ー1ー
ーミクさんかー
その後一時間ほど電車は進み、その間、俺はチラチラと彼女ばかり見ていた。
車内の人は少しづつ減っていき、やがて二人と、その他数名にまで車内は空いていった。
そして二人は、偶然同じ駅で降りたのだ。俺は思わず声をかけていた。
「荷物沢山ありますね、持たせてください!」
それが二人の出会いだった。
彼女に一目惚れな分、俺がちょっと頑張ったせいか、二人の関係は順調に進んでいった。
彼女の性格は、完璧ではないが以外とおっちょこちょいであり、時に気まぐれであり、そんなところも俺の心を刺激した。
最初のデート。
基本、デートは映画に行く、というのが今までのパターンだったが、いきなり沈黙の世界に入るのは良くない事を、過去の経験で自分なりに学んでいた。
ここは慎重に、健康的で健全な、何処か楽しく歩けるような場所に行く事にした。
遊園地が無難だろう。
「ここの遊園地って、久しぶり、小さい頃連れてってもらってから何年ぶりかしら・・・」
“子供の国”
という彼女の地元で、唯一の遊園地を歩きながら、ミクは言った。
そう、彼女は美人だ。
いや、可愛いというほうが合っている?いや両方だった。
そのふっくらした小さな笑顔で、一番特徴的なのは、いつもうっとりしているような目だった。
彼女のその目に、俺は一目ぼれしてしまった。
誰にでも、イチコロな顔ってのがあると思う。
何度も、何度も見ても、胸がキュンとなってしまう顔。
そんな子と今一緒にいるのだから、俺は本当に幸せ者だ。
「俺さ、こんなふうに公園を歩くのって憧れてた。恥ずかしい 話だけど、これって初体験なんだよね」
21になるまで遊園地でデートした事が無いなんて、さすが男子校出身だ。
もちろん、いままでたいした恋愛も経験していなかった。
高校時代は男子校で、部活とバイトにあけくれる毎日。
好きな人ができても、その人にうまく気持ちを伝えることはできなかった。
やり方がうまく見つからないから、じれったい気持ちが先走ってそのエネルギーを他のことに費やし、気を紛らわせる消極的な恋。
結局若さゆえに真剣じゃなかったのだ。
だから今だって、この幸せな時間を長続きさせる事ができるかどうか、不安は絶えない。
でも、ミクを好きな事は確かだった。
まだ、知り合って間もないけど、彼女との時間が永遠に続けばいい、そう思っていた。
彼女は地元の大学を卒業し、就職先を探していた。看護士を目指し資格を取得したものの、自分にはあまり向いてないと思えてしまい、まだ迷っているという。
「看護婦に憧れてたの、子供の頃からの夢だったけど私はおっちょこちょいだから、研修で自信無くしちゃって・・・」
「初めは誰だってうまくいかないさ、仕事なんて慣れてみてそこから始まるんじゃないかな、まず、スタート地点に立たなくちゃ」
孝えてみると、俺なんてスタート地点さえよく分からないでいる。
「立派なものだよ、ミクは自分のやりたい事に向かって今まで自分の力で進んで来たのだから、俺なんて時の流れでここまで来てしまったようなものだし、夢を追いかけることもしてない・・・」
自分で言っていて、自分がなさけなくなってきた。
「ありがとう、そんな風に言ってくれて、そうね、まだス夕―トしてないわよね」
彼女はそう言って微笑んだ。
「俺、応援するよ、ミクが誰からも愛されるような白衣の天使になる事」
「ありがとう、じゃあ、私も応援させて、あなたの事」
「俺の事・・・」
彼女の言葉はうれしかった。俺の夢を応援してくれるというのだから。しかし、俺の夢って・・・
「俺の夢かぁ・・・」
確かに夢はある。
今はミクちゃんとこうして一緒にいられる事で夢ごこちだけど、確かにこんな俺にも夢がある。
夢と言えば、中学生の頃、コックになりたいという夢を持っていた。
特別な日につれていってもらったイタリアンレストランのカチャトラやスパゲッティが美味しくて、家族皆が笑顔になれた。料理の力は凄い!って感じた。
その事が漠然とそう思えていたのだが、それが本当の俺の夢なのだろうか?
