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プロローグ

 私――姫宮佳織ひめみやかおりは、貧乏です。

 どれくらい貧乏なのかと言えば、中学卒業間近に迫った今、高校に入学することもできず、これから生活していくために働き始めなければいけない程度には貧乏です。

 ただ、私自身が貧乏なのであって、私の暮らしている家・・・・・・・は、貧乏などではありません。

 私の両親は、幼いころに他界してしまい、祖父母のいない私は、伯母に引き取られました。

 伯母さんの旦那さんは、とある企業の社長で、とても裕福な暮らしをしているのですが、私は伯母さんだけでなく、なぜかその家族全員から嫌われてしまっているため、必要最低限度のお金しかもらえません。

 それも、中学生の間までは、義務教育だから仕方がないという理由なので、必然的に中学卒業後は面倒を見てもらえないのです。

 両親が他界した時の遺産についても、伯母さんが管理しているため、私にはどうすることもできません。もし、そのことについて訊けば、ぶたれ、罵倒されます。

 ……何が、伯母さんたちの気に障っているのでしょう?

 無力な私には、黙ってぶたれることしかできず、両親の遺産を守ることさえできませんでした。

 そんな私でも、中学を卒業すれば、一人で生きていかなければなりません。

 伯母さんたちは、私を追い出すでしょうから。

 どこまでも暗い私の未来。

 夢も希望もなくて、どうして生きているのかさえ分からなくなってしまいます。

 それでも、私は笑顔で生きていくつもりです。

 それが、私のお父さんとお母さんの願いであり、精いっぱいの親孝行なのですから――――。


◆◇◆


「お疲れ、佳織ちゃん! また明日も頼むよ!」

「はい、お疲れ様でした!」


 私は、新聞配達のバイトを終え、帰宅する最中でした。

 新聞配達は、早朝の仕事なので、体力的に辛い面もありますが、みなさん良くしてくださるので、私はそれを支えに頑張っています。


「ふぅ……今日も疲れたなぁ……」


 伸びをしながら、まだ人通りの少ない道を歩く私。

 たまにすれ違う人にあいさつをしながら帰宅していると、一人の老人が、大きな荷物を抱え、忙しなく周囲を見渡している姿が目に入った。

 その様子が気になった私は、老人に声をかける。


「何かお困りですか?」

「ん?」


 私が話しかけると、老人は不思議そうな表情を浮かべ、私の方へと振り向いた。


「突然すみません。ただ、何となくですが、お爺さんが困ってるように見えたので……」

「おお、それはそれは……親切にどうも。情けない話なんじゃが、道に迷ってしまってのぅ……」

「そうなんですか? 私、この周辺なら詳しいので、目的地までお送りしますよ」


 実際に、私は新聞配達のバイトや、放課後にあるバイトなどで、この町周辺の地理に関しては詳しくなった。

 私がそう提案すると、お爺さんは笑みを浮かべる。


「本当かい? それは助かるんじゃが……」

「気にしないでください、私がしたいだけですから」


 そう言うと、私はお爺さんを連れて、目的地まで向かうことにした。

 お爺さんの目指している場所は、少し遠い場所になる駅で、抱えていた荷物も重そうだったので、私が代わりに運びながらその場所まで案内していた。


「本当にすまんのぅ……」

「いいえ、大丈夫ですよ。母がいつも言ってましたから。『困っている人がいれば、助けてあげなさい』って」

「素晴らしい母君じゃな。それを実践するお嬢さんも、素敵じゃぞ」

「ふふふ。ありがとうございます、お爺さん。母も、きっと喜んでいると思います」


 そう言うと、思わず私は暗い表情を一瞬だけだが浮かべてしまった。

 未だに、両親の話になると、悲しい気持ちになってしまうのだ。

 すると、お爺さんは、そんな私の表情に気付いてしまいました。


「どうかしたのかい? お嬢さん。何やら暗い表情になったが……」

「あ……いえ、大丈夫です。気にしないでください」


 何とか笑顔を作り、そう告げるが、お爺さんの心配そうな表情は変わりません。


「お嬢さん、こんな老いぼれじゃが、経験だけはいろいろしてきておる。だから、お嬢さんの悩み、話してみてはくれんかのぅ? 誰かに悩みを打ち明けるだけでも、気持ちが楽になると思うんじゃが……」

