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鑑定スキルで全てを最適化したら、最弱の村が国家になりました  作者: 慈架太子


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71話:エリシア失脚①


停滞する円卓

王都、中央庁舎の最上階。

かつて王国の栄光と未来を論じたはずの会議室は、いまや墓所のような冷気に包まれていた。


窓の外には、淀んだ灰色の雲が垂れ込めている。室内を照らす魔導灯の光は、心なしか以前よりも弱々しく、磨き上げられた円卓に座る者たちの影を、不自然なほど濃く引き伸ばしていた。


机の上には、各地から届いた報告書が乱雑に積み上げられている。

それらはどれも、同じ結論を指し示していた。


「流出」


知識層、武官、中堅の役人。

社会の屋台骨を支えるべき「実務者」たちが、夜逃げ同ぜんの勢いで姿を消している。その行き先は、言わずもがな。北の辺境、新興都市オルシェだ。


「……また、か」


誰かが低く、吐き捨てるように言った。

手元の報告書を叩きつける。乾いた紙の音が、静寂に波紋を広げた。

今日だけで、税務を司る主計官が三名、そして王都警備の要であった百人隊長が二名、辞職願すら出さずに失踪した。


「数は増え続けている。減る気配など微塵もない。国の中枢が、まるで砂時計の砂のようにこぼれ落ちている」


問いが投げられる。しかし、その問いは虚空を漂うだけだ。

なぜ止められないのか。

検問を強化した。渡航を禁じた。流言を流した。ありとあらゆる「旧来の手法」は試した。だが、流れは一向に止まらない。むしろ、締め付ければ締め付けるほど、人々はより巧妙に、より必死にオルシェを目指した。


答えは出ない。いや、出せる者がここには残っていないのだ。


集約する悪意

沈黙が支配する中、やがて室内の視線は、一つの点へと吸い寄せられていった。


エリシア。


彼女は、微動だにせず座っていた。

その端正な顔立ちは、凍りついた湖面のように静かだ。だが、その視線の先にある報告書の文字は、もう彼女の脳には届いていない。


彼女には分かっていた。

この重苦しい空気の正体が何であるか。

自分を取り囲む「同僚」たちの目が、何を求めているのかを。


「……お前だ」


ついに、一人が口を開いた。

抑えられた声。だが、そこには逃げ場のない断定が込められていた。


「エリシア。お前が、余計なことをした」


否定の言葉は返ってこない。それを待っていたかのように、別の声が重なる。


「お前は、人道支援という名目でオルシェとの接触を許した」

「逃げ出そうとする者たちを、お前は甘い顔で見逃した。止める機会は、いくらでもあったはずだ」


責任が、一枚ずつ薄い布を重ねるようにして、彼女の上に積み上がっていく。

それは緻密に計算された、生贄の儀式のようだった。


王国が傾いているのは、自分たちの無能のせいではない。

オルシェが強大なのは、自然な流れではない。

全ては、内部にいた「裏切り者」が手引きした結果なのだ――。


そう結論づけることが、この部屋にいる者たちにとって、唯一の救いだった。


「お前がオルシェの代表と通じていたという報告もある。あそこに流れた役人の多くは、お前の派閥の人間ではないか?」


事実を歪め、意図を捻じ曲げ、すべての失策が彼女の肩に載せられていく。


届かない声

エリシアは口を開いた。

喉の奥が焼け付くように熱い。


「……違う」


小さく漏れた声は、自分でも驚くほどか細かった。

彼女は、人を逃がしたのではない。

崩壊する王国のシステムの中で、せめて死なずに済む場所へ、有能な者たちがその才能を枯らさずに済む場所へと、背中を押しただけだ。

彼女が止めたところで、彼らはいつか別の道を探して去っただろう。あるいは、この絶望的な王都で、腐り果てていくだけだっただろう。


しかし、その言葉は唇を越えることができなかった。

何を言っても無駄だ。

この部屋にいる者たちは、真実を知りたいわけではない。

「自分たちが悪くない」という証明のための、適当な「原因」が欲しいだけなのだから。


「弁明は無用だ、エリシア。お前の甘さが、この国を空っぽにした」


誰かが放ったその言葉に、周囲が頷く。

かつて彼女の洞察力を称え、彼女の判断を仰いでいた者たちの目は、いまや冷酷な「切り離し」の意思に染まっていた。


期待は疑念に。

疑念は確信に。

確信は、排除への情熱に変わる。


「謹慎を命ずる。……いや、それだけでは足りんな」


冷え冷えとした宣告が下された瞬間、エリシアの足元に広がっていたはずの「立場」という名の床が、音を立てて崩壊し始めた。


彼女は、もはや王国を支える柱ではない。

崩れゆく城壁の、最初の瓦礫として放り出されるのだ。


エリシアはゆっくりと立ち上がった。

視界が歪む。

周囲の嘲笑と、安堵の混じった視線を受けながら、彼女は自分が守ろうとしたものの正体を見失いかけていた。


王都は、ただの器だ。

中身を失い、最後に残った「管理者」たちが、唯一残された権力という毒を、身内に向けて振りまいている。


彼女の背後に、会議室の重い扉が閉まる。

その音は、彼女と王国の繋がりを断ち切る、最後の一撃のように響いた。

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