俺の夢って、何だろう・・・。
そもそも夢って、何を指すものなのだろうか・・・。
「今さ、本気で夢考えてたんだけど、俺の夢って、一体なんなのかなーって、俺、これから生きていく上で、何を目標にするのかなって、俺の今の目標は、君を幸せにする事、君の笑顔を絶やさないように生きていくこと・・・なんか君の事しか考えられないな、今は」
「なにそれ!」
彼女は笑った。そう、彼女のそんな笑顔を見ると、幸せな気分になる。
男の夢は、好きな女性を幸せにする事なのかもしれない。
それは単純だが、とても難しい事だ。だってまず、本気で好きな人を探さなければならない。
もし中途半端な気持ちだったら、きっと一生愛する事なんてできないだろう。
一緒にすごしているうちに、一緒に乗り越えなければならない事もたくさんあるだろう。
中途半端な“好き”だったら、逃げ出したくもなってしまう。そして次に、その女性を幸せにしなければならない。
人を幸せにするには、自分を鍛えなければならないという事だ。ただ単にお金があり、欲しい物を与え、なんでもしてあげることが幸せではないはずだ。
彼女が笑っていられる環境を作り上げ、自分も充実した時をすごしていく。そんな事ができるようになるには、彼女のような女性と一緒になる事が2人で歩む人生の大切な基礎であり、まずはじめの一歩に違いない・・・。
「そういう冗談は無し、でもちょっとうれしいかな・・・」
彼女は切なそうな笑みを浮かべた。
彼女の事を俺はまだ何も知らない。
これから彼女の色々なことを知り、それを自分の中で消化していく。
もっと知りたい、彼女のいい所、悪いところ、まとめて受け止めたい。
おれはスタート地点に立ち、スタートラインに指を当て、ちょうど前を向いた所だった・・・。
ここに来る道のりは長かった。たくさん人を好きになり、たくさん経験もした。
あれ?というか、俺は21歳で大して人生経験もしていないのだが・・・何となくその辺が分かってしまう自分がいるのだった。
テレビの見すぎだろうか。
俺は一生、人を本気で好きになれないんじゃないかとも感じた。だって他人と同じ時を過ごしていく中で、すれ違い、争い、意見の食い違い、様々なストレスの中で、それでも一緒に過ごしたいという人が現れるなんてとても思えなかった。
彼女に会うまでは・・・。
彼女にはまだ会って間がない。
彼女のことはまだ何も知らないのに、それはおかしいのでは?そう思うかもしれない。
ただ、彼女に会ったことで、自分の考えが間違いだった事に気づいたりもした。
人と人が出会い、生活する中でいろんなすれ違いが生まれるのは当たり前のことだったのだ。
今までは相手にそれを改善するように求めたり、改善されなければあきらめていた。
だが、それは自分が可愛いだけであって、相手を愛していない証拠だった。
本当に好きな人に会うと、自分より相手の事を考える。
相手の悪いところを許せるか、楽しめるか、許せないか、それによって人を好きになる度合いも変わってくるが、ある一定のラインを越えると、全ての感情がすぐに忘れられる簡単な感情に変化する。小さいことなんてどうでもよくなってしまう。それが愛の魔法でもある。
「どうしても今日見たい映画があるの!」
映画好きなミクにとって、金曜の夜は忙しくなる事が多い。
「また?今日は、何の映画?」
人並み程度に映画好きなマサオは、金曜日の夜に映画を見るより、たまにはカラオケやダーツにでも行きたいと思っていた。
「今夜は外せないのよ、何てったってあのジャッキーチェンが復活なんだから!」
このように、マニアックな映画を見るハメになるのだ。ビデオでもいいのにと、マサオは感じていた。
