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鑑定スキルで全てを最適化したら、最弱の村が国家になりました  作者: 慈架太子


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1話:異世界覚醒と死の包囲

――視界が、白く弾けた。


意識が遠のく直前まで耳に残っていた街の喧騒、アスファルトを叩く雨音、そして唐突な衝撃。それらすべてが嘘のように、次の瞬間、オルシェは柔らかな草の匂いに包まれていた。


「……は?」


重い瞼を押し上げ、見上げた空はやけに青い。雲の形も、空気の透明さも、どこか作り物みたいに綺麗だった。静かすぎる。車の音も、機械の音も、遠くで鳴り響くサイレンの音すらない。


「……ここ、どこだよ」


身体を起こした瞬間、ゾッ、と背筋に冷たいものが走った。野生の勘など持ち合わせていないはずの現代人であるオルシェが、直感した。


囲まれている。


ゆっくりと首を巡らせる。そこいたのは、狼だった。だが、ただの狼じゃない。体長は軽く二メートルを超え、背中の毛は針のように逆立ち、牙は異様に長く、目は血を啜ったかのように赤く濁っている。


――五体。


フォレストウルフ。


頭の中に、知らないはずの単語が、まるで最初からそこにあったかのように浮かんできた。


「冗談だろ……」


武器はない。知識もない。戦い方なんて、当然知らない。逃げる? 無理だ。完全に包囲されている。それもただ集まっているのではない。軍隊のように統率され、連携していた。


右の一体が低く唸り、左の二体がじりじりと距離を詰める。残りの二体は後方に回り込み、逃げ道を完全に塞いでいた。絶望が喉元までせり上がる。


(終わりか……。せっかく、こんな綺麗な場所に来たってのに……)


諦めが頭をよぎった、その瞬間だった。


視界の端に、ノイズのような光が走り、文字が浮かんだ。


《鑑定スキルが起動しました》


「……は?」


次の瞬間、世界が変質した。モノクロだった世界に色彩が爆発し、あらゆるものに意味が付与されていく。


《対象:フォレストウルフ》

個体数:5

脅威度:中(現在のあなたでは極めて危険)

行動パターン:集団連携型(包囲→撹乱→急襲)

弱点:側面後脚関節/喉部(防御低)

注意:一体がフェイント、二体が同時攻撃、残りが回り込み


《推奨行動》

1.正面の個体に石を投擲し注意を引く

2.左側へ移動(0.8秒以内)

3.回り込む個体の死角へ

4.単体を分断し各個撃破


「……なんだこれ」


頭の中に響く声じゃない。視界に情報のレイヤーが重なっている。まるで、ゲームのUIみたいに。だが、それらはあまりに現実的で、冷徹なまでに正確だった。


動きの予測、時間の指定、弱点の位置。すべてが具体的すぎる。


「……やるしかない、か」


死を待つだけなのは性に合わない。オルシェは震える手を抑え、足元にあった拳大の石を拾った。狼たちが一斉に牙を剥く。喉を鳴らし、飛びかかる寸前の筋肉の強張りが視認できる。


来る。


だが、その瞬間――


《0.3秒後、正面個体が突進》


見えた。未来が、ほんの一瞬だけ。


「――っ!」


全力で石を投じる。狙う必要はなかった。鑑定が示した軌道に沿って腕を振るだけだ。石が狼の鼻先を掠め、一瞬の動揺を生む。


同時に、身体を左へ滑らせた。ほぼ言われた通りに、思考を介さず反射で動く。


次の瞬間、さっきまで自分がいた場所を、巨大な牙が空を切り、空気を噛み砕く音が響いた。


「マジかよ……!」


驚愕に浸る暇はない。止まれば死ぬ。


《左後方個体、接近中(1.2秒)》


視界が膨大な情報で埋まっていく。風の向き、狼の重心、自分の体力の残量。だが、不思議と混乱はなかった。むしろ、脳が異常な速度で情報を処理し、世界がスローモーションのように感じられる。


「こっちだろ……!」


地面を強く蹴る。狼の巨体がすれ違う瞬間の熱気を感じながら、その背後へ回り込む。一瞬の隙。そこだけが、やけに薄く、脆弱に見えた。


《弱点部位:喉部》


「――ここだ!」


オルシェは全体重を拳に乗せ、喉元を突き上げた。バキッ、と生物のものとは思えない嫌な音が手に伝わる。あり得ない。ただの素手で、これほど強靭な魔物を倒せるはずがない。


だが、一体の巨狼が断末魔すら上げずに崩れ落ちた。


「……いける」


肩で息をする。心臓がうるさいほど脈打ち、恐怖は消えていない。それでも、勝てるかもしれないという確信が、冷たい炎のように胸の中で灯っていた。


《残り:4体》

《勝率:12% → 38%》


「上がってんじゃねぇか……!」


乾いた笑いが漏れた。恐怖と興奮が混ざり合い、感覚が研ぎ澄まされていく。一人が殺されたことで、狼たちの動きが変わった。無謀な突進を止め、より慎重に、より残虐に。


だが、それすらも。


《行動変化:慎重化 → 連携精度低下。各個撃破の好機》


見える。奴らの迷いも、次の狙いも、すべてが情報の断片として提示される。


「なら――やることは一つだ」


オルシェは再び拳を握りしめた。武器も、この世界の理もまだ知らない。だが今は、目の前の死を回避し、生き延びることだけが正義だ。


「――勝つまで、やるだけだ」


次の瞬間、彼は自ら死の包囲へと駆け出した。情報を武器に、確定した未来を書き換えながら。


森の奥で、獣の悲鳴が再び響き渡った。





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