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鑑定スキルで全てを最適化したら、最弱の村が国家になりました  作者: 慈架太子


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16話:経済スタート


――それは、予想よりも遥かに早く、そして巨大なうねりとなって押し寄せた。


「……多すぎるな。昨日までの報告とは桁が違うぞ」


見張り台の上、リーヴが苦々しく、しかしどこか圧倒されたように呟いた。

彼女の視線の先。地平線から村へと続く一本の道が、まるで黒い河のように人の群れで埋め尽くされていた。


《広域鑑定:起動。群衆の解析を開始》

・推定人数:1042名

・構成:近隣諸国からの棄民、生活基盤を失った難民、および噂を聞きつけた移民希望者

・状態:深刻な疲労、慢性的飢餓、将来への強い不安。しかし、暴動の兆候はなし。


「……一気に来たな。バルドの奴、商売のついでに宣伝しすぎだろ」


オルシェは低く息を吐きながら、迫りくる群衆を見つめた。

原因は明白だった。バルドの商隊が持ち帰った「高品質な素材」、そして「腐らない肉」。そこから逆算される「食える村」「守られている安全な場所」という噂が、飢えと魔物の脅威にさらされていた人々を惹きつけたのだ。


「……どうする、オルシェ。1000人を一度に受け入れれば、食料も住居もパンクするぞ。追い返すか?」


リーヴが大剣の柄を握る。それは非情な決断を下す準備だった。

だが――。


「いや、全員受け入れる」


オルシェは迷わなかった。


「ただし、条件はひとつだ」


オルシェは防壁の上に立ち、集まった群衆を見下ろして、魔力を乗せた声を響かせた。


「よく聞け! ここは楽園じゃねぇ! 誰かに養ってもらうための避難所でもねぇ! ここは“生きる場所”だ! 働かない奴に食わせる飯は一粒もねぇ。だが、やる気があるなら――老若男女問わず、全員受け入れる!」