「ジャッキーチェンのどこがマニアックよ!メジャーでしょ、メジャー!」
ただ、こんな夜、マサオにとって、映画を見るより楽しいことがひとつ。それは夢中にスクリーンを見つめるミクの横顔を見ること。 目を輝かせて色々な表情を見せながら映画を食い入るように見る彼女の横顔は魅力的だった。
躍動感があって、面白いし、何と言っても可愛らしい。とても愛しくなり、思わず抱きしめたくなっていしまう。
たまに目が合うと、恥ずかしそうにプィと、向こうを向いたりして。その表情がまたとても可愛くマサオには映った。
映画が終わると、大体お決まりはファミレスでの遅い夕飯だった。
映画の話が中心だが、口数が少ない時は、大体映画の内容が良かった時だ。映画の余韻に浸り、ボーッとしている時もあれば、
「良かった・・・」
を独り言のように繰り返し、あまり会話にならない。
逆に、つまらない時は映画のダメ出しをこれでもかと話し、何時もの彼女らしさがよく出る。
どちらかというと、映画が駄作の時の方が彼女の会話は面白かった。
それに、カッコイ映画俳優にうっとりしている彼女を見ると、つい嫉妬してしまうというか、やはり面白くないものだ。
今日の映画は、ミクの好きなジャッキー主演だ。
あまりボッとはしていないが、まあまあ面白かったようだ。
「ジャッキー若いね、あの動きは50才以上とは思えない。ミクと俺も50才になっても若々しくいられるといいね」
「ちょっとマサオ、まだそのセリフは早いわ。映画の内容を話し合ってないのにまとめに入らないでよ!そういう会話は最後でしょ!すきあらばすぐに違う話題にいきたがるんだから!」
この辺のミクの鋭さ(ツッコミに対して)には感心する。
そんな彼女と結婚したのは出会ってから5年目の27才の事だった。
籍を入れ、親族だけだったが小さな教会で結婚式を挙げた。
結婚をしたのは、お互いがお互いを一生必要とすることが、確認できたからだ。
そして2年間、二人は急ぐように時を駆け抜けた。
結婚という二人の意識は、時の流れを楽しく、ムダのないものにしてきたが、その分あっという間に過ぎ、自分にとっても29年目の夏がやって来た。
ALS(筋萎縮性側策硬化症)
診断を受けたのは先日の事だった。
「最近息苦しいなど感じたりしますか?」
「息苦しい、ですか?」
自分は息苦しいんじゃないか?なんて考えた事もなかった。あまりピンとこない質問だった。
「とりあえず、今度幾つかの検査を行います、予約を取って下さい」
仕事のスケジュールを確認して、医師の指定する日と照らし合わせながら予定をたてなければ、あ、そう、知っておかねばならない肝心な質問をしなければ。
「その、何か病気の疑いがあるのでしょうか?」
「念のためなのですが一つ疑いのある病気があります・・・」
「それはどんな病気ですか?」
「運動ニューロン疾患という病気で、中でもALSという病気です」
あとどれくらい正常に生きられるだろうか。 何よりも辛いことはミクの事だった。やっと、二人は恋人から夫婦のような関係になれた頃だったから。これからの人生、いろんな未来を想像するだけで楽しかったりしたのに。
病気を宣告されてから2年、徐々に体は言うことを効かなくなっていき、とうとう呼吸は酸素マスクを着けても苦しくなっていた。
死を意識して生きた2年間は、1日1日が貴重な時間となった。
ある程度わがままを聞いてもらい、好きな所に行き、好きな事も色々できた。
そして、体に、心に本当に大切な事も、その時やっと分かった気がした。
ミクは俺のために仕事もやめ、付ききりで介護してくれた。
彼女の事を愛していたか?
