始まりの日
更新です。
魔王は薄れゆく意識の中、ある一つの記憶を思い出す。
それは魔王が魔王になったキッカケ。
始まりの記憶。
1500年前……
そこは魔族というだけで忌み嫌われる世界。
魔族だという事だけで差別され、侮辱され、職は失い、生活もできなくなる。
だから魔族は魔界の片隅にひっそりと一人の王を中心に集まり、みんなで助け合い生きてきた。
魔族の王は数人の護衛を連れ、魔界の王国へ魔族の差別を止めるように申し立てる。
王国が魔族を差別するなという法令を出したとしても差別は無くならない。しみついた物は簡単には取れないからだ。
それに魔界に一応王国と言うものはあっても基本的に種族のつながりが強く、王国の権力はそこまで強いものではない。
だが一応どの種族も集まる王国の首都などの都市には魔族は全く入れて貰えない。
種族のつながりが強く他の種族など別にどうだっていいと思っている連中だって、都市などでは差別はあまりなく、違う種族であっても街へ入れる事を拒むことなどはしないし、物は売り、そして買う。
魔族はそのサイクルに入れて貰えない。
王国の権力が強くなくて、結局差別する者がいたとしても、一応は取り締まる法令は創るべきだと控訴する魔族の王。
それが抑止力となり、時間をかけだんだん魔族を理解してもらう事ができる。
だがこれでは王国が差別を取り締まる法令を創らない以上、助長されていくのは明白だ。
それが魔族側の言い分。
しかしそれは受け入れてもらえない。
毎回、王国の王や家臣たちの眼に浮かぶいろは、畏怖。
魔族が怖い。そして強い。何されるか分からない。故に仲間に入れるのは迷う。だから差別する。
だから考えておくというあいまいな返事でいつも躱されてしまう。
だが、今回魔族の王であるところのアルブレイト・レングラントが王国を訪れたときの反応はいつもと違っていた。
アルブレイトはいつもと同じことを言う。
そして同じように躱されると思っていた。
だが違う。できるだけこの王国にとどめておこうとしているように感じた。
胸騒ぎがする。
アルブレイトはすぐについてきた護衛などをひきつれ、魔族の住む国へと急いだ。
「なんなんだ……アレは……」
魔族の国と王国の境界線あたり。
そこでは虐殺が行われていた。
数万の王国軍。それに対する魔族の軍数百。
魔族は他の種族より一個体てきな能力では上回る。
だがこの数の暴力の前ではまさしく虐殺と呼ばれる攻撃がされていた。
魔族である家族が断末魔をあげ死ぬ。それを斬る王国兵は笑っている。
「アルグリードをよこせ」
アルブレイトと低い声で言う。
「陛下‼ 行かれるおつもりですか!?」
「そうだ。私は魔族を守らなければならない」
「……アルグリードを持ってきなさい」
アルブレイトの側近であるルークが他の従者に向かって行う。
するとすぐに持ってやってくる。
それをルークは受け取り魔王に差し出す。
「お言葉ですが陛下。あなた様はこの剣に未だ選ばれておりません。それでもいかれるというのですね?」
「無論だ。お前たちはすぐに領内へ戻り、守る準備を行え」
「はッ。お前たち。急ぎなさい」
「ルーク。そなたも行くのだ」
「お断りします。私も魔族を守らなければいけないので」
そう言ってルークは笑みを浮かべる。
「なら行くぞ!」
アルブレイトは叫ぶ。
その叫び声に気づきこちらを見る王国兵。
だがその時にはアルブレイトの振るうアルグリードに切り裂かれる。
戦いはすぐに終わる。
最後までたっていたのは黒の衣を着た、血で全身を赤く染めたアルブレイトとルークだけ。
二人の善戦虚しく、魔族の軍は全滅。
二人の善戦で王国軍も壊滅。
「陛下、ご無事ですか?」
「無事だ……。だが守れなかったな」
「ええ……」
「ルーク。なぜこうも世界は壊れている? 魔界の民たちはみな壊れている?」
「分かりませぬ。我等を創った神という者がいるならそいつのせいですね」
