子寮は、黎明学園の敷地外にあり、私は徒歩での通学ですが、他の方々は車での通学になるそうです。やはり私とは住む世界が違うんですね。

 長く続く道をひたすら歩き続ける私ですが、ふとあることに気付きました。


「……入学式の会場ってどこだろう?」


 昨日の説明によると、第一体育館で行われるらしいのですが、お城のような建物が本校舎であること以外、私は知りません。

 今さらながらそのことに気付き、私は青ざめました。


「ど、どうしよう……昨日きちんと訊いておくか、地図貰っておくんだった……」


 完全に、この学園の敷地を読み間違えていた私のミスです。

 会場が分からないため、誰かに教えてもらおうと周囲を見渡しますが、誰もいません。

 本校舎に行けば、誰かいるかな?

 そんな期待と共に、取りあえず長い道を進み、本校舎へとたどり着きました。

 ですが、入学式の準備のためか、生徒どころか先生もおらず、完全に私一人。


「うぅ……特別に入学させてもらうって言うのに、入学式を無断欠席だなんて……」


 お母さんには、いつも笑っているように言われていたものの、思わず涙目になる私。

 沈んだ気持ちのまま、本校舎付近を彷徨っていたときでした。


「え?」


 一人の男子生徒が、敷地内の芝生の上で、寝転がっていたのです。

 この黎明学園の制服は、白色を基調としたもので、胸元の色で学年が分かるようになっています。

 1年生は赤色、2年生は青色、3年生は緑色で、寝転がっている男子生徒は私と同じ、赤色の1年生でした。

 望んでいた人の存在に、私は声をかけようと思っていたのですが、その男子生徒の姿に目を奪われ、声をかけることができませんでした。

 なぜなら――――。


「綺麗……」


 肩の少し上あたりまで伸びた、艶やかな黒髪。

 涼やかな目元に、長い睫。

 その男子生徒は、今まで見たこともないような非常に整った容貌の持ち主だったのです。


「何か用か?」

「え? あ、すみません! 不躾に見てしまって……」


 思わずその姿に見惚れ、呆然としていると、彼は目を閉じたまま私に話しかけてきました。

 そして、自分の行動に顔を赤くしている私の方を、彼は静かに目を開き、見てきました。

 瞳は、夜空に浮かぶ星のように煌めいていて、見ているだけでも吸い込まれそうです。

 正面から見ると、より男子生徒の浮世離れした容姿が分かりました。


「別に。気にしないけど……それで? お前は何でこんなところにいるんだ?」


 彼はゆっくりとした動作で起き上がると、私の方に近づいてきます。


「あ……その、実は……私、今回からこの学園に通うことになりまして、入学式の会場が分からないんです……」

「ふぅん……」


 気付けば、私の目の前に来ていた彼は、じっと私を見つめてきます。

 しかも、男子生徒の身長が高いため、私の顔を覗き込むようにして見てくるのです。

 あまりにも見つめられるため、思わず顔を赤くし、何とかその視線から逃れようとすると、彼は唐突に顔を離しました。


「入学式の会場って言えば……第一体育館か。それなら、向こうだ」

「え?」


 彼が指さす方向に視線を向けると、そこには体育館とは思えないような、巨大な建物が一つありました。


「このまままっすぐ行けば、たどり着けると思う」

「あ……ありがとうございます! 早速向かってみますね」


 入学式の会場を教えてもらった私は、お辞儀をした。

 そして、早速会場に向かおうとすると、不意に腕を引っ張られました。


「え?」

「お前さ……少し不用心すぎるんじゃねぇか?」


 そう言うと、私を抱き寄せてきました。


「ええ!? な、何を――――」


 しかし、そんな私の言葉は、一発の銃声によって、かき消されました。


「へ?」


 ふと、さっきまで私が立っていた場所を見ると、地面にまるで銃で撃った後のような穴が開いていました。


「な、な……」

「もう少し、この学園を理解しておいた方がいい。そのうち――――襲われちまうぞ?」