愛しているなんて軽い言葉のような気がした。彼女に会えたことが俺の人生にとって最大の喜びだった。自分にとって、こんなに幸せなことはなかった。
好きな人と出会い、結ばれ、その気持ちは色褪せることもなく、そんな俺を彼女も愛してくれていた。ただ、そんな幸せが、自分の胸を締め付ける原因でもあった。
こんなに大切なミクを幸せにできないことが、何よりも辛かった。
自力で呼吸ができなくなる。
それは死を意味するが、この病気には延命の道もあった。
人工呼吸器を着けることだ。
呼吸器を着ければミクとあと何年もおしゃべりができ、笑いあえる。
もっとミクと一緒にいたい。
俺は呼吸器を着ける事を何度も、何度も考えた。
ミクもそれを望んでくれた。
だが、呼吸器を着けない事を決めた。
体はやがて完全に動かなくなる。だが、意識や、痛みは衰える事はない。
俺はこの病気から逃げているんじゃないか?
生きられるのに生きないのは、自殺と変わらないのでは?
そんな事も考えたが、俺には人工呼吸器を着ける勇気はなかった。
それは、神様が与えたたった一つのタイミングのように思えた。
「ミク…ありがとう…いつも一緒にいてくれて…いつも…幸せな時をありがとう…」
ちからなく微かなマサオの声がミクの耳元で響いた。
「わたし…マサオの事忘れられるかな…どうしたら忘れられるのかな…」
マサオの言葉で、ずっと我慢していた涙が一筋流れ落ちた。
それをきっかけにミクの瞳に溢れる涙は止まらなかった。
「俺はミクの事忘れられるよ…だって天国はきっと楽しい所だと思う…だからミクもきちんと未来を見つめて生きて行って欲しい…名前がミク(未来)なんだ、出来るよね…」
表情を緩ませ、マサオは変顔で微笑んでみせた。
「難しいよ…マサオがいない世界なんて、二度と会えなくなるなんて…」
「サヨナラは言わない…ミクとは必ずまたどこかで会える気がするから…」
マサオの潤んだ瞳が、ミクをしっかり見つめていた。その瞳は、今まで見た誰の瞳よりも優しいものだった。
「マサオ…」
「ミク...ありがとう。俺、何て言うか...ミクに会えて本当に良かった...」
微かにそう言うと、マサオのその優しい瞳がゆっくり閉じられていった。
それが、マサオの意思ではない事をミクは感じた。
「マサオ…マサオ!」
張り裂けそうな寂しさがミクの心を襲った。それはまるで、心臓をわしづかみにされたような苦しさだった。
「マサオ!マサオ!お願い…逝かないで…」
マサオの頬は、ミクの温かい涙でいつまでもいつまでも濡れ続けていたは。
ーミクの場合ー
マサオがいなくなって3ヶ月が過ぎた。ミクは思い切り泣いて、思い切り悲しんだ。
ふとマサオの顔が瞼に浮かぶと、胸がギュッと痛くなり、自然と大量の涙が頬を伝った。
でも、昨日の出来事で、ミクはもう泣かないと、心に決めた。
昨日、玄関を見ると不在届けが落ちていた。
「誰かな?」
電話して届けてもらうことにした。
しばらくすると、配達の人が、訪ねてきた。
渡されたのは10センチ四方の箱で、可愛らしくラッピングされたプレゼントと言うことがすぐにわかった。
誕生日でもないのに、誰だろう。
ーよう、ミク!元気してるか?多分そうでもないんじゃないかなー、元気出せよ!俺との約束だろ!俺は元気でやってるよ!ー
