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鑑定スキルで全てを最適化したら、最弱の村が国家になりました  作者: 慈架太子


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29話:新たな脅威

――朝。

領地の防壁を叩く陽光は、昨日までと変わらず眩しい。

しかし、門前に現れたその光景は、これまでの略奪者や使節団とは明らかに異質な、冷徹なまでの洗練さを纏っていた。


「……今度はまた違うな。鎧の輝きが、内側の矜持を語っているようだ」


見張り台の上で、リーヴが目を細めて呟いた。

街道を埋めるのは、白銀の装甲を纏った二十名の精鋭騎士。そして、その中央には、豪華絢爛ながらも一切の無駄を排した漆黒の馬車が鎮座していた。


《鑑定:起動。前方集団を解析》

・所属:王都貴族連合・特使一行

・構成:代表者1名、従者3名、精鋭騎士16名

・目的:戦略的同盟の提案、資源の確保、および「血」による併合


「……来たか。王都が正式に認めた後、真っ先に食いついてくるのは、やはり『派閥』か」


オルシェは門の前に立ち、静かに息を吐いた。

門が開かれ、一行が街の広場へと入る。住民たちはその圧倒的な貴族の威光に気圧されながらも、どこか誇らしげに背筋を伸ばしていた。自分たちの「主」が、彼らと対等であることを知っているからだ。


馬車の扉が開かれ、一人の女性が降り立った。

流れるような長い金髪。彫刻のように整った顔立ち。そして、数代にわたる統治の歴史を感じさせる、静謐な気品。


「初めまして。お会いできて光栄です、オルシェ準男爵」


彼女は完璧な作法で、優雅に頭を下げた。


「私はエリシア・フォン・アルトレイン。王都貴族連合の代表として、あなたと対話するために参りました」


その名が放たれた瞬間、背後にいたセレスの目がわずかに細くなる。

「……王国有数の名門。しかも、連合の若き『知の盾』と呼ばれる大物ね」


「オルシェだ。……挨拶はいい。用件を短く頼む」


オルシェが短く返すと、エリシアは取り繕うような笑みを捨て、一歩前へ出た。その瞳には、一国の運命を左右しようとする者の、鋭い計算が宿っていた。


「単刀直入に言いましょう。私たちは、あなたの領地を極めて高く評価しています。この短期間での急成長、そして軍を呑み込む力。……それはもはや、王国の秩序を揺るがす特異点です」


エリシアは微笑みを深める。


「私たちは、あなたと盤石な協力関係を築きたいと考えています」


「……条件は?」


「資源の共有、および未知の技術の一部提供。それと引き換えに、私たちは王都でのあらゆる政治的障壁を取り除き、あなたに最高の『地位』を保証しましょう。そして――」


エリシアの言葉が、一段と熱を帯びる。


「婚姻を提案します。我がアルトレイン家と、あなたの血を繋ぐのです」


空気が、完全に止まった。


「……は?」


リーヴが低い声を漏らし、剣の柄を握りしめる。

セレスは無言。だが、その周囲の魔力が微かに震え、温度が急激に下がった。


「これは純粋に政治的な、そして生存のための提案です。王都の派閥は複雑。あなたが孤立すれば、いずれ巨大な渦に飲み込まれる。我が家と繋がれば、この領地は永遠に守られることになるのです」


静寂。

オルシェは、少しだけ、本当に可笑しそうに口元を歪めた。


「断る」


一瞬。一秒の迷いもない。


「……理由を伺っても? あなたにとって、これ以上の後ろ盾はないはずですが」


「守られる必要がねぇからだ」


シンプルの極致。

「俺たちの場所は、俺たちが守る。あんたたちの温室に入って、飼い慣らされる気はねぇよ」


エリシアの瞳が、わずかに揺れた。

これほどの好条件を即座に蹴る者が、この世に存在するとは思っていなかったのだ。


「……強気ですね。ですが、傲慢と自信は紙一重ですわよ」


「事実を言っただけだ。あんたの言う『秩序』に、俺たちを当てはめるな」


沈黙が続く中、それを割ったのはセレスだった。


「面白いわね。『守る』という甘い言葉で、実質的な支配下に置こうとした。……でも、計算違いよ、エリシア様。この街の価値は、誰かに管理されることで生まれるものではないわ」


