ヴァルガの力
49話です。
次はやっと50話です。
ここまで長かった。
「弱っ」
ヴァルガは余裕の表情でそう言う。
しかし、そう言われても仕方のない状況にはなっていたのだが。
三人がかりでも、一方的にやられてしまったのだ。
敗因はそう、連戦の疲労と、相性。
とにかく、ヴァルガとは相性が、悪すぎるのだ。
「くそ……」
蒼空はそう苦虫を潰したような顔で言う。
息もかなり荒い。三人とも肩で息をしていた。
「あーあ。なんか期待外れだな。ルークのアニキが負けたって聞いたからわざわざ魔王様の命令に志願してやってきたってのに……。ザコ過ぎだな。
まぁこれは命令だから悪いがもう…………死んでくれ」
バチバチ。
ヴァルガから音がする。
これだ。ヴァルガとの相性が絶望的に悪い理由。
ヴァルガは電気を操る。
あいつは電気を自分と、そして武器に纏い戦闘をする。
たまに雷みたいなのも放ってくるがそれをあまりしないのが唯一の救いだ。
おそらくその理由は、あいつが戦闘愛好者だからだろう。
自分の体で戦闘をする、これが奴の信条みたいなものだろうか?
とにかく、電気を纏っている。
そして自分たちの獲物は、刀や剣だ。
つまり鉄。どういう事か分かるだろうか?
迂闊に攻撃すれば感電してしまう。三人とも一回や二回喰らった所で死にはしないが、一瞬隙ができる。
それが命取りになってしまう。だから自分の武器で直接攻撃ができない。
つまり、遠距離からの攻撃をするしかない。
だが、三人の力。
それは、光牙は光。蒼空が氷。忍が風。
お分かりだろうか? 遠距離から攻撃するにしても物理的殺傷能力を持つのは蒼空の氷だけ。
光牙や忍の戦闘方法は遠距離からスピードに物を言わせ、一瞬で近づき命を絶つというもの。
もちろんその戦い方しかできないという訳でもない。
光牙は勇者だし、忍も元魔王軍幹部。
ルークなど、敵が自分に近い力、もしくは上回る力を持った奴にしか能力は使わない。
だが、二人とも近接戦闘向きの戦い方をする。
しかし、近接戦闘ができない。
ぶっちゃけ戦力にはあまりならないという事だ。
なら、頼みの綱は蒼空。
しかし蒼空は少し前までは高校生だ。
少し運動神経がよく、体を鍛えていたぐらいの高校生。
それがここ最近の連戦で蒼空の体はかなり疲労がたまり、悲鳴をあげつつある。
そんな者の攻撃がプロにあたるだろうか? いや、否だ。
「光牙……。ここは撤退しよう」
蒼空は小さな声で、しかも気づかれないようにヴァルガを睨みつけ唇を動かさないように言った。
「なっ!? そんなことできる訳ないだろう」
光牙もまた小さな声で言う。
「だが、このままでは負ける。戦略的撤退だ。そうしないと負ける」
「そうね。私も蒼空の意見に賛成。」
忍も遠くから風で音を送り、話しかけてくる。
便利だな。風の力。
「しかし敵が、魔王の幹部が居るんだ。簡単には退けない」
勇者としてのプライドか、使命感か光牙は意見を変えようとしない。
だけど、このまま戦っても勝てる訳がない。
蒼空も譲る気はなかった。
「それでも退くんだ。ここでは、このままでは勝てない。ここで俺らが負けたらどうなる? すべてが終わる。退くんだ」
「だが……だがっ……。くそ、退くしかないのか……」
「よし行くぞ。まぁ光牙と忍の速さなら問題ないだろうけど、問題は俺だな」
「どうする? 奴は電気を操っている。もしかすると雷みたいに早く動けるかも知れないぞ」
「いや、その可能性は低いと思う。あいつの力はあくまでも"電気"光レベルで早いんだろうがそれを持続する力はないと思う」
「だが、持続する間に追いつかれれば負けか……」
「そう。だから、俺はできるだけ厚い氷の壁を創る。それを魔法で硬くしてそれから逃げれれば……」
「それしかないな……」
「じゃあ3つ数えた後、やるぞ」
そして、光牙も忍も頷いた。
「3……2……1……。行け‼」
言った瞬間には二人とも行動していた。
忍は風の力で飛び、光牙は光で辺りを照らし、ヴァルガの目くらましをする。
蒼空はできるかぎりの集中をしてヴァルガの下に魔方陣を敷き、それから雪景を振ってヴァルガを分厚い氷の壁で包む。
そして、その上にまた魔方陣を描き、呪文を唱えた。
ヴァルガの真下の魔方陣と真上の魔方陣が輝く。
しかし、それは攻撃用ではなく、氷の強度を高めるための物。
「なんだ? あの魔法」
「あの魔方陣がある間は挟まれているものの強度が増す」
「ヴァルガの武器の強度はどうなる?」
「それも問題はない。ヴァルガにはヴァルガで別の魔法をかけた。一定時間魔法の効力が聞かなくなるはずだ」
「そうか……なら急ぐぞ」
「ああ……」
蒼空は氷の翼を創り、飛んだ。
そして少し飛び、離れた後、小さく映る壁を見て
必ず倒す……。
そう誓った。
戦闘シーンは特にありませんでした。
戦闘を待ってくださっていた方、申し訳ありません。
次は出来るだけ早く更新したいです。