それはマサオからの小包だった。
ー自分が死ぬ前に手紙を残してくれたのね、いつ書いたのかしらー
「元気って、死んじゃったくせに・・」
この手紙をミクが読んでいる頃は、俺はもうあっちの世界で忙しいだろうな。ミクには寂しい思いさせちゃってごめんね。
この時期に手紙を書いた理由は、落ち込んだミクを元気付けることとー。
箱の中には、赤いハンドバックが入っていた。
「マサオったら、天国からのプレゼントなんて、洒落たことして」
未来の頬に一筋の涙がつたった。
ー後1つ、俺たちの子供の事。間違っていたらごめん、ミクには聞かなかったけど、俺は気がついてた。ミクが、妊娠してるんじゃないかって。もし、そうだとしたら、ミクは今、産もうか迷っていると思う。どうするかはもちろん、ミクの自由だよ。父親がいない子供を産むべきか、産まないべきか。 もし産まないのなら、任せて!俺がこっちでちゃんと育てるからさ。
でももし産むと決めているようだったら、この先を読んで欲しいー
「知っていたのね・・・」
ミクが妊娠を確実に知ったのはマサオがこの世を去った一週間後だった。
「心配しなくて大丈夫、もう産むと決めているから」
産まないべきか悩むこともあった。
でも、このお腹の中の小さな命は生まれるためにここにいる。例え私がいなくても力強く生きていく命なんだって、今はそう思えるようになっていた。
これを読んでいるということは、ミクは、子供、産もうと決めているんだね、ありがとう、そして、一緒に育てられなくて本当にごめんね。そして、本当に残念です。
実は子供の名前、決めたんだけどどうかな?名前は
ー優希ー
男の子でも女の子でもこの名前だったらいいし、姓名判断で画数もとってもいいんだよ、だから、この名前にして欲しい。
じゃあ決定ね!
勝手に決めちゃってごめんね。
「優希ちゃんか、いい名前じゃない」
そして、優希への手紙も書いたんだ。これを優希が物心付いた頃渡して欲しい。
可愛い便箋に入った優希への長い手紙が、そこにあった。
優希へ
まず、お父さん優希に謝らなければならない。 幼稚園、小学生、中学生、思春期にお前と一緒にいてやれなかったこと。お前が寂しいときに手を差しのべてあげられなかったこと。
ごめんな。
お父さんは、君がお母さんのお腹にいた時に、死んじゃった。
筋萎縮性側策硬化症という難病になってしまったから。
でも、君が生まれてくる事を思うと、楽しくて病気のことは全然悲しくなかった。
だから今、君に手紙を残し、少しでも父親の気持ちや、君に対する思いを伝えたかった。
君の名前、優希だけど、いくつか君につけたい名前の候補があり、例えば女の子だったら 優海 男の子だったら 心 とか。そして
優希
の字画がとても良く、これに決定しました。
優希には少しでも運のいい人生を送ってもらって、いい人に囲まれて欲しいから。
優しさ、や、希望、を皆に与えられるような、そんな力を持った人間になってもらいたい!
そんな父さん、母さんの思いが込められてます。それにこの名前だったら男の子でも女の子でも良かったし(-_-;)!
君は、普通の子と違うって思うかも知れない。
今、お父さんがいない?
ちょっと、貧乏?