エリシアが、セレスを射抜くように見る。

「……補佐の方ですか。随分と口が回るのね」


「当然よ。この街の『頭脳』を預かっているもの」


火花が散る知性の衝突。

その横で、リーヴが吐き捨てるように言った。


「婚姻だの血だの、ふざけたことを。……気に入らねぇな。あんた、ここが戦場なら今すぐ斬って捨てているところだぞ」


「……あら。既に『深い関係』の方がいらっしゃるようね。野蛮ですが、絆は強そうだわ」


エリシアが軽く流すと、リーヴの眉がピクリと動いた。

「……関係だと? 貴様、妙な邪推をするな!」


「どうだか」


エリシアは姿勢を正し、冷徹な政治家の顔に戻った。


「ですが、オルシェ殿。……個人的な感情はさておき、本題はここからです。あなたが孤立を選ぼうとも、世界はあなたを放っておかない」


空気が、物理的な重さを伴って変わる。


「“北方連合”の名をご存知ですか?」


セレスの表情が、初めて微かに強張った。

「……隣接する三つの帝国が結んだ、軍事国家連合ね。王都の書庫で見たことがあるわ」


「ええ。その北方連合が、あなたの領地を明確な『敵』と認識し始めています」


エリシアの声は低い。


「理由は単純。急成長しすぎた。不気味なほどの発展を遂げ、既存の軍事バランスを崩す存在は、帝国にとって排除すべき『癌』なのです。既に、軍の動員が始まっているという情報も入っています」


沈黙。

これまでの「領地争い」や「賊の襲撃」とは、次元が違う。国家単位の暴力。


「規模はどの程度だ」


「国家レベル、数万の軍勢。そして……それを率いるのは、帝国の『三本指』と呼ばれる、本物の魔導将軍たちです」


エリシアはオルシェを見据えた。


「これでもまだ、一人で戦うと仰るのですか?」


オルシェは、高く昇った太陽を、眩しそうに見上げた。

数万。魔導将軍。

それは、一介の転生者が立ち向かうには、あまりに巨大すぎる壁に見えた。


だが。


「……なるほどな。やっと、この世界の『真打ち』が出てきたか」


オルシェは、不敵に笑った。


「怖くはないのですか? 誇りだけで、この街の民を道連れにするおつもり?」


「怖いかどうかじゃねぇ。来るなら――ただ、返り討ちにして潰すだけだ。俺たちの『循環』の中に、帝国の資源も放り込んでやるよ」


沈黙。

エリシアは、信じられないものを見る目でオルシェを凝視し、やがて、くすりと笑い声を漏らした。


「……やはり面白い。これほどまで、常識の外側にいる方とは。交渉は、続けさせていただきます。……あなたが滅びるその瞬間まで、ね」


そう言い残して、エリシアは馬車へと戻った。一行が去り、街に静寂が戻る。


「……面倒なのが来たな。政治も、帝国も」


リーヴが苛立ちを隠さずに言う。


「だな。……だが」


オルシェは、防壁の先にある地平線を睨み据えた。


「面白くなってきた。……俺たちが築き上げた仕組みが、国家という巨大な装置にどこまで通用するのか。試してやろうじゃねぇか」


セレスが、隣で静かに手帳を開く。

「戦略の書き換えが必要ね。北方連合……帝国の三本指。……完璧に解析して、彼らの命をこの街の糧に変えてあげましょう」


オルシェは、静かに頷いた。

国家。軍隊。魔導将軍。

巨大な脅威が、地平線の向こう側で胎動を始めている。

だが、オルシェの瞳には、絶望の影は微塵もなかった。


「ここからが、本当の『大陸制覇』の始まりだな」


風が、戦いの匂いを運んでくる。

異世界の片隅に生まれた特異点は、ついに世界そのものとの全面対決へと足を踏み出した。

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