「お爺さん……」


 心の底から心配してくれているお爺さんに、私は申し訳ない気持ちになった。

 そして、私はお爺さんの目的地に着くまでの間、私自身のことを話し始めました。


「私の両親は、幼いころに他界してしまい、今は母の姉である、伯母の下で暮らしているんです。でも、そこに私の居場所はなくて、いつも一人ぼっちなんです」

「ふむ……」

「それに、私はあと少ししたら、一人で生きていかなくちゃいけないので……」

「む? お嬢さん、失礼なことを訊くのじゃが、歳はいくつかね?」

「えっと、15歳です」

「まだ中学生じゃないか!?」


 私の年齢を聞いたお爺さんは、目を見開いて驚いた。


「そうです。でも、来月には卒業ですから……」

「そうかもしれんが、高校生活があるじゃろう?」

「いいえ、私は高校には行けないんです。お金がありませんし……」

「ううむ……失礼なことを言うようじゃが、苦労の多い家庭なんじゃな……」

「あ、家は大きいですし、お金もいっぱいあるので、苦労の多い家庭ではないと思います」

「へ?」


 私の矛盾した言葉に、お爺さんは呆けたような表情を浮かべる。


「恥ずかしい話なのですが……私、伯母の家族全員から嫌われているようなのです。何かした記憶はないんですけどね……」

「……」

「それで、今現在も、必要最低限度のお金しかもらえないので、バイトをしながら、中学卒業後の生活資金を貯めているんです。卒業後は、義務教育も終わり、おそらく伯母の家族から追い出されるはずなので……」

「なんと……」


 お爺さんは、私の話を聞いて驚いたような表情を浮かべ続けていた。

 そんな様子に苦笑いを浮かべ、謝罪する。


「すみません、こんな話をしてしまって……正直、反応に困りますよね……」

「いや……そんなことはないのじゃが……」


 私の面白くもない話をしていると、いつの間にか駅まで辿り着いていました。


「お爺さん、ここが駅ですよ」

「む? おお、ありがとう!」


 笑顔を浮かべるお爺さんに、私は運んでいた荷物をお返しする。


「荷物まで運んでもらって、すまんかったのぅ……」

「いえいえ、困ったときはお互い様ですから」


 私が笑顔でそう言うと、お爺さんは真剣な表情で私に訊いてきた。


「お嬢さんは、高校生になりたいと思わないのかね?」

「え?」

「お嬢さんのような子供なら、高校に進学して、友達と遊んだりするのが普通じゃと思う。だから、お嬢さんはどう思っているのかと思っての……」

「私は……」


 お爺さんの問いかけに、少し時間を置いてですが、思わず寂しい気持ちで答えた。


「できることなら……私も高校生になって、もっと勉強して、友達を作って……楽しく過ごせたらいいなって思ってました。でも、やっぱり現実的に考えると難しいですから……」

「……」


 お爺さんは、真剣な表情で私の言葉を訊いていると、最後にこう尋ねた。


「そうか……そうじゃ、訊き忘れておった……お嬢さん、お名前はなんていうのかね?」

「え? えっと、姫宮佳織です」

「佳織さんか……綺麗なお嬢さんに似て、いい名前じゃな」

「あ……ありがとうございます」


 名前を褒められた私は、思わず笑みを浮かべた。

 そのあと、私はお爺さんと別れ、今度こそ帰宅するのだった。


◆◇◆


「むぅ……」

「厳夜様! ここにおられたのですか!」

「ん?」

「あれほど一人で行かないでくださいと申しましたのに!」

「だってのぅ……お主らと一緒におると、息苦しいんじゃもん……」

「じゃもん……じゃありません! アナタのお立場をしっかりと理解してください!」

「ぶーぶー! ……っと、そうじゃそうじゃ。至急、とある人物を調べて欲しい」

「え?」

「質問などは後で受け付ける。だから、今は早く行動してほしいんじゃ」

「わ、分かりましたが……それで、誰を調べれば?」

「うむ――――姫宮佳織さんじゃ」

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