これはお父さんの予想なのだけど、君は、今、ほんのすこし周りの皆と違ってて、戸惑ってるかもしれない。
辛い時もあると思う。
辛いことって、その時は辛いです。どうしようもなく辛いし、やなこともあるでしょう。
でも、そんなときは色んな人に相談してください。
お母さんはもちろん、お気に入りの学校の先生とか、交番のお巡りさんでもいいです。
みんな優しく、その人が考えてくれたアドバイスをくれるよ。
でも、苦しいと思ったことは、決してマイナスではないということを知っておいてください。
人の痛み、苦しみ、我慢、経験して、自分のなかで消化して、人に接して行ってください。
そうすることが、人に優しさを与えたり、希望を与えたりすることに繋がります。
オリンピックの選手だって、苦しい練習に耐えて、その先に達成感や、メダルという栄光が待っています。
優希は、これから色んな人の愛で成長していくことでしょう。
人がひとり成人まで成長するというのは素晴らしいことです。
そしてその過程では、経済的な助けも、人から受ける愛も、優希は知らない間に周りの人から沢山受けて成長していくでしょう。
本当はお父さんが責任をもって優希を成人するまで育てなければならないのですが、お父さんがいない分、お母さんを中心に沢山の人の愛で成長するのです。
その事に、お父さんと一緒に感謝してください。
ー自分にとって一番大切なことー
この世の中で、一番大切なことは、人生楽しく生きていこう!です。
それは、優希にも言えるし、優希の周りの人や、地球上の生きている人皆に言えることです。
優希だけが楽しく生きればいいか?それではダメでしょ?だって、優希一人が楽しくたって、周りの人が泣いていたら、優希だって楽しくないはずです。
周りのひとが笑っていて初めて自分が楽しいのです。だから、自分の事以上に人を思いやって下さい。
ー相手への思いやりー
って、何だろう? 思いやりとは、相手のことを考えて、相手がよい方向に導くように自分が影響を与えることです。
例えば、 女の子がお腹をすかせて泣いていて、自分はその時、チョコレートとウーロン茶を持っている。 痩せた女の子だったら、チョコレートを分けてあげる。ちょっと、ふくよかな女の子だったら、ウーロン茶を分けてあげる。 みたいに、相手の事を考えて、手をさしのべることです。
その時その時の場面で、色々なパターンがあり、より良い思いやりをするには、ちょっと難しいことかもしれません。そう、これって頭を使うのです。だから、色んな事を知っておく必要があります。そのために色々な勉強や、経験をして、知識を身につける必要があるのですよ、学校の勉強や友達との交流もそのために必要なのです。
その人と同じような経験、あるいは勉強をしていて、自分に知識があれば、その人の気持ちがわかり、何が一番いいかわかりやすいでしょ。いい大学に行くために勉強するとか、いい会社に就職したいから勉強するとか、そんな理由だけで勉強はするものではありません。
ーここでちょっとお父さんの事を話すよー
優希はどれくらい生きるのだろう。
優希の時代には寿命が100年くらいになってるかもしれないね。
お父さんは30年ちょっと、この地球に生きられた。でも短いからいってダメという訳じゃない。問題はどう生きたかということ。
仕事ばかりの人生じゃなかったよ、何より人と、自然とふれあえたことが楽しかった。
お父さんの人生は、短かったけど、最高に面白かった。
面白い人生って、いい人に巡り会えたり、いい場所に巡り会えたりすることで実現するんだよ。
そして何よりお母さんに出会い、優希が生まれた事が嬉しかった。
お父さんが人生楽しかったって感じるのは、お父さんの性格や、考え方も大きかったと思います。お父さんはとにかく、どんなことでも自分にマイナスになることはないと思うのです。本当にそう思います。
辛い経験したこと無いんじゃないの?そう思うでしょ?そうです、あまりありません。そう感じないからです。
そのときが楽しいと思えたり、頑張ったりできるのは、自分の考え方次第なのです。嫌なこと、辛いことがあってもそこで生まれる絆や、勉強になること、人の優しさを感じたとか、逆に自分にプラスになることは多いのです。
だからお父さんは、辛いことがあったらそれを辛いとただ落ち込むのではなく、代わりに楽しいことが1つ増えると考えます。
腹ペコで食べるおにぎりと、お寿司を沢山食べた後に食べるおにぎりでは同じおにぎりでも味が全然違うでしょ?