「そうだな……。ルーク力を貸せ。我は変えてやる。この壊れた世界を。ついて来てくれるな?」
「私は貴方の家臣ですよ? どこまでのあなたの隣に居ましょう。ですがどうなさるおつもりで?」
「全ていったん壊す。人もすべて……。そこから一から新たに作り出すことにした。まあ創る前に神という奴も殺す」
「はははは。それはおもしろそうですね。神を殺すんですか。そして全員殺して新しい世界を創る……。ですか。そうなると私も最後は死ぬんですね?」
「そうだ。すまんがな」
「謝る事はありませんよ。それでも私は貴方について行きます。新たな世界の創造へ力をお貸ししましょう」
ルークはアルブレイトの前で傅く。
「我は今からアルブレイト・レングラントという名を捨てる。我は魔王。世界も思想も神をもすべてを壊す者だ‼」
真っ赤な血に濡れたアルグリードが主を見つけたと言わんばかりに黒い光をその刀身から生み出す。
この日、世界に魔王が生まれた。
♦♢♦♢
―――――今更、思い出すとわな。
だが思い出せてよかった。我はまだ成し遂げてはいないではないか。
世界を壊して一から作り直すことも。
神を殺すことも。
何一つとして成し遂げてはいない。
なら、まだ死ぬわけにはいかぬ。
「ガァァアアアアアアア‼」
雄たけびをあげて、意識を覚醒させる。
我に刀を突き刺した蒼空という男は驚き、すぐに雪景を我の体から引き抜き、後ろへ下がった。
傷口から血が垂れる。
周りを見ると結界はこれ以上はないくらいに壊れかけている。
魔王は叫んだ。
「ルーク‼」
「はっ」
どこからともなくルークが現れる。
ルークが現れたことに勇者たちはみな驚きの顔を見せている。
「申し訳ありません。魔王様の結界の中へ入ることが叶わず、ずっと外で手をあぐねいていました。私の影を中に入れる事で精一杯でした」
「よい。王へ攻撃をしてくれたのはそなたの影だろう?」
「はい」
「良くやってくれた。大儀である」
「ありがたき幸せです」
「………………」
「どうかなさいましたか? いえ、分かります。私を殺すのでしょう?」
「……そうだ」
「そんなびっくりした顔をなさらなくても。私が何年貴方様の隣にいると思っているんですか? それに1500年前のあの時、私は最後死ぬとおっしゃりました。これが最後です。私の命を使って魔王様は勝ち。世界を壊し。神にさえ勝ち。そして新たな世界を創られるのです」
「ククク。お前は最後まで忠義の男だな。我でさえ先程まで忘れていたあの時の事を覚えているとは」
「そうですかね? まああの時は始まりの日とも言える日ですから」
「そうだな。あの時すべてが始まった」
「……さあ魔王様。立ち止まる暇はありませんよ。私を殺し、次へとお進みください」
「本当に忠義ある男だ。我の最高の家臣だ。誇りに思うぞ。お前が居なければこんなに早く事は進まなかった。我が居ない間、魔族を守ってくれて助かった。感謝するぞ」
「……⁉ 魔王様にそこまで言って頂けるとは私は幸せ者ですね」
ルークの頬を涙が通り、濡らす。
「それではなルーク。私も新たな世界を創ればそちらへ行く。何年先か分からぬがそこで待っていてくれ」
「はい。そこで魔王様の武勇伝を期待して待っていますよ」
アルグリードがルークの胸を貫く。
アルグリードの刀身を通してルークの心臓の鼓動を感じる。
ルークの命をアルグリードが吸い取る。
それと同時に魔王の体の傷が徐々に癒えはじめる。といっても致命傷を防ぐ程度にしか身体の損傷は回復させない。
魔王はルークからアルグリードを抜き去る。
ルークが魔王の足元へと倒れこむ。
蒼空達は驚愕に目を見開いていた。
「さあ、勇者よ。我は勝たねばならない。そしてすべてを終わらせる」
魔王の声が響き渡った。
蒼空達が若干空気だな……。
今回は魔王が中心ですね。
あともう少しです。
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