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バイト

風は心地よいが、夏を思わせる陽射しが降り注ぐ季節になり純子も大学生活にだいぶ馴れてきた。



実家から通えない距離ではなかったが、大学に合格したのをきに純子は1人暮らしを始めていた。


渋る両親(特に父親)を説得し「月に一度は実家に顔を出すこと」を条件に1人暮らしの許可を得た。




両親の反対を押し切ってまでしたかった憧れの1人暮らし。


生活に必要な物を揃えるのは楽しかった。


実家では全くやらなかった掃除や洗濯、食事の支度も自分一人ではやらなくてはならない。しかしそれがまた新鮮で純子は一人暮らしを満喫していた。




月一回、実家へ行った時にお小遣い程度のお金を渡されていたが、大学生にもなるとサークルやゼミなどの集まりがあり、友達との付き合いなどで節約していてもあっと言う間にお金が足りなくなってきてしまう。



「バイトしなきゃ……」


昼休み、弁当をつつきながら朝駅から持ってきたフリーペーパーを広げ眺めた。

「何?バイトするの?」

友達の水本雪絵(みずもとゆきえ)がが声をかけてきた。

「うーん、バイトしないとヤバいんだよね〜」

「前にバイトしてた所は?」「昨日電話したけど欠員いないって……」

「そっか」


広げた紙を二人でみたが、結局この日は見つからなかった。




数日あれこれ探しているがバイト先はなかなか見つからない。

「バイト探してるんだって?また一緒にやろうぜ」

修一が声をかけてきた。


「ええ?またあんたと仕事するの〜」

「そんな事言うなよ〜」

修一は純子の背中にどしっと寄りかかってきた。


「んもー重いっつの!暑いしっ」

修一がどくと「どころでバイトなにしてんの?」と聞いた。


「俺がやるとしたらホストしかないっしょ」

修一はちょっとカッコつけてポーズを決める

「はあ?あんたがホスト?ってかあたし男じゃないから一緒にできないし」

少し怒った口調で修一を睨む。


「うそうそ、喫茶店」


「喫茶店?今時喫茶店なんてあるの?まさか特殊系の……」


「そうそう、お帰りなさいませご主人様〜……って、おいっ!」


「耳とか付けて?」


「そうそう、にゃんにゃんって。……だーかーら違うって!」


修一は猫の真似をして丸めた手で純子の頭を軽くネコパンチした。


「だってノリがいいから」

純子はぶはっと吹き出すと腹を抱えて笑い出した。


「普通の喫茶店だよ。一人辞めるらしいから空きがあるんだよ。やる?」


「うーん」

純子は腕を組んで考えた。このまま探してても見つかるかどうかだよね。



「しょうがない。そのバイトやってあげる」


「なんで上から目線なんだよ。よしじゃあ店長に言っとくな。俺の淹れたコーヒーうまいんだせ。今度飲ませてやるよ」


「コーヒーの香りは好きだけど、あたしコーヒー飲めないんだ」


「あっそうなの?そりゃあ残念」


その後「後で連絡する」と修一はバイトへ行った。




その日の夜、早速修一からメールが入った。



〈バイト明日からOK!学校終わったら来いよ〉



〈了解!〉



短い返信をし純子は次の日からの新しいバイトにワクワクしながら布団に入った。





次の日、授業が終わり帰りの準備をしていると「純子、帰りに寄ってく?」と雪絵に声をかけられた。


「ごめーん、今日からバイトなんだ」


「決まったんだ!どこ?何やるの?」


「喫茶店。何やるのかな?今日からだからさ……」


「そっか、頑張ってね」



雪絵達に手を振って校舎を後にした純子は、丁度来たバスに乗り込むと携帯を開き昨日修一から教えてもらった店の場所を確認した。


学校から15分程で目的のバス停に着いた。料金を払いバスを降りる。


「えっと……」

携帯を片手に周囲を見渡す。


〈バス停を降りて来た道を少し戻ると右手に銀行があるからそこを右〉


確認しながら歩いていくと銀行発見。

「ここを右ね……」

独り言を言いながら右ヘ曲がる。



〈曲がったらしばらく道なりに。ポストが見えたら右の路地に入ってすぐ左側の店。《喫茶夕凪》って看板が目印〉


「了解。《喫茶夕凪》ね……」独り言を言い携帯を鞄にしまう。





カランコロン

ドアを押し開けるとぶら下がっているチャイム代わりのガラスの棒が触れ合いキレイな音を奏でた。


店内はコーヒーのいい香りが漂っていた。「いらっしゃいませ」

カウンターからは穏和そうな初老の男性が声を掛けた。蝶ネクタイに白いシャツ、黒いベストがよく似合っている。



「あのっ……本日からお世話になります神崎です」


「ああ、修一君から聞いてるよ。こんなきれいな子だとは思わなかったよ」


カウンターから出てきた初老の男性は

「わたしはここの店長をしている瀬戸です」

「初めまして、神崎純子です。よろしくお願いします」と挨拶した。


「こちらこそよろしく。いや、助かったよ。こんな小さな店でも二人だけじゃ大変でね」

「あのあとの人は?」


「いやいないよ。君とわたしと修一君の三人だけだよ。小さい店だからね」


純子は修一に騙された気分になった。

「じゃあ早速だけどお願いできるかな?」


そう言われ瀬戸から服を手渡たされた。



それは瀬戸と同じような白いシャツに黒いズボン。それと喫茶店の名前が小さく入った腰に巻くタイプの黒くて長いエプロンだった。



奥の部屋で着替え身なりを整えていると修一が入ってきた。修一も純子と同じ格好をしている。


「おっ純子、来てたのか」

純子の姿を見て修一が言った。


「ちょっと、ノックくらいしてよ。着替えてる途中だったらどーすんのよ!」


背が高くスラリとした純子のその姿は同性をも惹きつけるような雰囲気だった。

「ごめんごめん、その格好似合ってるじゃん。でも俺としては短いスカートがよかったけどな。ついでに言うと猫耳付けてくれれば最高!」


「最低」


純子は長い髪を束ねると修一の足を思いっきり踏んづけて部屋を出て行った。





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