腹ペコを我慢すれば、美味しいおにぎりが食べられるのです。
ちょっと例えおかしいかもしれないけど、そんな感じです。
もし、楽しいことばかり続いたとしたら、それは楽しいことではなく、当たり前の事になって、何も感じなくなってしまうのです。
いいことも、悪いことも、楽しいことも、辛いことも、人にはみんな平等に訪れると思います。
だから、その時、その時に自分に与えられた出来事を、楽しんで、悲しんで、頑張って、泣いて、心で感じてください。
いろんな経験をすればするほど、人の気持ちが分かる自分になれます。
そしてそれは、回りの人に優しさや希望を与えていく力になるでしょう。優希が周りに優しさを与える事が、楽しい自分の明日に繋がってるんだって感じてください。
ー自分の中にためる財産ー
お金って、貯めたら増えるけど、使うと無くなってしまうよね、でも使えば使うほど増えて、けして減らない財産がある。
それが自分の中に貯める財産だよ。
例えば、お父さんの場合、絵が好きだった。絵を描けば描くほど絵がうまくなり、楽しくなり、作品が増える。
作品が増えれば個展がひらけたり、人に認められるかもしれない。
最初はノートの落書きから始まった小さな絵も、継続することで30億円の絵がかけるような画家になるかもしれない。
これは絵だけでなくすべてのことに言えることです。
お父さんの実体験でいうと、新宿にいた頃、スポーツジムに行っていて、初めはまともに泳げなかった。ふと、スイミングの無料レッスンの告知が目に入り、ちょっと泳げた方がかっこいいなーみたいな軽い気持ちでレッスンを受けたのが切欠で泳げるようになり、泳げる距離も長くなり、トライアスロンというスポーツを知り、それを目指しいっぱい練習して大会に出場できた。
最初は25メートルやっと泳げるほどだったのに、最終的には疲れるまで泳げるようになり、トライアスロン大会でスイム3キロ、バイク(自転車)155キロ、ラン(マラソン)42、195キロ完走できて、大会出場した人にだけ経験できる大きな感動も味わえた。
物事は、小さなうちはあまり力がないけど、努力などで少しづつ大きくしていくと、可能性や人脈、楽しさなども一緒に膨らんできて、そのうち大きなことができる可能性やチャンスを秘めてくる。
レベルが上がるということかな。
雪だるまの頭を作るみたいに、転がせば転がすほど大きく膨らんでいく。
だから、好きなことや、続けられる事はドンドン続けていって欲しい。
継続は力なり!
好きこそ ものの上手なり!ってね。
ー命の大切さー
優希や、お友だち、お母さん、回りにいるみんな人間ですよね、人間ってすごいんですよ。
例えば、優希の腕の皮膚を見てごらん。当たり前のように優希の全身を覆う皮膚、皮膚って、怪我をすると血が出てしばらくすると直っちゃうよね、そして、暑くなったら汗を出して温度を下げ涼しくしてくれる。
プールでたくさん遊んでも、からだの中にプールの水を入れない完全防水。
優希の皮膚が壊れたから作ってと言っても、誰も作れない。
世界中の国が全てのお金を出しあって研究しても同じものは作れない。
東京スカイツリーは作れても、優希の皮膚は神様と、お母さんが一度きりしかつくれないのです。
優希の体は皮膚だけじゃない、もっとすごいものでできているよ。
代表的なのは脳だよね。
これ、優希の知らない間にものすごい計算をしている。
優希の脳1つと同じ働きをするコンピューターを作れたとしたら、大きな工場1つ位の大きさになり、それに使う電力は、原子力発電所1つのくらいないと動かない。
そんな例えがあるくらい優希の脳はすごいんです。
頭と皮膚だけでこれだけの価値があるのだから、目、鼻、口、手足、人ひとりの体って、どれだけの能力の結集か、どれだけ複雑な奇跡が作り上げたものなのかがわかります。
優希の中の血管全てをつなげると地球2周の長さになるんだってよ!信じられる?人ひとりって、そんなとてつもない価値があります。
だから大切にしてください。優希の体もそう、周りの皆も大切にしてください。
人間だけじゃないですよね、生きているものすべて、奇跡が奇跡を重ねてできたものです。
生きている命を、大切に思ってください。色々書いたけど、優希の人生の参考にしてください。
もしできることなら、優希の成長を、空の上から、お父さんはずっと見守ってるからね。
そして、悪いことしたら、おしり叩きにいくからね
\(-_-)!