 耳元で、甘く囁くように言われた私は、顔を真っ赤にさせます。

 すると、突然、私たちの周囲から、覆面を被り、銃を抱えた人たちがたくさん現れました。


「……めんどい連中が来たもんだな」


 相手の方々が銃を持っていると理解した私は、恐怖から体を震わせているのに対して、彼は全く動じるどころか、迷惑そうに眉をしかめ、ため息を吐いていました。

 そんな彼の様子を見て、相手のリーダーのような方が、口を開きました。


「月神財閥の御曹司、月神麗夜つきがみれいや……大人しくついて来てもらおうか?」

「ダルいからパス。失せろ」


 銃を突きつけながら、脅すように言う相手に対して、彼は初め会ったときから変わらない気だるげな無表情さのまま、そう言い放った。


「……貴様、この状況が分からないのか?」

「さあ? どういう状況? 俺にはさっぱりだな」

「…………そうか。どうやら、一度痛い目を見なければダメなようだな!」


 そう言うと、相手の方々は、みなさん銃を構え、銃口を一斉に私たちへと向けてきました。

 その光景に、一層私が体を震わせていると――――。


「安心しろ。護ってやる」


 低く、心地のいい声が耳元で囁かれました。

 そして、次の瞬間、彼は目にもとまらぬスピードで、相手の集団に突っこんでいきました。


「なっ!?」


 彼の行動が予想外だったのか、相手は目を丸くしています。

 しかし、彼はそんな様子を意にも介さず、流れるような足さばきで相手を次々と蹴り上げていきました。


「女がいるからな。酷い光景を見せないためにも、屈辱的なまでに手加減してやる」


 制服のズボンのポケットに、両手を入れたまま、彼はどんどん相手を蹴り倒していきます。

 そして、ついにリーダーのような人だけになってしまいました。


「んで? どうする?」

「な……舐めるなあああああっ!」


 リーダーの人は、彼に銃口を向けると、何の躊躇いもなく引き金を引きました。

 その光景に、思わず悲鳴を上げそうになったのですが……。


「銃なんざ当たるか」


 つまらなさそうに、なおかつあっさりと彼は銃弾を避けました。

 その光景に、私だけでなく、リーダーの人も、唖然としていると、彼はいつの間にかリーダーの目の前に立ち――――。


「寝てろ」


 最後の一人の顎を、綺麗に蹴り上げました。

 蹴られた相手は、数歩後ろによろめくと、そのまま気絶してしまいました。

 静寂が、辺りを包み込むなか、私は今しがた自分の身に起こった出来事を再認し、その場にへたり込んでしまいました。


「こ、怖かったぁ……」


 安堵した途端、涙が出てきた私に、彼は近づいてきました。


「悪かったな、巻き込んで」

「あ……」


 そう言って差し出されたのは、黒色のハンカチでした。


「この学園に来たからには、次から気を付けておけよ。お金持ちどもが集まるってことは、それを狙う連中もいるってことを……」


 涙を拭き終えた私を、彼は手を引いて立ち上がらせてくれました。


「んじゃ、俺はコイツらを引き渡していくから」

「え? あ、なら私も……」

「お前は行けよ。今日が初日なんだろ?」

「う……」


 彼の言葉に、思わず言葉を詰まらせると、彼はいつの間にか先ほどの人たち全員を、どこからか持ち出したロープで縛りあげていました。

 そして、それを何の苦もなさそうに引き摺っています。


「じゃあな。気をつけろよ」

「あ……」


 気づけば、私が声をかける暇もなく、彼は第一体育館から遠ざかってしまいました。


「……まだ、きちんとお礼ができてないのに……」


 それに、名前だって聞きそびれてしまいました。

 先ほど襲い掛かってきた人たちが、名前を言っていたような気もしますが、気が動転していた私には、それを覚えておくほどの余裕はありませんでした。


「また……会えるよね?」


 誰に訊くわけでもない独り言を、その場で呟いたのでした。

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