一瞬の静寂。

泥にまみれ、疲れ果てた人々が顔を上げる。

彼らが求めていたのは、施しではない。自分たちの手で「明日」を掴み取れるという、確かな機会だった。


「……やります。何でもやります!」


最前列の男が叫んだ。それが導火線となり、地鳴りのような「働く!」という意志の声が草原に響き渡った。


「決まりだな。……セレス!」


「ええ、待機していたわ」


背後から、事務机とペンを手に持ったセレスが現れる。その瞳は冷徹なまでの「管理官」の輝きを放っていた。


「全員、一分以内に振り分けるわ。リーヴ、自警団を使って列を整理させて。……さあ、ここからは時間との勝負よ」


狂乱のオペレーション:1000人の組織化

そこからのセレスの働きは、まさに「人外」だった。


「お前、名前は?」

「……カイルです」

「前職は?」

「農家を少々」

「農業班、ロイのところへ行きなさい。次!」

「裁縫が得意です」

「織物班、サラの下へ。次!」

「戦ったことはある?」

「……村の自衛で少し」

「リーヴの自警団補助へ。次!」


淀みない質問、迷いのない判断。セレスはオルシェの指導によって「組織構造の最適化」を脳内に構築していた。

彼女にとって、1000人の難民はもはや「可哀想な人々」ではなく、村という巨大な機械を動かすための「新しい部品」に見えていた。


「……信じられん。あの事務処理能力、魔術戦より恐ろしいな」


リーヴが呆然と呟く横で、オルシェもまた動いていた。


「居住区が足りねぇな。……拡張するぞ。ダン、集まれ!」


《指導:土木・建築術式。大規模展開》


「範囲を今の5倍に広げる。防壁も外へ押し出すぞ。全員、地面に魔力を通せ!」


1000人の新入住民。彼らの中にも、オルシェの教育を即座に施された「魔力循環者」が増えていく。

数百人が一斉に地面に手をかざすと、土が生き物のように盛り上がり、瞬く間に新しい外壁が築かれていった。


「集合住宅を作るぞ。個別の家じゃ効率が悪ぃ。複数階建ての『アパートメント』だ!」


木材、土、石。

素材はアーマーリザードの襲撃で得た潤沢な資金でバルドから買い叩いていた。

ダンの指揮下、巨大家屋が次々と並び立つ。

昨日まで野宿をしていた難民たちは、自分たちが今日寝る場所を、自分たちの魔力で作り上げるという奇跡に涙した。


「これで全員収容できる。……次は、胃袋を満たして経済を回すぞ」


市場の誕生と星天商会

人が増えれば、需要が生まれる。

需要が生まれれば、市場が動き出す。


オルシェは広場に「店」の概念を導入した。

これまで「配給」だった食料を、余剰分については「通貨」または「労働ポイント」でやり取りさせる仕組みだ。


「野菜だ! 朝採れの新鮮なやつだぞ!」

「魔物肉の串焼きだ! 力がみなぎるぞ!」

「スープ、できたてだ! 1ポイントでいいぞ!」


広場には即席の露店が並び、活気が爆発した。

働いて得た権利で、好きなものを食べる。その単純な喜びが、村の士気を天を突くほどに高めていく。


「……ふむ。これは、思った以上の速度だな」


人混みの影から、聞き慣れた落ち着いた声がした。


「バルドか。また来たのか」


「ああ。金貨500枚分の素材を売り捌いたら、投資家たちが黙っていなくてね。……だが、まさか数日で人口が10倍になっているとは」


バルドは、もはや「村」と呼ぶには巨大すぎるその景色に、商人の嗅覚を最大に働かせた。


「オルシェ殿。提案がある。私はこの地を拠点に商会を立ち上げる。王都や他領との交易、すべてを一手に引き受けよう」


「いいだろう。お前なら信用できる」


「商会の名は――『星天商会』。この地に輝く、希望の星となるように」


セレスが横から口を挟む。

「いいわ。その商会、帳簿の管理方法はこちらの指定に従ってもらうわよ。複式簿記の概念を教えるから」


バルドは、見たこともない会計理論を提示され、目を白黒させながらも、その巨大な利権に震えるような笑みを漏らした。


究極のインフラ:十連大浴場

「最後だ」


オルシェが言った。


「風呂を、今の10倍に増やす」


「……またか? 貴公、どれだけ風呂が好きなんだ」


リーヴが呆れ顔で言うが、オルシェは真剣だった。


「1000人だぞ? 清潔を怠れば疫病が出る。一人が死ねば、この町は一瞬で崩壊するんだ。……10軒、巨大な公衆浴場を作る」


大規模な配管工事。

魔力によって熱せられた湯が、石造りの浴槽へとなみなみと注がれる。

それはもはや村の設備ではなく、都市のインフラだった。


「すげぇ……」「こんなに広いのか!」


新しい住民たちが、おずおずと湯に浸かる。

熱い湯が、彼らの凍てついた心と、逃避行でこびりついた汚れを溶かしていく。


「……あぁ……天国だ……」

「生きてて良かった……本当に……」


あちこちから漏れる溜息と笑い。

湯気の中に浮かぶ笑顔。

その光景を見て、リーヴも、セレスも、ダンも、確かな手応えを感じていた。


夕暮れ時。

かつては数軒の家しかなかった荒野に、1000人の灯火が輝いていた。

広大な農地、堅牢な五重の壁、そして活気あふれる市場。


「……もう、村じゃねぇな。立派な『町』だ」


誰かが呟いた。

その言葉を肯定するように、風が新緑の香りを運んでくる。


「いや、まだ途中だ」


オルシェは、暮れゆく空を見上げて小さく笑った。


「ここから、もっと面白くなるぞ。……俺たちの『国』は、まだ産声を上げたばかりなんだからな」


その日、名もなき集落は歴史から消え、新しい都市――希望の都が産声を上げた。

オルシェの覇道は、経済という翼を得て、さらなる高みへと羽ばたいていく。

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