ー優希の場合ー
これが父が残した私への手紙だった。
私が小学校1年生の時、母から手紙を渡された。
「あなたのお父さんが、あなたに宛てた手紙よ」
母はそう言って私に可愛い便箋を差し出した。グリーンの葉っぱが手紙の四隅にちりばめられ、真ん中には
優希へ
と私の名前が書かれていた。
父の筆質だった。少し文字が震えているような字体だったが、しっかり書かれていた。
この手紙を書いている頃には利き手の右手は使えず、左手で書いていたと母が教えてくれた。
便箋を開けると、ワープロで書かれた手紙が入っていた。
私は何度も手紙を読み、内容を理解しようとした。
「優希にはまだ早いかもしれないけど、お守りとして持っていなさい」
母の言葉とおり、ちょっと難しい(理屈っぽい?)所があって当時の私には少し難しかったけど、一生懸命理解しようとした。
そしてここに書かれている父の言葉は、私の基本的な考えとなり、私のバイブルになった。
「お父さん、私、お父さんいなくても元気で生きてるよ。そして人生とっても楽しい。お父さんの教えてくれたこと、とっても役に立ってる。嬉しいでしょお父さん、お父さんの分まで優希は楽しく生きるからね!」
手紙を折り畳み、母に頼んで、またまた頼んで、やっと貰った赤いコーチのバックにしまった。
2つとも、私の宝物だ。
「オーイ!用意出来た?」
シンジが玄関で叫んだ。
「ハーイ、今行く!」
「お母さん早くー、道路が混んじゃうんだから!」
シンジったら、またミカに言わせてる。
「お待たせ、行こ♪」
お盆も終わり、今日は家族でプールに行く。もうすぐ9月だが、まだまだ外のアスファルトには容赦なく太陽の光が照りつけていた。
ーあっちの世界ー
人生って、不思議なものである。 苦しいのが楽しかったり、楽しいのが寂しかったり、お金持ちが虚しかったり、貧乏が面白かったり。 そして皆、
「私だけどうして?」
と、生きているときは自分の不幸を嘆いたりするが、実はほぼ自分の思い通りに人生は進んでいる。
ただ、その人の歩む人生に寿命は必ずやってくる。
それが長いか短いかはその人次第でもある。 結局、どんな場面でも、その人の生き方次第で楽しくもなり、苦しくもなり、寂しくもなり、長生きだってできるのだ。
お金だって、あればあるだけ楽しいなんて、妄想の世界だけなのである。
例えば、お金がない人が、お金持ちを夢見ることが、楽しいだけのこと。
それに気づいている人が、世の中に何人いるだろうか。
あまりいないだろう。
3度も人生やり直して、やっと気付いた事の一つだ。
最後の私の人生は愛に生きた。
かけがえのない人に出会い、その人のために人生を生きていく。
その事が、自分の人生を輝かせていく。
この人生が私にとって一番有意義なものだった。いや、これは私だけでなく、すべての人に当てはまることだろう。
優希が元気に育ってくれて、そして幸せでいてくれて、本当に嬉しい。
ありがとう、ミク。優希、またな。
「おかえりなさいませ、お盆の間、有意義に過ごせましたか?」
「はい、お陰さまで」
「では、そろそろ次のステージにご案内いたします」
「そこは楽しいですか?」
「ええ、やりがいはあると思いますよ、なにせ、あなたが希望する世界ですから」
良い世界を作る。
皆が望む事だが、もし、本当に全てが叶い、人間の住む地球が完璧な世界になってしまったならば、それは人間世界の終わりを意味する。
ゲームで言うゲームオーバー、スゴロクだと上がりだ。
人間の世界にそれはあり得ない。
何故ならそうなってしまったら、もはや人間ではないからだ。
人は、そんな途方もないゴールに向かって、地球というステージで学ぶ事を目的として生きる生き物なのだ。
End